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風精の魔導師、異世界の旅に出る  作者: かーくん
ボトル・プラント
29/61

スレイプニル

 「さっきのロボットの名前だけど……」


 「スレイプニルよ」


 「スレプニルと会ったのか?!」


 「よく生きてたな! ローニ!」


 ヘジンとリーヴが驚いているがローニは構わずに続けた。


 「ハヅキが助けてくれたの。それで、さっきの話しとかぶるんだけど……」


 ローニ達はスレイプニルについて知っている事を話してくれた。突如として空から現れた船、そこから出て来た兵器の一つ。なぜか分からないけど船の小さな出入口から出て来るそうだ。


 スレイプニルは1つの街に2〜3機が常駐している、という話もしてくれた。


 「兵器を持ち込んだなら数の上限があるだろうし、作るのも限界はある。けど、あいつらは船から無限に出てくるの」


 「何でだ?」


 「分からない。国の騎士達や魔法使い達が命がけで調べたけど、何も分らなかったの」


 『現在の情報で可能性が最も高いのが【ボトル・プラント】です』


 「腕輪が喋った?!」


 ヘジンとリーヴが驚いているが、それより重要なことがある。詳細を聞くとブリュンヒルデが出現させたモニターに映像を流しながら説明してくれた。


 【ボトル・プラント】は巨大な瓶に詰められた工場の事である。土地問題を解決するために編み出された術式で、建造物を瓶の中に収納したそうだ。


 「空間圧縮魔法の応用か」


 「文字と絵が浮いてる?!」


 「瓶の中に建物って入るのか?!」


 「2人とも、少し黙って!」


 驚く2人をローニが諌めている。けど、工場を瓶に入れた所で大した脅威にはならない。そう考えると出てくる結論は一つだ。


 「瓶に入ってるのは兵器工場だな。それも大量の資源まで用意している」


 「でも工場なら人がいるはずよね? まさか、危険な兵器だって分かってて作ってるの?」


 『【ボトル・プラント】内に人がいる可能性は、かなり少ないです。自動(オート)で製造する工場を入れるのが主流です。初期には人がいましたが、トラブルが起きても気づかずに大規模な事故が頻発した事から点検も遠隔ロボットで行うようになりました』


 「なるほど。なら、スレプニルを作ってる【ボトル・プラント】も無人と考えていいな」


 「それって、勝手に作ってバラ()いてるって事かよ?!」


 「そういう事になるな」


 「じゃあ一体何のために街を壊してるの?!」


 「作られた時に受けた命令が撤回されてない可能性がある。どちらにしろ【ボトル・プラント】を何とかしないと意味が無さそうだ」


 ローニ達にこの世界の事を聞いていると、聞き覚えのある機械音か聞こえて来た。スレプニルが2機、俺達のいる建物に向かって左右から歩いて来た。


 「スレプニル?! それも2機なんて?!」


 「ごめんハヅキ、任せていい?」

 

 「大丈夫だ。イザベラ、お前も一緒に逃げろ」


 「でも!」


 嫌がるイザベラにブリュンヒルデを渡して逃げるように促す。ローニ達にイザベラの事をお願いすると了承してくれた。


 「行くわよ」


 「いや!」


 「ここにいたら邪魔になるの! ハヅキの事を思うなら今は逃げるの!」


 そう言うとローニ達はイザベラを連れて逃げていった。


 ゆっくり歩いてくるスレイプニルは2機とも俺から20m程の地点で止まると箱の下部を開けた。そこから追跡用のドローンと人型のロボットが排出される。


 ドローンは俺達を無視してローニ達を追いかけた。人型ロボットはスレイプニルからそれぞれ2体ずつ計4体いる。


 体内に魔法を転送する難易度は先の2戦よりも遥かに高い。魔法だけで外側から壊すのはほぼ不可能。


 「さて、どうしたもんか」


 ロボットが4機迫って来ている。攻撃魔法で牽制するが構わずに突っ込んでくる。魔法で飛び上がって飛行するが、ロボットも飛行して追跡して来た。


 「飛べるのか?!」


 魔法に対する耐性は高く、装甲自体も強度がある。魔法で牽制しながら空中を飛び回っているとブリュンヒルデから魔法で連絡が来た。内容はオーディンから通信が入ったと言う事でブリュンヒルデが中継して繋いでくれた。


 『ハヅキ、送って貰ったロボットに関する中間報告じゃ』


 「何か分かったのか?」


 『外装を調べたのみじゃがな。使用されている金属は高い魔法耐性と強度の代わりに融点が下がっておる』


 「何度だ?」


 『およそ9,800度じゃ。すまんが、今の所は以上じゃ』


 「十分だ」


 オーディンからの情報は勝機になった。1万度の熱量なら俺でも実現出来る。起動の早い魔法で牽制を繰り返しながら詠唱を始める。


 火と雷、風の3属性による複合魔法〈電離(プラズマ・)溶断(メルトダウン)


