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魔法技術

 ウラルスが会談の開始を宣言したが、会談は謝罪から始まった。


 「まずは貴方がこの世界に来た時の戦闘行為について謝罪したい。申し訳ない」


 俺達がこの世界に来た時に監視に引っ掛かっていたそうだ。俺としても監視には引っ掛かっていると考えていたから問題はない。


 特殊部隊を差し向けたのも、俺の言動か分からないので万が一戦闘になった場合でも対応出来る様に、との事だった。


 「いや、先に仕掛けたのは俺の方だ。ヘリを1機潰してしまって申し訳ない」


 〈竜巻(トルネド)〉や〈烈風の剣(ゲイル・ブレイド)〉で仕掛けたのはこちらだ。それなのに、文句を言わずに謝罪する辺り、腹の中は黒そうだ。


 「そう言って貰えるとありがたい。貴方とは是非とも協力関係を築きたいものだ」


 なるほど。先に頭を下げて相手の謝罪を引き出す事で本命の要求を通す算段のようだ。こちらが謝罪しているから、相手の要求を断るのはハードルが高い。


 高圧的に出て反感を買うよりは、下手に出て有利な条件で協力関係を築きたいのだろう。


 「その話はアスクレスから聞いているし、協力するのも構わない。すぐに話を始めるか?」


 「いや、その話はじっくり進めたい。先に処理できる案件から話していこう」


 ウラルスは俺との話の前に、細々(こまごま)とした案件を片付けたいそうだ。現状の確認から始まって、今後の支援方針と内容の確認、ラカディア政府が主導する研究の成果と運用方針などが示された。


 この辺りの話は何度も行っており、昨日までの打ち合わせで事前に話されていたのでスムーズに進んだ、とアスクレスは教えてくれた。


 「さて、では本命の話をしよう」


 ウラルスからは協力関係を打診され、了承する。具体的な内容に関しては、継続的な魔法技術の提供、魔法使いの教育、敵対国の侵攻に対する軍事協力が希望された。


 「魔法技術の提供は構わない。ただし、そちらの技術レベルに合わせた内容になる。いきなり高度な魔法を渡されても扱いに困るだろう」


 「ふむ…」


 「魔法使いの教育に関してはアスクレス達にしてもらってくれ。そうすればアスクレス達のレベルも上がるし関係も強力になる」


 「貴方は参加してくれないのか?」


 「俺達は旅をしている。タイミングを合わせて立ち寄るのは構わない。だが、この世界に居続けるのは無理だ」


 俺の発言を吟味しているようだ。どこまで押して、どこで引くのか腕の見せ所だろう。


 「軍事協力に関しても、立ち寄ったタイミングであれば構わない」


 「……そちらの要求を聞きたい」


 俺の要求は旅の支援で、有事の際の後ろ盾になって貰う事だ。立ち寄った異世界によっては食料や医薬品が手に入らない場合もある。そんな時でも安定して入手出来るルートがあれば助かる。


