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夜闇の攻防

 天上から降り注ぐ陽光は波打つ地平線に隠れて、青空が黒く染められていく。空には欠けた月が白く輝き、人工の明かりが乏しい村では強い存在感を放っていた。


 木々が生い茂る森の底は月光が届かず広がる闇は侵入者達を包み隠していく。


 「総員! 警戒を怠らないように! ハヅキ、敵に動きはありますか?」


 「夜闇に紛れられて見失った。森の木々や茂みが動いているが侵入者か風かで判別がつかない」


 呆けていたアスクレスが気を取り直して警戒を促す。先に仕掛けてきた8人の侵入者達を倒したが未だに90人近くの侵入者が潜んだままだ。精霊との視界共有も、自身の目で見るほど鮮明ではないから夜闇に紛れられると探せない。


 森で侵入者の監視をしている精霊達を戻し、村の外側にある民家の屋根で待機させた。村の中は民家周辺を除けば田畑が広がっているので隠れる場所は限られる。集会所の周りにある茂みも、1度使っているので警戒している。


 アリエス達が周辺にある隠れられそうな場所を偵察した結果、侵入者の姿は無かったそうだ。


 「アスクレス、侵入者はベルケロアの人間なんですか?」


 アリエスが神妙な顔で尋ねるとアスクレスは頷いた。そして、周りの人間に聞かせるように少し大きめの声で説明を始めた。


 「ベルケロアはこの国の東にあって、広い国土と高い軍事力を持つ大国です。王政で独裁色が強く、他国への軍事的・政治的圧力を掛けて要求を通そうとする所があります」


 侵入者が素直に「ベルケロアのスパイ」と認めたので断定は出来ないが、一番可能性が高いのがこの国との事だ。


 「スパイや破壊工作にも積極的だと聞いたことがある」


 「他国で誘拐した人間を使っての過酷な人体実験も行っているという情報もあります」


 アリエスとバルゴが自分の持っているベルケロアの情報を口にする。印象としては戦争になっていないのが不思議な国だ。時代が時代なら周辺国から攻め込まれているだろう。


 文明が進み、技術が発展した世界では爆弾1発で国が滅ぶ。そのため武力行使は国際的なルールで禁止されている世界がほとんどだ。反抗声明を上げるだけで避難される事もある。


 ベルケロアとしては、周辺国が戦争を仕掛けて来ないという自負があるのだろう。


 「そこまで我の強い国なら、この強行も納得できるな」


 ベルケロアの情報を聞いていると何かが弾ける様な大きな音が響く。出所が不明な音に集会所の中からは悲鳴が上がる。


 「攻撃!? どこから!?」


 「落ち着け! 狙撃が障壁に当たって弾けた音だ。それより、来るぞ!!」


 集会所全体を包んでいた魔法障壁が攻撃を受けた。周辺に侵入者の影は無く、魔法攻撃とも違う気配なので狙撃と判断したが姿が見えないのが厄介だ。


 集会所の正面から続く道の先では闇の中を走ってくる影が見える。詳細な数は不明だが時折、キラキラと何かが光を反射している。


 それがナイフだと判明したのは障壁から10mほどまで近づかれた時だ。こちらにナイフの切先が向くように構えると侵入者達が地面と水平に低く飛ぶ。


 ナイフの切先が障壁に触れると、高く乾いた音を立てて障壁が砕けた。飛んだ勢いそのままに砕けて開いた穴から侵入者が入って来る。


 「扉を閉めて!!」


 アスクレスが叫ぶより早く侵入者が2人、俺達を無視して集会所に踏み込んだ。叫びながら逃げ惑う村人に向かい合う侵入者達に対してバルゴとピスケスが後ろから奇襲を掛ける。


 初撃を躱されたが村人と侵入者達との間に割って入る事に成功した。村人を背にしてバルゴが杖を、ピスケスが拳を構えた。敵との間合いを取りながらピスケスがバルゴに指示を出す。


 「バルゴ!! 結界を張れ!!」


 バルゴが村人を囲むように集会所内に半円の結界を張った。それを気配で確認するとピスケスが侵入者の1人へ向かって行く。直線的で力押しが得意なピスケスの攻撃を、侵入者はのらりくらりと躱していく。


 結界を張り終えたバルゴも侵入者に向かって魔法を放っていく。周りに味方もいる状況では大魔法は使えない。魔法弾や拘束魔法で抑え込もうと奮戦している。


 常にピスケスの死角に入るように立ち回る侵入者に苦戦しながらも何とか抑えている。身体強化の魔法とハヅキから習った〈縮地(しゅくち)〉による細かい高速機動で少しずつ優勢になっていく。


