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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
ボトル・プラント
31/61

奪われた食料

 アンナルに言って倉庫に案内して貰った。倉庫と言っても中には何も入っておらず、棚だけが据え置かれていた。


 「とりあえず、手持ちの食料を出すから整理していってくれ」

 

 俺はブリュンヒルデから食料を出すと適当に棚に置いていった。肉や魚、野菜に果物と種類はあるが全て乾燥させて日持ちするように加工した物ばかりだ。


 「これ……なに?」


 「ドライフルーツっていう果物を乾燥させたものだ」


 「美味いのか?」


 「甘いぞ」


 リーヴが一口(かじ)ると感動したように声を上げた。ヘジンもリーヴからドライフルーツを受けてっと一口齧ると驚いて声を上げた。


 「ワシも一口……、おぉ!」


 「こっちは果物が違うのか?!」


 「乾燥させると、こんなに甘くなるのか!」


 「ちょっと! 食べ過ぎ!」


 「その辺にしておけ」


 ドライフルーツの試食会が始まったので止めに入る。3人とも申し訳無さそうにしていた。手を出さなかったイザベラとローニに1個ずつ渡す。


 「いいの?」


 「1つだけな」


 「ありがとう」


 ドライフルーツを食べ終わると、保存食の整理を再開した。整理し終わると棚が一杯になった。想像以上にブリュンヒルデの中に貯め込んでいたようだ。アンナルには何度も感謝された。


 「ローニ達に管理は頼んだけど、具体的な方法は決まってるのか?」


 「鍵を掛けるのは当然だけど、記録を付けようと思う。あと、調理する時は冒険者ギルドの地下室でする事にした」


 最初にアンナルに会った空間は、冒険者ギルドの地下室だったようだ。


 「しっかり管理してくれ」

 