 「ずいぶんと控えめだね?」


 「そうだな。けど、現状は欲しい物が無いからな」


 「立ち寄るタイミングはどうやって決めるのかね?」


 「連絡用のデバイスを渡すよ。世界を超えた連絡が可能で、必要なら研究用も用意しよう」


 「気前が良いな」


 「目論見通りだろ?」


 ウラルスは少し驚いた顔をしたが、すぐに戻して詳細を詰め始めた。アスクレスに確認しても不審な点はなく、俺の要求はそのまま通った。


 「要求を素直に飲んでくれたのは驚きだな」


 「こちらの要求もほぼ通っているからね。デバイスはいつ頃用意出来るのか教えてくれるな?」


 俺は右手をテーブルの上に出した。ウラルス達は疑問に思った様だが、そのまま続ける。


 「ブリュンヒルデ、通信用のデバイスを用意したいが作成は可能か?」


 『デバイスの作成は可能ですが、情報や魔法を記録する端末が必要です』


 右手の腕輪から声が出たことに驚いていた。旅のサポートをしてくれるデバイスだと説明する。


 「これほどにスムーズな会話が出来るとは……」


 ブリュンヒルデの会話能力に驚いている。技術が進んでいるとはいえ、ブリュンヒルデ程の会話能力はまだ無いそうだ。


 「この世界の端末は使えないのか? 必要なら用意させるが……」


 アケノスは、自前で用意できると言ってきた。しかし、ブリュンヒルデが否定する。


 『この世界の魔法技術は未熟なので、こちらが求める性能は確保出来ないと考えます』


 「?!」


 「人工知能の精度と性能が推測出来ないな」


 クレスがひたすらに驚いている。


 『ハヅキ、オーディンに連絡してデバイスを用意して貰える事になりました。15分程で届けてくれるそうです』


 「分かった」


 「ハヅキ、オーディンというのは?」


 アスクレスが聞いてきたので、ブリュンヒルデの制作者として説明するとレベルが違いすぎると驚いていた。説明が終わったタイミングで端末が5個届いた。


 ブリュンヒルデは、その場で端末を調整していく。ブリュンヒルデに搭載された【境界の羅針盤】のデータの一部を端末へコピーする。俺はブリュンヒルデの説明に従って正常に起動するか試していく。


 「オーディン、送ってもらった端末を使ってるが、そちら側に問題は出てないか?」


 『問題ない。通信も良好だ』


 「分かった」


 通信を切って端末を配る。ウラルス側に3個、アスクレス側に2個渡すと恐る恐る受け取っていた。


 「その端末で連絡してくれればブリュンヒルデに繋がる様にしたから試してみてくれ」

 

 俺とブリュンヒルデが使い方を説明していく。端末同士も通信が出来るので、何度か試すと使い方を覚えた様だ。


 「感謝する」


 ウラルスに感謝されたので、こちらも感謝を伝える。


 「当面はアスクレス達から魔法を学んでくれ。下位の魔法を一通り習得したら次の段階へ行こうと思う。アスクレス達には、魔法の教科書を渡すよ」


 「教科書…ですか?」


 「下位から上位まで、一通り渡すから使える魔法を増やす事。アスクレス達は基本は出来てるから経験を積む必要がある。軍人を相手に模擬戦をするのも有効だ」


 「模擬戦……なるほど。対魔法使いの戦闘訓練にもなるな」


 アケノスが模擬戦の検討を始めて、ウラルスと話している。


 「そうだ、アスクレスに聞きたいことがある」


 「なんでしょう?」


 「100年前にこの世界に来た異世界人が乗っていた船の場所を知りたい」


 「申し訳ありません。船は流されてしまったと聞いています」


 アスクレスの説明では、弾圧を受けた異世界人達は無人の航行艦を次元の境界に放出したそうだ。以降、残った魔法使い達が探そうとしたが、世界を渡る技術は教えられておらず探せなかったという。