 詠唱が完了すると、杖の先から光の筋が伸びた。触れる物全てを溶断する1万度の熱線をすれ違い様に、ロボットの1機に向かって振り抜く。熱線の通った道筋に沿ってロボットは2つに両断された。


 〈電離溶断〉の射程は3m程しかない。飛行魔法による空中起動から結界を足場にした〈宿地〉に切り替えて距離を詰める。2機を切り払い、距離を取った1機を〈旋風の鎖〉で捕まえる。


 1秒経たず外されてしまうが距離を詰めるには十分だ。撃ち出された右ストレートを躱して、杖を振り抜いて切り捨てる。


 4機のロボットが両断されて地面に落ちると、スレイプニルは正面の両端にある蓋を開けた。そこから棒の様な物が伸びて来た。


 「機関銃?!」


 撃ち出される弾丸を飛行しながら躱し、地上の障害物に身を隠して防ぐ。何かが噴出される音が射撃音に混じって聞こえた。


 空を見上げると、光の筋が昇っていくのが見えた。即座にその場を離れると、俺達がいた場所にミサイルが落ちて爆発した。障壁を張って爆発から身を守ると、爆風に乗って距離を取る。


 身体強化魔法を使って移動しながら攻撃するが効果が無い。障害物を利用してスレイプニルの下に入ると〈電離溶断〉で切りつける。しかし、焦げた筋が1本入っただけで切れなかった。


 (切れない?! 二重装甲か?!)


 魔法陣が出現したので離れると、スレイプニルの足元で大爆発が起きた。自身の魔法耐性を盾に無茶をするものだ、と感心する。


 「下がダメなら正面だ!」


 魔法障壁を何重にも重ねて正面から突き進む。機関銃の弾が障壁に当たって弾けると同時に障壁も壊れていく。


 かろうじて1枚残った障壁の後ろから機関銃に杖を突き出して〈電離溶断〉で機関銃ごと貫いた。


 「?!」


 しかし、動きは止まらずスレイプニルの前半分が回転して弾き飛ばされてしまった。空中で体勢を整えようとした時、眼前が暗くなったので風魔法で自身の体を弾いた。


 さっきまで俺がいた所を別のスレイプニルが踏み抜いた。体勢が崩れたまま地面に投げ出されたが、辛うじて受け身は取れた。


 距離を取ると機関銃やミサイル、近づくと爆発魔法や足を使った物理攻撃もある。動きが大きいので隙はあっても防御力が高くてダメージが通らない。


 「確かに、これは壊せないな」


 ローニの言った事に納得しつつ対処法を考える。俺の属性は〈風〉、火系や水系の魔法はどうしても一段落ちる。土系は論外。使える魔法・技術の中から候補を上げては却下する。


 その中で一つの魔法が思い浮かぶ。効率を無視して作った最上位魔法〈質量断絶〉。これは(あら)ゆる物質に対して《“切断した"と言う事実で上書き》する魔法だ。耐性・特性・強度・距離など凡ゆる事柄を無視して切る魔法。


 「今はこれしか無いか」


 止む事の無いスレイプニルの攻撃を躱しながら魔法を組み上げていく。


 通常の上位魔法の4倍はあろう呪文を詠唱していく。これは複数の魔法を組み上げて1つの魔法とする〈連立魔法〉だからだ。


 魔法の構築が完了すると、杖の先端に光の刃が出現する。


 「ッ?!」


 魔法が起動した瞬間から急速に魔力が消費されていく。


 スレイプニルに向けて杖を振り上げると、杖が通った道筋に沿って両断された。返す杖でもう1機のスレイプニルも両断する。そして、俺はその場で倒れた。


 「魔力が……」


 爆発音が聞こえる。搭載されたミサイルや弾薬に引火して爆発したのだろう。そう考えつつ残った力を振り絞る。


 杖に蓄えていた魔力も使い切っており、立ち上がるので精一杯だ。スレイプニルは動かない。どうやら機能停止した様だ。


 「なんとか勝ったか……」


 意識が朦朧(もうろう)とし始めて、目の前が真っ暗になった。



 ◇



 スレイプニルから逃げるローニ達をドローンが追いかける。障害物を使っても、脇道に入っても振り切れないまま走り回っている。


 「どうすんだよ、あれ?!」


 「知らないわよ!」


 攻撃はして来ないから無事ではあるものの、自分達の拠点に連れて行く訳にもいかず、壊れた街中を走り回っていた。


 しかし、突如としてドローンが動きを止めた。追跡を辞めて空中で留まっている。


 「なんだ?! 止まったぞ?」


 「何か狙ってんのか?」


 「ねぇ、まさかとは思うけど……スレイプニルが倒されたんじゃ……」


 「まさか……」


 有り得ない、と思いつつも他に理由は思い当たらなかった。ゆっくりとその場を離れると、ハヅキが戦っている場所に急いで戻った。


 障害物の影から恐る恐る覗いてみると、そこには真っ二つに切断されたスレイプニルが横たわって燃えていた。


 「マジかよ?!」


 「?! ハヅキ?!」


 ローニが倒れているハヅキを見つけて近寄る。声を掛けても、体を揺すっても反応がない。


 「……大丈夫、気を失ってるだけ」


 死んだのかと思ったが呼吸をしている事に安心する。心配する3人にも安心する様に伝える。イザベラは泣きそうになっていた。動かなくなった2機のスレイプニルを見ながらリーヴが呟く。


