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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
次元連合警察局
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強襲

 テロリストの拠点を制圧する事になった。俺はシャーラと組んで行動するのだが、毎回一緒な気がするので聞いてみた。


 「ハヅキとイザベラの監督は私がしてるから」


 俺達の責任はシャーラが取る立場にあるので、一緒に行動するのはその為との事だ。


 「シャーラが一緒の理由は分かったが、俺達は2人だけで向かうのか?」


 「一応、サポートで何人かついてくれるけど基本は2人で対応する事になるね」


 「他は3〜4人なのに、何で俺達は2人なんだ?」


 「それは……戦力のバランス?」


 それだけでは無い気がするが考えても仕方無い。シャーラがいれば問題は無いだろうし、詳細を確認する。


 今回の制圧作戦は、複数の拠点を同時に攻撃する必要がある。場所は街中から森や砂漠の荒野など、世界を超えて点在している。


 テロリストとしての規模はかなり大きい様で、他のテロ組織との繋がってる恐れもある。


 「こちらの作戦に対して反撃してくる可能性も十分にあるので、その場合は即座に撤退します」


 その後も話を詰めていく。俺達の担当は別の世界にある山岳部に設けられた拠点だ。移動時間が掛かるので、他のメンバーより早く向かう必要がある。


 「準備が出来たら連絡するから、それまではいつも通りで大丈夫だよ」


 「分かった、何かあったら連絡してくれ」


 俺は会議室を出てイザベラを迎えに行った。



 ◇



 9日後、俺達は次元世界アルバートにあるテロリストの拠点近くにある集落に来ていた。この集落の後ろには山脈が聳え立っている。標高も高く、山頂部は雪が積もって白くなっている。


 その山肌に張り付くように建てられた山小屋が目的地だ。支援役の職員達と別れて裾野に広がる森に入って行った。


 大きな石が散乱する登山道を強化魔法を使って進んで行くと、目的の山小屋が見えてきた。山小屋の周りには植物は生えておらず、岩肌がむき出しになっている。周囲に人の気配は無いし、登ってくる時も人とすれ違う事は無かった。


 俺達は山小屋から離れた所で、森の木々で姿を隠している。実行は明日の予定なので丸1日、この森で時間を潰す事になる。


 「森の中で明日まで待機か」


 「けっこう、しんどいな」


 俺は旅慣れているから平気だが、シャーラは辛いだろう。魔法でなら空間を整えられるだろうが、感知される恐れがある。ここは我慢して貰うしか無いだろう。見張りは時間を決めて交代で行う事にした。俺が先に見張りについてシャーラを休ませた。