 「わざと教えなかった感じだな」


 「恐らく、技術を奪われて他の世界に行かれれる事を避けたのだと思います」


 「それなら仕方ないか」


 会談が一段落したので、内容を確認しつつ纏めていく。纏められた資料は双方がチェックして問題なかったので、そのまま承認された。俺も資料のコピーを貰った。


 「さて、遅くなったが食事にしよう」


 「ホテルのレストランでご用意しております」


 ウラルスが食事を提案して、ティーナがメニューを教えてくれた。移動しようと全員が立ち上がった時、部屋の電気が消えた。


 「なんだ? 停電か?」


 俺とアスクレスが魔法で部屋を明るくする。時間は昼時を過ぎた頃で、このホテルまで来る時は晴れていた。急に天気が崩れて雷が落ちて停電する、というのは考えにくい。


 「扉が開かない?!」


 ティーナとペリオンが扉を開けようとしているが、一向に開く気配がない。俺は、退屈に負けてソファで寝ていたイザベラを起こす。


 「うん…終わったの?」


 目を覚ましたイザベラを抱き上げると、どこかから大きな音が聞こえた。


 「何だ、今の音は?!」


 「さっきの音、まさか爆発か?!」


 パニック気味になるクレスにアケノスが一つの可能性、テロリストによる襲撃を示した。爆発が連続して起こり建物が揺れる。


 「アスクレス! 建物の見取り図はあるか?!」


 「い…いえ」


 突如、扉が爆発して近くにいたティーナとペリオンが吹き飛ばされる。爆発の煙の中から現れたのは、銀色の装備で身を包んだ8人の集団だった。


 「消防隊?! いや、早すぎる! 貴様ら、何者だ?!」


 銀色の集団は手にナイフを構えると、ウラルスめがけて突撃して来た。ウラルスの前にアケノスが立ちはだかり、突撃してきた銀色の襲撃者の1人を相手に戦い初めた。


 爆発で負傷したティーナとペリオンに対しても襲撃者が2人ついている。その様子を見て、アケノスが苦しそうな顔をしている。


 「アスクレス、イザベラを頼む」


 「殺してはダメよ?」


 「分かったよ」


 イザベラをアスクレスに預けると前に出る。警戒する襲撃者をよそに、〈縮地〉でティーナについている襲撃者の横に立つ。


 「?!」


 襲撃者に触れると〈魔封雷剣〉を起動して空間に固定する。続けて、ペリオンについている襲撃者も魔法で固定する。


 「助かったぞ、ハヅキ」


 俺がティーナとペリオンを助けると、アケノスは対峙している襲撃者を圧倒していった。「将」の階級を持っている通り相当の実力を持っている様だ。


 形勢が不利と見ると、残り5人の襲撃者達は爆破された入口から出ていった。


 「大統領! 我々も脱出しましょう!」


 アケノスが先頭を進んで中央にウラルスとクレス、アスクレスは中央の後ろよりで、イザベラを抱えながら負傷したティーナとペリオンを魔法で運んでいる。俺は最後尾を進んでいる。


 爆発が連続して建物が崩れ始めて、通路が燃えている。建物内を警備していた人達が床に倒れている。最初のうちは生存確認したが今は放置して先へ進む。


 非常階段まで来たが扉が熱と衝撃で歪んでいる。アスクレスが魔法で扉を吹き飛ばしたが、階段が崩壊していた。


 「これでは降りれない」


 「飛び降りるか」


 「飛行魔法ですか? しかし、私はこの人数を運べません」


 「とりあえず、窓際に行こう」


 「分かった、こっちだ」


 アケノスの案内で窓のある部屋に入ると魔法で窓際の壁を破る。強大な穴が空いて風が吹き込んでくる。


 「どうやって降りるんですか?」


 「俺が魔法で浮かせてもいいけど、それだと的だから精霊を呼ぶ。上位風精召喚〈騎鳥〉!」


 巨大な鳥の姿をした精霊を3体呼び下ろすと、ウラルス達を精霊の背中に乗せた。


 「〈球状障壁(スフィア・ウォール)〉」


 球体状の障壁を精霊達に掛けていき、飛行中に攻撃されても防げる様にした。精霊達を飛び立たせると、俺とアスクレスも飛行魔法を起動させて外に飛び出した。


 精霊達は大きく旋回しながら地上に降りた。途中、どこかからか狙撃されたが障壁に阻まれてウラルス達には届かなかった。ウラルス達が精霊から地上に降りると精霊達は消えていった。


