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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
ボトル・プラント
32/61

盗賊

 翌日も街のマッピングの為にローニ達と共に外へ出た。


 「今日は南側へ行ってみない?」


 「そうだな、案内を頼むよ」


 ローニ達に連れられて街の南に向かって歩いていく。しばらくマッピングを続けていると干上がった川についたので、魔法で水を出して少し休憩する。


 「そろそろ戻るか」


 「早くない?」


 「今日の目的は盗賊だからな」


 ローニ達に近寄って貰い隠蔽の魔法を掛ける。この魔法は半円状で中にいる人間を隠す効果がある。魔法を維持したまま避難所にゆっくりと戻る。


 「近くに隠れよう」


 「魔法で隠れてるんだから、これ以上隠れる必要なくないか?」


 「万が一盗賊とぶつかったらバレるだろ?」


 ヘジンの質問に応えると納得してくれた。手近な建物に入って崩れた壁の隙間から拠点を見張る事にした。少しすると避難所からヘズとセックが出て来た。


 「今の、ヘズとセックよね?」


 「どこ行くんだ?」


 30分程すると10人の集団がヘズとセックに案内されて、街の奥から現れた。汚れた鎧を着ている者や杖を持ちローブを着る者もいた。


 「当たりだな」


 盗賊が姿を現したことで、ヘズとセックが内通者であると確定した。


 「せっかくハヅキが分けてくれたのに横取りするなんて許せない」


 「ぶん殴ってやる」


 「横取りした食べ物、絶対に返してもう」


 大声を出せば気づかれるので、ローニ達が静かに小声で怒っている。


 身につけている鎧やローブから国の騎士や魔道士である可能性が高い。イザベラとローニ達をその場に残して俺だけ隠蔽魔法から出る。


 「誰だ?!」


 「ハヅキ?!」


 「名前は確か、ヘズにセックだったかな? ぞろぞろと引き連れて何事かな?」


 少し威圧を込めて2人に質問すると、盗賊の1人で鎧を着た男が割り込んで来た。


 「お前がハヅキか、随分と食料を貯め込んでるみたいだな。素直に渡せば、命は助けてやる」


 「断る」


 「そうか。なら、力づくで奪うだけだ!」


 盗賊が2人、襲いかかって来た。攻撃を躱しながら相手の勢いを利用して投げ飛ばす。勢い良く突進して来たので良く飛んでいく。


 「ちっ! 魔法を使え!」


 「〈火球(イーデュラ)〉!!」


 ローブを着た男が魔法を使うと、周りに5個の火球が出現した。男が杖を振ると火球はこちら目掛けて勢い良く飛んで来た。


 手元に出した杖に魔力を込めてコーティングし、火球を叩き落とす。魔力に差があれば魔法を使わずに防ぐ事も出来る。


 「杖で落としただと?!」


 「上級魔法でねじ伏せろ!!」


 「詠唱に時間が……」


 「俺も出る!!」


 鎧を来た騎士風の男がリーダーなのだろう。鎧の男が剣を抜いて切り掛かって来た。1歩横にずれて剣を躱すと、掌底で顎を撃ち抜いた。


 「ガハッ!」


 鎧の男が後ろによろけたので、そのまま魔法で弾き飛ばす。受け身を取れず数回転がった後、動かなくなった。


 「あんなアッサリ?! だが、魔法は完成した! 〈燃え上がる炎(フレメンディ)〉!!」


 俺の周りで炎が燃え上がり、巨大な火柱に包まれた。炎はオレンジ色に輝いており500〜700℃は出ている様だ。魔法の使えない相手には十分な威力と言える。けど、俺を焼き殺すには火力が足りない。


 「風よ」


 そう呟くと風が吹き荒れ、竜巻となって炎を呑み込んでいく。全ての炎を呑み込んで消し去ると、竜巻も消えて無くなった。


 「俺の……炎が……?!」


 「悪いな、火力不足だ」


 「くそっ! これなら! 〈巨大な炎(エノールン・フランメ)〉!!」


 男はローブの袖口からカードを取り出すと、魔法を宣言した。すると、カードは光りだし俺の周りに再び炎が出現した。どうやら取り出したカードは、魔法を記録するか、起動を早くするための魔法具の様だ。


 炎は輝きを増し、オレンジから赤に色が変わりながら空へ昇っていく。強くなる熱気が炎が放つ高温を物語っていた。


 「〈烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〉!」


 疾風一陣。風の魔法剣で燃え上がる炎の柱を切り裂いた。自身の最大魔法が通じないと知って、その場で崩れ落ちるローブの男。後ろにいた6人の取り巻きは、戦いには参加せずに見ているだけだった。