 問題があるとすればバルゴの方だ。武術の基本は学んでいても後衛であるバルゴの技量は、前衛であるレオやバラン、ピスケスと比べると大きく劣る。絡め手を常套する侵入者を相手取って戦えるほどの技量は無い。


 「きゃっ!!」


 侵入者が縦横無尽に振るうナイフがバルゴの服を切り裂く。全身に切り傷を蓄え、服に血が(にじ)む中でも懸命に戦うバルゴを見てもどかしくなるピスケス。だが、ピスケスに大きな動きを強要すうように動く侵入者の相手で手一杯になり、バルゴを助けに行く余裕が無い事も分かっている。


 (何とか持ち堪えてくれ!)


 内心でバルゴ奮闘を祈りながら自分の相手に集中していく。



 ◇



 侵入者がハヅキの張った障壁を破り続々と中に入ってくる。正面だけでなく他の場所からも砕ける様な音が聞こえてくるので敵は正面だけでは無い。ハヅキも障壁の意味が無いと判断したのか、集会所を包んでいた障壁を解除した。


 最初に侵入した2人を取り逃して集会所の中に入られてしまった。すぐにピスケスとバルゴが追いかけたが、守りながらの戦いでは降りだろう。


「中に入られた?! くそっ!!」


 「構うな! 外に集中しろ!!」


 加勢に行ことしたらハヅキに止められた。集会所に迫ってくる侵入者の影が見えるので、少数を相手に戦力を集中させられないのは理解している。


 「だが!」


 「中は2人に任せるんだ!! 裏からも来たぞ!!」


 「クソッ!!」


 集会所の裏で爆発音が響き、焦げた臭いが漂い白い煙が上がる。戦局の理解が遅れた私に代わってアスクレスが素早く指示を出す。裏にはバランが周り、右側にはレオが、左側にはハヅキを向かわせる。


 ハヅキは移動する前にアスクレスに腕輪を投げて渡した。何らかの魔法具だとは思っているが、この場面で役立つ物なのだろうか。


 「アスクレス!!」


 「これは?!」


 「ブリュンヒルデ、アスクレス達をサポートしてくれ!!」


 『了解』


 戸惑うアスクレスを無視してハヅキが叫ぶと腕輪が返事をした。AIを搭載した魔法具など聞いた事が無い。


 振り抜かれたナイフを躱し反撃すると、距離を取って別の侵入者が死角から攻撃してくる。数の優位を押し付けてくる侵入者達を相手に反撃できないまま、傷だけが増えていく。


 ヒット&アウェイ


 1人の侵入者も倒せないまま時間だけが過ぎていく。懸命に戦う私ととアスクレスを魔法の光が包みこんだ。体が一気に軽くなり、相手の動きに対応出来る様になった。


 『〈能力強化(スペック・ブースト)〉!』


 私達は魔法を使っていない。となれば、可能性があるのはハヅキから渡されたブレスレットだ。AIが搭載されているとは言っても魔法具が自らの意思で魔法を使うなど前代未聞だ。彼は一体何者なのだろうか。


 湧き上がる疑問を頭から振り払って眼の前の相手に集中する。強化魔法のお陰で攻撃も当たる様になり、〈縮地〉を使った追撃でようやく1人倒す事が出来た。


 「強化魔法をこのレベルで!?」


 驚くアスクレスに沈黙で答えるブレスレット。私達の反撃を見た侵入者達は動きを変えた。入れ替わり立ち替わり1対1の状況で戦っていたが、1対多数の先頭に切り替えて来た。1人から2人がつき纏う様に戦い、生まれた隙をつくように別の侵入者が攻撃してくる。


 連携を取りながら向かって来た。1人で多数を相手にする技術の(つたな)い2人は、向上した能力で強引に拮抗状態に持ち込んだ。


 私もアスクレスも多人数を相手にする経験に乏しい。強化された動きで拮抗状態には持ち込めたが、全体を見れば不利な状況は変わっていない。


 「このままではジリ貧です。アリエス、何か手はありませんか?」


 「相手が1人ならともかく、この数が相手では……」


 『戦力が増えれば状況を変えられますか?』


 ブレスレットが問いかけて来た。この状況を打開出来る手立てがあるのだろうか。


 「戦力が増えて少し時間が貰えるなら変えてみせます」


 断言した。私にも奥の手はある。準備に時間は掛かるが確実に戦況を好転させられるだろう。


 『了解』


 私の返事を受け取るとブレスレットが発光して人の形へと変わっていく。光が収まると、ブレスレットだった物は長髪の女性になっていた。ハヅキの容姿を女性寄りにした姿をしているが顔は無表情だ。