 「本当に勝っちまったよ」


 「どうする? ハヅキをこのまま放置出来ないぞ」


 「そうだな。俺、拠点に戻って話をしてくるよ」


 「分かった、気をつけろよ!」


 「おう!」


 ヘジンとリーヴが話し合った後、リーヴが1人拠点に向かって走り出した。そこにブリュンヒルデが声を出して許可を求めてきた。


 『燃えている機体を消火したいのですが、構いませんか?』


 「大丈夫だと思うけど、消した瞬間に動き出したりしないか?」


 『中の回路が熱で焼け溶けているので動く事は有りません』


 「そっか、なら大丈夫だ」


 『了解』


 ブリュンヒルデはスレイプニルの上に巨大な水球を使って落とした。燃え上がる炎は鎮火したが、溢れた水が周りは広がった。


 慌ててハヅキを高い場所まで運ぶローニとヘジンにブリュンヒルデが謝った。


 「ねぇ、今リーヴが大人を呼びに行ってるんだけど、あなた喋らない方が良いわよ。敵の仲間と思われちゃうわ」


 『了解』


 「ヘジンも良い?」


 「分かった、言わないよ」


 暫くするとリーヴが大人の男を2人連れて戻って来た。


 「スレイプニルが出たって聞いて心配したぞ」


 「無事で良かった」


 男達はローニ達が無事だと分かると安心した様な表情をした。ローニはハヅキと出会ってからの事を話した。驚く男達にヘジンが倒れたスレイプニルを指差す。


 「本当に壊れてる……」


 「拠点で受け入れられないかな?」


 「分かった、俺達からも話してみよう」


 男の1人がハヅキを背負い、ローニが杖を持った。もう1人の男が先導して拠点を目指して歩き始めた。歩きながら、ローニがリーヴに近寄って小声で話す。


 「ブリュンヒルデと【ボトル・プラント】の事、黙っといてね」


 「分かった」


 リーヴも小声で返す。暫く歩くと崩れた建物に案内された。建物の中を通って地下へと続く階段を降りて行く。地下室に開けられた横穴を進んでいくと用水路に出た。水路沿いを進んで別の横穴に入ると広い空間に出た。


 魔法による明かりが灯され、10人が壁際に座ったり、横になったりして過ごしている。


 「戻ったぞ、ローニ達も一緒だ」


 「おぉ、無事だったか。ん、そ奴らは誰じゃ?」


 「今から説明するよ」


 空間の奥に座る髭の生えた老人がローニ達を迎え入れた。男が背負うハヅキと一緒にいる見知らぬ女の子に目をやり、説明を求めた。


 「……ふむ、スレイプニルを3機も倒す程の実力者か。しかし、要求も高くなるのではないか?」


 「分からない。けど、ハヅキがいれば探索範囲を広げられる。ひとまず起きるまで置いて貰えないか?」


 「良かろう」


 「ありがとう」


 その空間から出て用水路を少し進んだ先にある横穴に入る。そこはローニが使っている部屋だ。


 「部屋なら俺達のを使えばいいのに」


 「2人の部屋は遠いでしょ?」


 不満を垂れる2人を制して自信が使ってる寝床にハヅキを寝かせる。


 「起きるまではここを使っていいわ。イザベラも一緒にいてあげて」


 「うん」


 「ローニはどうするんだ?」


 「あなた達の部屋を貸してちょうだい」


 「狭いぞ」


 「知ってる。それじゃ、起きたら声掛けてね。私達は出て右奥の部屋にいるから」


「うん」


 そう言うとローニ達は部屋から出て行った。ローニはヘジンとリーヴの部屋に入ると、空いてる場所を見つけて座った。


 ヘジンは気になっていた事をローニに尋ねた。


 「なぁ、【ボトル・プラント】だっけ? 話さなくて良かったのか?」


 「話したらハヅキが原因と思われるでしょ?」


 「そうかもしれないけど、知ってたのは妙じゃないか?」


 「でもハヅキが原因っていう証拠はないでしょ? 証拠もないのにアレコレ言えないよ」


 「それもそうだ」

 

 ヘジンとリーヴはローニの考えに同意した。

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