 「どうする? お前らも戦うか?」


 「い、いや……俺達は……」


 「戦わないなら、そこの4人を連れ帰ってくれるか?」


 「はい!!」


 強めの威圧を込めると、取り巻きは気を失っている鎧の男を抱え上げて走り去っていった。ローブの男と投げ飛ばされた2人は自分の足で逃げていった。ヘズとセックも、いつの間にかいなくなっている。


 「少しは懲りてくれると良いが。終わったぞ」


 盗賊達がいなくなったのを確認してから隠蔽魔法を解除すると、崩れた壁の後ろからローニ達が出て来た。走って近づいてくるイザベラとローニ、その後ろから恐る恐ると言った雰囲気で付いてくるヘジンとリーヴ。


 「やっぱすごいね! ハヅキって!」


 「すごい」


 「ありがと」


 褒めてくるローニは何故か笑顔だった。自分の事では無いだろうに。イザベラも褒めてくれたので、2人にお礼を返す。


 「ハヅキって、あんなに強いのか?!」


 「あのローブ男って大魔法使いだよな?!」


 「そうなのか? こっちのレベルが分からないから何とも言えないが……」


 「魔法の規模が大きかったから、腕は良いと思う」


 ローニ達も魔法には詳しく無いそうで、返事が曖昧だった。帰ってフロージ達に聞いてみる、と言う事で纏まったので避難所に戻る事にした。


 「ただいまー」


 「おかえり、探索にしては早いな。何かあったのか?」


 「それが……」


 ローニが探索に見せかけて盗賊をおびき出した事、ヘズとセックが内通者だった事、盗賊を追い払った事をアンナルに話した。


 「ヘズとセックが……。残念じゃが、そういう事なら仕方ないな」


 「相手も相当強かったと思うんだけど、ハヅキが圧倒しちゃってて」


 「話の内容から、最低でも中級位の魔法使いじゃろう」


 アンナルの話では、この国の魔法使いは大まかに「下級位」、「中級位」、「上級位」の3つに分けられるそうだ。「中級位」以上の資格を取れば、軍部でも役職に昇進できる程だそうだ。


 「それだけの力があって、何で盗賊なんか……」


 ローニが呟く中、フロージ達が帰ってきた。探索に出ていた様だが、成果は無かったと両手を上げて苦笑いをしている。


 「どうしたんだ、ローニ?」


 俺はアンナルにも話したことをフロージ達にも話した。フロージ達は驚いていたが、どこか納得した様な雰囲気だ。


 「ハヅキがそんなに強いってのは聞いてた事もあって驚きは少ない。盗賊の気持ちも分からなくは無い」


 「なんで?!」


 フロージの言葉にローニが突っかかる。


 「力が有ることで保証を得られたのは国があるからだ。けど、保証してくれる国はもう無い。戦う力があっても食べ物を生み出せる訳じゃない」


 「そう……だけど……」


 ローニは、フロージの言葉の意味が理解できるからこそ行き場のない思いを持て余している。この国を襲ったのはロボットだ。ロボットは金属の塊で、倒しても食べる事は出来ない。仮に魔獣に襲われたのなら、倒して食べる選択も取れたかも知れない。


 「ハヅキに聞きたい事がある」


 「なんだ?」


 「旅をしてるんだろ? いつまで、ここにいるんだ?」


 フロージの質問に周囲が静まる。さっきまで雑談に興じていた他の人達も、話すのを辞めて俺の方を見ている。


 「特に決めてない。ただ、近い内に王都の状況を見てみたいと思ってる」


 「そうか、予定が決まったら教えてくれ」


 「分かった。それじゃ、夕飯まで外で魔法の練習をしてくるよ」


 そう言ってイザベラと外に出た。昨晩も使った壁を的にイザベラの魔法練習を始めた。


 