 「もちろん!」


 1食分の食料を抱えて倉庫から出ると、扉に鍵を2つ掛けた。もっと鍵を掛けたい気持ちはあるが手間が増える事と、手持ちで使える鍵が2つしかないそうだ。


 ギルドの地下室に戻ると食事の支度を始める。支度はローニ達が手伝ってくれた。誰が伝えたのか知らないが、作ってる最中から人が集まって来た。


 「出来立てを食べたいからな」


 とは集まって来た人達の言葉である。


 量を確保する必要があるのでスープが基本になる。寝かせておいたパン種を人数分に切り分けて、加熱した鉄板で焼いていく。


 焼き上がったパンと少しのドライフルーツを皿に乗せ、スープと一緒に配っていく。受け取った人達は地下室に所狭しと座って食べ始めた。


 配り終わると、調理をしていた俺達も食べ始める。久々の甘味とあってドライフルーツは好評だった。


 食べ終わった皿を集めて用水路で洗っていく。魔法で水を出して石鹸で洗っていくのだが、皿洗いは食べた人達が請け負ってくれた。


 「食べさせて貰ってばかりじゃ悪いからな」


 そう言ってくれたので任せた。俺はリーヴから貰った地図を取り出してアンナルに周辺の地形を聞いた。


 リーヴの地図は街の周辺を描いた物で、情報が簡略化されている。国の全体像が分からないとぼやいているとアンナルが地下室の棚を探り始めた。


 「それなら、この地図も持っていくと良い」


 そう言ってアンナルは国全体が簡単に描かれた地図を取り出した。ギルドに燃えずに残っていた物らしい。


 こちらの地図にも話を聞きながら情報を書き込んでいく。また、方向が分からないと言うと街のシンボルを教えてくれた。


 この街から見て山がある方が北西で、東西に街道が通っているそうだ。スレイプニルと出会った大通りは街道だったようだ。


 東には手付かずの荒野が続いており、王都は西にあるとの事だ。突然現れた船の場所を聞くが分からないと言われた。


 「最初に遭遇した人が周辺の森を探したけど見つからなかった、と聞いている」


 そうフロージが教えてくれた。


 「明日、街を回ってみるよ。実際に見た方が理解出来るだろうから」


 「なら、私が案内するよ」


 ローニが案内を買って出てくれた。ヘジンとリーヴも同行してくれるそうだ。明日の朝食後に探索する事になった。


 「それじゃ、俺達は部屋に戻るよ。何かあったら呼んでくれ」


 「分かったわ、おやすみなさい」


 ローニ達と別れて部屋に戻るとタイミングよくクレスから連絡が入った。実際に送られて来るには日にちが必要だが、段取りが整ったと報告してくれた。


 「ダンボール……。えっと、紙の梱包材ってすぐ手に入るか?」


 『ーダンボールで大丈夫だ。問題ないが急ぎか?ー』


 「部屋は借りれたけど石の上だからな。寝るのに敷こうと思って」


 『ー分かった、すぐ用意させるよー』


 少しクレスと雑談しているとダンボールが送られて来た。クレスに感謝して通信を切る。


 送られて来たダンボールを広げて石床の上に敷いた。その上に布を広げると、冷たさはなく寝れる様になった。


 もう1枚の布を被ってイザベラと眠り始めた。



 ◇



 翌朝、地下室で朝食を済ませると街に出た。ローニ達の案内で街のマッピングを進める。大きい道の側にある目印になりそうな建物を書き込んでいく。


 建物に関してはローニ達が教えてくれた。この街は国の端に位置しているので栄えてる訳ではなかったが、それでも壊される前の市場には人が賑わっていたそうだ。


 街を回っていると空中に留まったままのドローンを見つけた。ローニが、スレイプニル2体と戦った時に出現したドローンだと教えてくれた。


 ブリュンヒルデがシステムをハッキングしてから、ドローンを回収する。


 その後も街を探索する。壊れた建物の中にも入ってみるが、目ぼしい物は見つからなかった。アンナル達が既に回収し切った様だ。

 