 登山者を装っているので装備は一通り揃っている。広げた寝袋の上に体を寝かせて、布を掛けて休息を取り始めた。


 深夜まで登山道を見張っていても、人が通る事は無い。魔法を使っている様子も無いので、暗い山小屋が佇んでいるだけだった。


 交代の時間、シャーラが起きてきた。顔には疲労の色が少し残っている。訓練していると言っても自然の中での潜伏訓練などはしていないだろう。


 「大丈夫か?」


 「うん、大丈夫」


 見張りをシャーラにませて休息を取る事にした。休息と言っても深く眠る事はなく、横になって仮眠を取る程度だ。休んでいると、小さな魔力の気配を感じて目を開ける。


 香水の残り香の様な薄い気配だが、薄すぎて逆に不自然だ。その気配は上空から降りてきた。シャーラの横に移動すると声を潜めて話しかけた。


 「こんな夜更けにわざわざ空から来るのは怪しいな」


 気配の主はフード付きのローブで体を隠しており、周りを警戒している様だった。その見た目は、護送任務の時に戦った襲撃者と同じだ。


 その人物は、周りを何度か見回しながら山小屋に入って行った。しかし、山小屋に光は付かなかった。


 行動に怪しさが残る中、襲撃の時間が近づいてきた。複数の世界に跨がるテロリストの拠点を同時に制圧する都合上、現地の時間はバラバラになる。


 魔法で相手に気付かれない様に連絡を取りながらタイミングを合わせる。突入の合図はシャーラに任せて、俺は体勢を整える。


 「3、2、1、突入」


 シャーラの合図で山小屋に入るが誰もいなかった。部屋の全てを探すが裏口も無く、移動用の魔法も確認出来なかった。


 部屋を物色していくがテロリストに関する資料は出て来ない。シャーラの方も山小屋のシステムにアクセスして調べたそうだが何も得られなかった。


 「入って行った人がおれへん、何でや?!」


 「隠れている様な気配も無いな」


 幻術の類も考えたが、魔法の痕跡は小さく可能性は低いだろう。再度、部屋を物色する中で飾られている人形に違和感を覚える。


 人形を調べてみると微かに魔力が残っていた。その人形は精巧に作られているが、手に伝わる冷感から陶器だと判断できる。


 「これ、魔法具だな。正体はこれか」


 「それが? いくら人形を使っても無理があるんとちゃう?」


 「表面に術式が掘ってあるな」


 ブリュンヒルデにスキャンして貰ったら、人形の各部に見えにくいように彫刻が掘られている。この彫刻が術式になって魔法を起動させたのだろう。


 身につけていたローブには魔力を遮断する効果があるから、さらに感知が難しくなったのも分かなくなった原因だろう。


 広域スキャンで山小屋を含めて周囲を探ってみると、地下室が見つかった。通路は大型テーブルの下に隠すように設置されていた。


 地下室に降りてみると金属製の箱が積まれている。箱を開けてみると中には石が詰め込まれていて、目ぼしい物は入っていなかった。


 「石が入った箱って、意味あるん?」


 「俺達みたいな連中を引き付けておく為の物だろう」


 「この拠点はハズレやね」


 地下室を出たシャーラが他のメンバーに連絡を取っている間、俺はもう1度山小屋を調べる事にした。空のクローゼット、埃の被ったキッチン、整えられたベッドと異変は見当たらない。


 ふと天助を見上げると、板張りしているのに気づいた。


 (こういう小屋の天井で板張りは珍しいな)


 そう考えていると、天井から魔力が溢れ出してきた。慌ててシャーラを連れて窓を割って飛び出すと大爆発を起こした。山小屋は跡形無く吹き飛び、炎が立ち上っている。


 「何で爆発したん?!」


 「中で誰かが魔法を使うと起動する様に仕掛けてあったんだろう」


 トラップの場所は天井裏だろう。しかも、それなりの魔力量がある魔導師で無ければ起動しないように調整されていた。俺達が来る事が分かっていたみたいだ。


 「他のメンバーと連絡はついたのか?」


 「うん。他も今の所、空振りみたい」


 どうやら、拠点のダミーを掴まされた様だ。シャーラが状況を報告していると突然表情が変わった。コルザが当たりを引いたらしい。


 「コルザの担当してる拠点に集合や」


 山小屋の消火を終えると、支援役の職員に引き継いだ。ここからコルザのいる場所までは航行艦を使う必要があるので、移動には丸1日以上掛かる。


 拠点にいたテロリストとの戦闘が始まっているので、正規の移動ルートでは間に合わない可能性が高い。


 「コルザにも支援役の職員が付いてるんだよな? この魔法陣を床に映し出すように伝えてくれ」


 シャーラのデバイスに魔法陣のデータを転送する。受け取ったシャーラは支援役の職員に連絡を取って事情を伝えた。


 「この魔法陣って……」


 「召喚用の魔法陣だ。移動するぞ」


 シャーラを抱き寄せて魔法陣を展開すると魔力を流し込んだ。魔法陣に刻まれた術式に従って召喚魔法が起動すると、俺達は光に包まれた。


 光が晴れるとコンクリートの建物の中にいた。近くには連絡を取っていた支援役の職員が立っている。状況を聞き出して建物から出ようとした瞬間、低い爆発音が響いた。


 建物の外には同じ様な見た目の建物が並んでいるが人の姿が全く無い。どうやら破棄された都市の様だ。爆発音はコルザのいる方から聞こえてきたので、シャーラと共に急いで向かった。


 向う方向から焼き尽くす様な魔力の気配が漂ってくる。目的地の近くまで来ると、その光景に愕然した。


 「うそやろ?!」


 最初に目に飛び込んで来たのは、視界を覆う程の火の海だ。大地は泡立ち、黒い煙が各所から登っている。護送任務の時とは比べ物にならない程の大火災に呆然とするシャーラを叩き起こす。


 「呆けてる場合か?!」


 「あっ?! ごめん!」


 障壁で身を守りながら炎の中に突入するが、炎が障壁を焼いていく。くウォルフの〈ひがくれるとき〉だと確信したので、魔法の出力を上げて上位の防御魔法を起動する。コルザも心配だがシャーラも障壁を焼かれて火傷を負っている。