 「ブレスレットが人に?!」


 『これより実機戦闘を開始します。〈作成(クリエイト)光の人形(ライト・ドール)〉』


 女性が魔法を起動させると、自身と同じ姿をした人形が4体現れた。人形は女性とともに侵入者達に向かって攻撃を仕掛けた。


 女性も人形達も侵入者達を相手に引けを取っていない。それどころが侵入者達が押され始めている。残りの相手をアスクレスが受け持ってくれたので私に余裕が出来た。


 先ほどの断言通りに戦況を好転させるために準備を始める。丁寧に詠唱して呼び出すのは上位精霊だ。


 「精霊召喚!! 烈火(れっか)大霊(たいれい)!!!」


 ハヅキと初めて会った時に見せた精霊召喚の魔法。あの時は無詠唱だったが詠唱によって呼び出された事で、さらなる力を持って顕現した。


 呼び出した精霊を自身の体と合体させた。全身が赤く輝き、炎が揺らめいて火の粉が舞う。私の"奥の手"である〈精霊同一化〉だ。火系の魔法を無詠唱・無反動で使う事が出来る上に、身体能力も大幅に上昇する。


 地面を強く蹴って大きく踏み込む〈縮地〉距離を一気に詰めて、侵入者の腹に拳を入れると爆発が起きた。吹き飛ばされた侵入者は腹部の装備が砕けて地肌が露出している。


 受け身が取れないまま地面に落下すると、横向きになったまま血を吐いて咳き込んでいる。一撃の威力が高いのは知っているが、強化魔法の影響により威力が増している。


 距離を取りながら牽制とフェイントを交えて攻撃してくる侵入者達を上昇した身体能力で倒していった。しかし、侵入者が減っている様子が無い。


 地に伏している人数が増えているので侵入者の数も増えているのが分かる。しかし、長期戦の構えを取る相手に残りの魔力を考えると心許ない。


 (このままでは魔力が保たない)


 状況が変わらないどころか悪化している可能性に危機感を覚えながらも眼の前の敵を倒して行く。


 

 ◇



 「ハァ…ハァ…」


 俺はアスクレスに増させられた集会所の右側面で孤軍奮闘していた。体中に出来た傷が痛みを訴えて疼くが敵から視線を逸らせる訳には行かない。これが四面楚歌というやつか、と考えながらも余裕のある自分に感心する。


 (これ以上増えられると無理だな。……いや、俺ならやれる!! 絶対に勝つ!!)


 自分自身を鼓舞しながら〈身体強化〉の出力を強める。高まった運動能力と起動の速い魔法を使って牽制するが侵入者達を倒せない。幸いにして集会所への侵入を抑える事には成功している。


 しかし、俺の奮戦も虚しく敵の数が増えて行く。


 (まだ増えるのか?!)


 傷だらけの拳を構え直す俺の肩にハヅキから渡された鳥が止まった。眼の前の的に集中しているとハヅキの声が聞こえて来る。


 「〈能力強化(スペック・ブースト)〉! 〈上位治癒魔法(グラン・ヒール)〉! 〈魔力譲渡(マジック・パス)〉!」


 「?!」


 突然聞こえたハヅキの声に驚くが周辺にハヅキの姿は無い。だが、魔法は確かに起動している。俺の体に出来た数多くの傷は治り、体力と魔力は回復している。その上、力が溢れて来た。


 「助かるぜ、ハヅキ!! ウォォォー!!!」


 咆哮して気合いを入れ直すと上から人が降って来た。その姿はともに鍛え合う仲間であり頼りになる友人だ。視線を逸らさずに短く会話をする。


 「待たせたな、レオ」


 「リコか、助かるぜ」


 森の中に潜んでいた敵の監視に出ていたリコが戻って来た。リコの体もハヅキの強化を受けた様で薄く光っている。心強い援軍の登場に心が奮い立つのを感じるが、目の前の侵入者達は構えを解いた。


 「なんだ?!」


 疑問を感じて警戒しているとリコが〈宿地〉で距離を詰める。突き出された短剣は正確に侵入者の喉元に突き刺さった。短いうめき声を上げて倒れる侵入者から短剣を素早く引き抜くリコ。