 昼食は、食材を節約したいから食べてないそうなので合わせる事にする。イザベラのお腹がなったのでパンを渡すと物欲しそうにするヘジンとリーヴ。


 「皆んなには内緒にしておいてくれ」


 「おう!」


 「当然!」


 「あなた達……」


 ローニは呆れていたが、パンを渡すと素直に受け取って食べていた。


 夕方ごろ、拠点に戻ると地下室でケガ人が何人も寝ていたので近くの人に状況を聞いた。


 「夕飯の支度をしようとした時にね、盗賊が入ったの。それで、追い出そうとした人達が逆にケガしちゃって……」


 俺が渡した食料を全て奪われたそうだ。帰って来た俺を見てアンナルが駆け寄って来た。


 「すまない! せっかく譲って貰った食料を全て奪われてしまった。本当に申し訳無い!」


 伏して頭を下げるアンナルに対して、土下座ってこの世界にもあるのか、と呑気な事を考えてしまった。


 「大丈夫だ。それに、命があっただけマシだろう」


 返り討ちにあって殺されてたら大惨事だ。食料は取られたけど生きているなら、やり直せるだろう。


 夕食は俺の手持ちから食料を出した。旅の備えとして残しておいた分だが仕方が無いだろう。


 アンナルには泣いて感謝された。次は命懸けで守る、と意気込んでいるので次は逃げてもらう様にお願いする。


 「しかし、それでは……」


 「死んだら意味無いだろう」


 アンナルは黙った。クレスに食料を依頼しているから数日凌げばまた渡せる。が、何度も襲われるのは避けたい。


 「盗賊が入った事に心当たりは?」


 「いや、思い付きません。避難民は隠れており、どこも食料不足です。襲うのはリスクが高いと思います」


 襲った先に食料が無ければ労力が無駄になる。なら、ここに食料がある事が分かっていたと言う事になる。


 俺はアンナルに顔を近づけて小声で話す。


 「アンナル、少し話がしたい」


 「分かりました、こちらへ」


 アンナルも小声で返し、地下室から続く小さな部屋に入った。アンナルが使っている部屋との事で、部屋に入ると防音の結界を2重に張った。


 「結界……ですか?」


 「防音の結界だ。話を聞かれると困るからな」


 恐らく内通者がいる。そいつを追い出さない限り、食料をどれだけ提供しても奪われてしまう。


 アンナルに内通者の話をすると、2人の名前をあげた。


 「ヘズとセックという名前の2人は、他の避難所を追い出されたと言っておった。何でも食料が少なくなったのが理由だとか」


 「その2人が怪しいな。追い出された、と言えばどの避難所にも入り込める」


 「では?!」


 可能性の話だ、と前置きして俺の考えを話した。


 追い出された、という理由で複数の避難所に内通者を送り込む。そして、避難所がどうやって食料を集めてるかの情報を集めて横流しする。


 盗賊の本隊が、その情報を使って先回りで食料を集めてるんだろう。


 「その2人は今、どうしてる?」


 「そう言えば、朝食後から見かけておらんな。探索に出ていると思っておったが」


 「盗賊の本隊に連絡してたかもな」


 罠を張ってみよう、と提案するとアンナルも同意したので詳細を詰めていく。


 部屋から出るとローニ達が駆け寄って来た。心配をかけた様だ。アンナルは、こってり絞られたわいと言っている。


 俺はアンナル達と倉庫へ向かった。倉庫に入ると、倉庫の棚に食料が一杯に見える様に幻術を掛けた。


 「スッゲー!! まだこんなに待ってたのか?!」


 「これだけあれば暫くは安心して食事が取れる。感謝するぞ、ハヅキ!」


 アンナル達が大袈裟に驚いている。ローニ達には事情は説明したが、上手く演技出来るだろうか。


 「鍵を壊されてしまったのでロープで縛っておこう。心許ないが無いよりはマシじゃろう」


 扉が開かない事を確認して、その場を離れる。ローニ達には夕食分の食料を持って貰ってる。地下室に戻ると、他の人達が寄って来た。


 「どうしたんだ、それ」


 「ハヅキが旅の備えとして残していた食料を分けてくれたのじゃ」


 「それは助かる」


 「支度するから手伝ってくれ」


 周りの人達を巻き込んで食事の支度を始めると、地下室に2人が入って来た。近くにいたローニが小声で教えてくれた。


 「今、入って来たのがヘズとセックよ」


 2人はアンナルに近づいて探索の報告をした。


 「アンナルさん、すまない。探索では何も見つからなかったよ」


 「今日は少し遠くまで行ったんだけど……」


 「仕方ないじゃろ、何かあれば誰かが見つけておる」


 アンナルが2人と話してる内に食事が出来たので、声をかけて配り始める。ヘズとセックもお礼を言いながら受け取っていた。


 夕食の片付けはアンナル達が請け負ってくれたので、任せて部屋に戻った。部屋に入ったタイミングでブリュンヒルデが魔法で、オーディンから連絡があった事を報告してくれた。


 防音の結界を張って、オーディンと通信を繋ぐ。


 『ハヅキか、頼まれておったデバイスが用意出来たぞ。今から送るか?』


 「ああ、お願いするよ」


 手元に魔法陣が現れて光を放つ。その光の中から小さな腕輪が出て来た。ちょうど、イザベラの腕につけられるサイズだ。


 『ブリュンヒルデと合わせて腕輪にしたが問題ないかな?』


 イザベラを見ると頷いたので、問題ないと答える。イザベラのデバイスの名前は"スクルド"と言うそうだ。


 オーディンに感謝して通信を切ると、スクルドをイザベラの右手に通した。


 『初めまして、マスターイザベラ。私の名前はスクルドです。以後、よろしくお願いします』


 「よ、よろしく…お願いします」


 基本スペックはブリュンヒルデと同等だが、サポート周りを充実させて初心者でも扱いやすくして貰った。


 魔法の練習をする為、アンナルに声を掛けて外に出る。今日は新月の様で星明かりが空一面に瞬いていた。


 出入口から少し離れた建物の壁を的にして、イザベラが魔法を放つ。


 「〈風の弾丸(ウインド・バレット)〉!」


 3発の風の弾丸が壁に当たって弾けた。


 「数が増えてる。上手くなったな」


 以前は1発だったのが今は3発になっているので、褒める。小さくても成果が出たなら認めてあげるのが成長の秘訣だ。


 「頑張ってるし、新しい魔法を教えよう」 


 身体強化魔法の〈風迅の衣(ガスト・クローツ)〉を教える。術式はブリュンヒルデからスクルドへ転送して貰った。


 〈風の弾丸(ウインド・バレット)〉もそうだが、詠唱とプログラムの2通りで起動出来るので、両方使える様に教える事にした。


 イザベラが詠唱を始める。


 「(はし)りゆく風よ! 我が衣となり、翼となれ! 〈風迅の衣(ガスト・クローツ)〉!」


 イザベラの周りに風が吹いて強化魔法が発動する。試しに走らせてみたら盛大にコケた。


 「大丈夫か?! ケガは無いか?!」


 「うん、ケガも…ないよ」


 「よかった。もっと練習が必要だな」


 イザベラの頭をなでて慰める。その後はスクルドに出力を調節して貰いながら練習を続ける。低出力なら動けるようになったので練習を切り上げた。


 部屋に戻ってイザベラに魔法についての話をする。実践も大事だが知識も必要だ。最も基礎的な部分を出来るだけ分かりやすく説明する。


 「俺が使ってる魔法の基本には4大元素という考え方がある。簡単に言うと……」


 イザベラが眠たそうにしてるので中断する。


 「魔力を使いすぎたか。今日はもう寝よう」


 「うん……」


 イザベラはダンボールで出来た寝床に潜り込んだ。

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