 俺達が地上に降りると外を警備していた人達が集まってきた。


 「ご無事ですか、大統領?!」


 「ああ、無事だ」


 外にいた人達から状況を聞く。俺達が最初の爆発音を聞いた時、ホテルの3層が一気に爆発して上の階と下の階の行き来が不可能になったそうだ。


 その後は消火活動と情報収集を行っていたが、上の階から降りてきた人はいなかったと言う。


 「私は行政府に戻って今回の件を纏める事にするよ。ホテル爆破の件は調査が完了し次第、報告を届けさせる」


 「分かりました」


 ウラルス達は護衛に連れられて移動し、ティーナとペリオンは呼ばれた救急車に乗せられて運ばれていった。俺達も宿泊しているホテルに戻った。



 ◇



 会談から1週間がたった。俺達は村に戻って来ている。アスクレスは会談の後から忙しそうに色んな所と連絡を取っている。俺はアリエス達を鍛える日々を過ごしていた。渡した端末は問題なく稼働しており、ウラルスは忙しいからとクレスが窓口になっている。


 「アスクレス、俺達は次の世界へ行こうと思う」


 アスクレス達には魔法の教科書を渡してある。会談の時に話した下位から上位までの魔法が載っている本を紙媒体と電子媒体で用意した。同じものはクレスにも渡っている。


 「そうですか、お世話になりました」


 「アッサリしてるな、引き止められかと思ったが……」


 「これで連絡が取れますし、また来てくれるのでしょう?」


 「そうだな」


 旅立ちが決まったのでアリエス達に挨拶を済ませる。ウラルス達にもメールで旅立つ旨を送っておいた。



 ◇


 「彼らはもう旅立ったのか?」


 「ええ、昼過ぎに別の世界へ移動したようです」


 行政府の一室でウラルスとクレスが話していた。ハヅキから提供された情報を元に魔法使いの部隊を立ち上げた。アリエスとバルゴが軍部の人間のうち、素質がありそうな人間の魔力を活性化して回った。


 37人が候補にあがり16人が魔法に目覚めた。別枠としてペリオンも魔力活性を受けた事により魔法使いになった。


 魔法使いとなった人達は、アリエス達の指導によって魔法使いとしての実力を身につけつつあった。アリエス達もまた、ハヅキが残した教科書によって使える魔法が増えていた。


 連絡用の端末のうち1つは研究に回された。現在も解析が続いているが進捗は良くないという報告が上がっている。


 「彼が提供してくれた情報のお陰で、我が国の魔法技術は大きく進展した。他の国の研究機関からも共同研究の依頼が来ている」


 「他国に先んじて魔法技術を独占状態にあるのは外交上で有利に働きます」


 「そうだな、強力なカードを手に入れられて良かった。そういえば、会談時の爆発について何か分かったか?」


 「申し訳ありません」


 会談時に起こった爆発と襲撃については調べているが目ぼしい情報が上がってこないとアケノスが憤っていた。ハヅキが拘束した人間も、次に来た時にはいなかったという。他にも警備員や警察の人間のうち、数人が行方不明になっているという報告が来ていた。


 爆発や火災の影響を受けていない場所の担当が消えた事から、スパイが紛れ込んでいた可能性が上がっている。


 「まさか警察にスパイが紛れ込んでいるとはな、対策を進めなければ……」


 ウラルスとの話中にクレスの端末から着信音が聞こえた。クレスが確認するとハヅキからのメールだった。


 「無事に次の世界へ着いたようです」


 そう言ってクレスはハヅキからのメールをウラルスに見せた。


 「本当に別の世界とも連絡が取れるのだな」


 今でも半信半疑だが、現実として連絡が出来ているので信じるしか無い。


 ベルケロアの捕虜は、別の名前・戸籍・住民番号で監視付きで生活している。監視と行っても人が付いている訳ではなく、追跡用の端末を体内に埋め込んでいる。


 「大統領、ベルケロアの方はどうです?」


 「変わらず煩いよ。魔法をよこせ、と上から言ってくる」


 扉がノックされたのでウラルスが返事をするとティーナが入ってきた。次の予定の時間が迫っているようだ。ウラルスはクレスに声を掛けて退室した。

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