 「ちょっ?!」


 「その状態で探すのは無理だろ?」


 火傷を負ったシャーラを抱きかかえると、治癒魔法で治療した。そしてシャーラを抱えたままコルザの捜索を再開する。


 「私は大丈夫やから」


 「この炎を防げてないだろ」


 シャーラの魔法では炎を防ぐ事は出来ていない。待っていろ、と言っても聞く気は無いだろうから抱えて飛ぶしか無い。


 炎の魔力が充満しているせいでコルザの魔力を探れない。探索魔法も炎に焼かれて機能しないので目視で探すしか無い。


 炎をかき分けながら地上近くを飛行すると、微かに魔法の起動を感じた。その方向へ向かってみると、穴の空いた結界が張られていた。


 結界の中には黒く焼け焦げた物体があった。それは辛うじて人の形を保ったコルザだった。微かに息があり、消え入るような声を発していた。


 「コルザ!!」


 シャーラが俺を振り払ってコルザに近づいた。自身の体が焼けるのも気にせず治癒魔法を掛けるが、炎に焼かれて殆ど機能していない。


 コルザのデバイスが辛うじて結界と治癒魔法を維持しているが、コルザ本人は既に限界だ。デバイス自体も外装は完全に溶けている。


 「ブリュンヒルデ、結界と生命維持を任せる」


 『了解』


 ブリュンヒルデが結界を張り、治癒魔法を起動させる。ブリュンヒルデの上位結界なら炎に耐えられるだろう。その間に俺は1枚の羽を取り出した。


 鮮やかな朱色が虹色に光る羽をコルザの上に置き、呪文を口にする。羽の持ち主から教わった"あらゆる病傷を治癒させる"魔法の呪文。


 呪文に反応して羽が炎を上げて燃え上がり、結界内を満たして行く。その炎は鮮やかオレンジ色をしており、熱さは感じなかった。


 焼け爛れて炭化したコルザの皮膚に炎が触れると、血色の良い肌色に変化した。その炎は消える事なくコルザを包み込む。


 「何が……起きてるん?!」


 炎はコルザの手足があるであろう部分で激しく燃え上がると、陽炎の中から手足が出現した。現れた手足はコルザと繋がっており、傷跡は全く見当たらなかった。


 炎が収まると、傷一つない5体満足のコルザが横たわっていた。しかし、治癒されたのは肉体のみなので、髪の毛はなく裸である。


 「シャーラ、服持ってるか?」


 「ちょっと待って」


 シャーラがコルザのデバイスを操作して、コルザに戦闘服を着せた。これは服そのものが魔法なので破損しても魔力があれば修復出来るそうだ。


 治療の終わったコルザとシャーラをその場に残して、炎の中から生き残りの職員がいないか探索する。しかし、燃える大地の全域を探索したが発見出来なかった。


 「一通り見てきたけど生き残りはいない様だ。消火しても良いか?」


 「お願い」


 連立起動魔法〈うみがとじるひ〉で炎で焼かれた大地を消火・凍結させて行く。赤く泡立つ大地は冷やされて黒く染まって行った。


 炎が消えたのを確認するとシャーラはどこかと連絡を取っている。恐らく、支援役の職員や他のメンバー、警察局等に報告を入れているのだろう。


 傷は治ったものの、髪の毛が無い頭は目立つので手持ちの布で巻いておいた。違和感はあるだろうが丸見えよりはマシだろう。


 暫くすると支援役の職員達が到着したので状況を報告する。増援が来るのは最短でも2時間は掛かるそうなので待つ事にした。


 待っている間にコルザが目を覚ます。初めは朦朧(もうろう)としていた意識も次第に明確になり、炎に焼かれた時の事も思い出していた。


 「私、相手の魔法を受けて……」


 「全身、大火傷で危なかったんよ」


 シャーラが瀕死のコルザを見つけた辺りから説明を始めた。その内容に驚いており、手足を動かして確認している。


 「戻ったら検査してもらうように。あと、治療に使った羽はもう無いから次は助けられない」


 「分かった、ありがとう」


 体に違和感は無いか聞いたが問題は無さそうだった。髪の毛の事を伝えると、命が助かっただけで十分と返された。


 そうして話している内に2時間ほどが経ち、増援の職員達が現れた。状況説明は済んでいるが、確認を兼ねて再び説明を行う。その後、コルザは救急車と思われる車に乗せられて運ばれていった。


 コルザを見送ってからは凍った大地から、コルザと一緒に行動していた職員達の痕跡を探す。時間が経って氷が溶け始めている為、地面には水たまりが出来ている。


 探索魔法を使った探したが見つからなかった。チームの中で一番ランクの高いコルザが瀕死になっていた事を考えると、他の職員達は絶望的だろう。

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