 ◇



 「ハヅキ、いなくなるのかな?」


 「旅をしてると言っておったし、仕方ないじゃろ」


 「でも、ハヅキがいなくなったらどうするの?」


 「……儂らには引き止める事は出来んよ」


 引き止めたいローニに対して、アンナルが諭すように伝える。他の人達もハヅキがいなくなった後の事について話している。



 ◇



 「昨日より出せる数が1つ増えたな」


 息を切らして肩で息をしながら戻って来るイザベラを褒める。荒い呼吸の中でも笑顔になった。


 「なにしてるの?」


 「魔法の人形を作ってる」


 俺は、イザベラの練習を見ながら人形を作っていた。材料となる土に水を混ぜてこねた後、形を整えて人型に整える。その人形に自分の髪の毛で札を巻きつける。 


 「どんな魔法?」


 「今は秘密だ」


 そう言ってイザベラに1枚の紙を渡した。この紙は鳥の形に切られていて、呪文が書いてある。


 「式神という魔法だ。魔力を込めると使い魔を作れる。やってみろ」


 「うん」


 イザベラが受け取った紙に魔力を込めると、紙は手のひらに乗るサイズの鳥になった。鳥は手の上で羽を動かしたり、毛づくろいをしている。


 「わぁ!」


 驚きながらも嬉しそうに小鳥を撫でているが、すぐに紙に戻ってしまった。


 「あっ?! 紙、破れてる?」


 「すぐに戻ったのはイザベラの魔力が少なかったからだな。式神は1枚の紙で1回しか呼べないから注意だ」


 式神の説明をした所で、鳥形の紙を10枚渡した。


 「今はこれだけしか無いけど、また作っておくから練習頑張れよ」


 「うん!」


 日暮れが近づいて来たころ、クレスから連絡が連絡が来た。


 『ー頼まれていた食料の準備が出来たよー』


 「分かった、送ってくれ」


 足元に巨大な魔法陣が出現して光出した。光が収まると、魔法陣が消えている代わりにダンボールが積み上げられていた。


 「地下室にいって皆んなを呼んできてくれ」


 イザベラに人を呼んできて貰う。地下室から出て来たアンナル達は、積み上がった箱を見て驚いていた。


 「なんじゃ、これは?!」


 「これ、紙の箱か?」


 「中身は食料だ。とりあえず、中に運んでくれ」


 アンナル達は積み上がった食料を倉庫に運んで行った。倉庫で検品を行い、箱に中身を書いていく。この世界の文字が分からないのでアンナルにお願いした。


 「すげぇ!」


 「空っぽの倉庫が一杯になった!」


 ローニ達は喜んでいるが、大人達は困惑している様子だ。


 「俺達の旅を支援してくれる人がいてな。その人に頼んで用意して貰った」


 「それって、前に言ってた"調べてくれる人"の事?」


 「そうだ」


 よく覚えてるものだ、とローニに感心する。


 「ハヅキ……」


 「とりあえず食事にしよう。考えるのはそれからだ」


 ローニ達に手伝って貰って夕飯の支度を進める。クレスが少量だけ生の果物を入れてくれたので、この食事で出してしまおう。


 「この果物って生よね?! 食べて良いの?!」


 「ああ、傷まない内に食べ切ってくれ」


 「やったー!!」


 ローニ達は素直に喜んでいるが、大人達は手をつけない。


 「ハヅキ、ワシらは……」


 「生きていれば辛い時も苦しい時もある。後悔で進めなくなる日もあるだろう。だからと言って止まっていられるほど人の寿命は長く無い」


 「……」


 「食料を取られた事を悔やんでるなら、俺は気にしない。旅をしていれば荷物を取られる時もある。申し訳ないと思う気持ちがあるなら、最後まで生き延びる事だ。それが、支えて貰った者達への最大の恩返しだ」


 「……すまない。いただこう」


 アンナルは目の前に置かれたスープ皿を手に取って食べ始めた。


 「温かい……。美味いのう……」


 「ハヅキ、ありがとう」


 「どういたしまして」


 ローニに言われて言葉を返す。


 アンナル達が食べ終わって、食器も片付けたタイミングで王都に向かう事を伝える。


 「そうか、行くのか」


 「食料はどのくらい持つ?」


 「節約すれば1ヶ月は大丈夫じゃ。世話になったの」


 「旅は道連れ、と言うしな。気にするな」


 アンナルに作って置いた人形を渡して、使い方を説明する。これは精霊を呼び出して従者にする魔法で、人形は依代(よりしろ)になる。依代がある方が、より強い精霊を呼び出せて、活動時間も伸ばせる。


 「そんな魔法があるのか?!」


 「中に魔石を入れてあるし、術式を刻んだ札を入れてあるから魔法が使えなくても呼び出せる。危なくなったら遠慮なく使え」


 「何から何まですまんな」


 「人が相手なら制圧出来るだろうけど、スレイプニルとかが相手だと時間稼ぎ位にしかならないから気をつけて」


 「分かった。……それで出発はいつになる?」


 「明日の日の出ごろには出るよ」


 「そうか」



 ◇



 「おはよう」


 「おはよう」


 翌朝、俺が起きて荷物を整えているとイザベラが起きて来た。部屋を片付けて、旅装と荷物を整える。準備が終わって部屋を出るとアンナル達が起きて待っていた。


 「見送りくらいはさせてくれ」


 「……ありがとう」


 アンナルを先頭に外に出ると、冷たい風が吹いていた。少しずつ明るくなって、東の地平線から太陽が昇って来た。


 「太陽が出て来たな、そろそろ行こうか」


 「本当に、イザベラは預からなくて良いのか?」


 最初は置いていくつもりだったが、魔法の練習の成果が思ったよりも早く出ているので連れて行くことにした。本人も行きたがっていたしな。


 「そうだな、危険は多いが今後の成長を期待して連れて行く事にするよ」

 

 イザベラを抱え上げると魔法を使って浮き上がる。アンナル達が掛けてくれる声援を聞きながら王都に向かって飛び始めた。

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