 「こちら側につく気は無かったか」


 「当然だ」


 「なら、お前も実験材料として使ってやろう」


 リコは敵と繋がていたのか。いや、殺したのだから味方だろう。俺は逡巡する考えを放り投げた。細かく考えるのは苦手だ。気になるなら後でリコに聞けば良い。


 侵入者達はナイフを構え直して一斉に襲い掛かって来た。ハヅキの魔法による強化で数の不利に抗えるものの劣勢に変わりない。


 傷が治った体に、再び傷が積み重なっていく。敵の数は増える一方で、集会所に入れない様にするだけで精一杯だ。


 リコが加わって気持ち的には楽になったが、それだけでは戦況は変わらない。リコも仕留められたのは最初の1人だけで、後は全て躱されている。


 「どうした、レオ。動きが鈍いぞ?」


 「まだまだ余裕だよ!!」


 ハヅキの魔法で回復した体力も、新しく出来た傷からの出血で削られていく。長期戦による精神的な疲労も溜まっていく中、ひたすらに自分を鼓舞して強気に戦う。


 レオは本来、絶え間ない攻撃で攻めるのが得意なタイプだ。防戦一方な状況は精神的にも負担が大きい。


 リコの視線が時折こちらを向く。気遣われているのが分かるがリコ1人に全てを任せる訳にもいかない。変わらない状況に苦しくなって来た時、後ろから小さな爆発音が響いた。


 爆発音は1回では終わらず、何回も響いてきた。この爆発の仕方には心当たりがある。


 「この爆発音はアリエスか?!」


 感じる魔力が予想を確信に変えた。アリエスが奥の手である〈精霊同一化〉を使ったのだ。


 「なら、俺も全力で行くか!!」

 

 「レオ?!」


 「俺が倒れた後は任せるぜ!! リコ!!」


 レオは自身の魔力を解放して一つの魔法を起動する。複雑な魔法が苦手なレオが、アリエスやアスクレスと相談しながら組み上げた魔法。それはアリエスの〈精霊同一化〉を元にレオ専用にチューンした強化魔法。


 「〈炎精強化(えんせいきょうか)〉!!」


 1つの魔法を起動する事で組み込まれた術式が自動的に連鎖して起動する特別な魔法。〈下位火精霊召喚〉、〈身体強化〉、〈同一化〉と3つの魔法が連続して起動し、レオの体が赤い光に包まれた。


 「いくぜ!!!」


 爆発を纏った〈宿地〉を使い急速に距離を詰めると、侵入者の腹部を拳で撃ち抜いた。拳が当たった瞬間、小さな爆発が起こり侵入者は遠くへ吹き飛ばされていく。


 爆炎を振りまいて、レオは次々と侵入者達を吹き飛ばしていく。リコは、レオに向いた敵の意識を利用して死角から正確にトドメを指していく。



 ◇



 集会所の裏側を任されたバランは折れた剣を支えに(ひざ)をついていた。目の前には10人の侵入者がいたが、ハヅキから受けた強化魔法を持ってしても数の暴力に抗えなかった。


 「もう、ダメなのか……」


 (かす)む意識の中、諦めが頭をよぎる。それでも自信を奮い立たせて立ち上がると、視界の端で侵入者の1人が倒れた。そこには集会所の左側を任されたはずのハヅキが立っていた。


 ハヅキに気づいた侵入者達が距離を取る。ハヅキは手に持った杖を悠然と構える。杖の先には魔力で作られた刃がついており、暗闇の中で光っていた。


 「消えた!?」


 一瞬、ハヅキを見失うが〈宿地〉を使って距離を詰めたのだと理解した時には3人の侵入者が倒れていた。


 (速い?! いや、それよりも気配がしなかった?!)


 状況から〈宿地〉を使って相手の間合いに踏み込んだ事は分かる。しかし、認識出来ない。気づいた時にハヅキの姿はなく、地面に倒れてた侵入者達が残されいる。


 眼の前にハヅキが立っている事に一瞬遅れて気づいた時には全てが終わっていた。


 「終わったぞ」


 「えっ?!」


 ハヅキの横から侵入者達を見ると全て倒されていた。ハヅキが来たから(わず)か1〜2分ほどの時間しか経っていない。


 呆然としていたが、ふと我に返る。ハヅキが担当していた左側の事が気になって状況を聞いた。


 「左側を任されたんじゃないのか?」


 「片付けたら人が来なくて暇になった。アリエスとレオは"奥の手"を使ったみたいで、まだ戦えそうだからこっちを見にきた」


 "奥の手"という言葉を聞いて、先ほどから爆発音に乗って感じるアリエスとレオの魔力に納得するバラン。


 (俺も早く完成させないと置いて行かれるな……)


 「へこむのは後にしてくれ。まだ敵が残ってる」


 自身の未熟さと準備不足を思い知らされるバランにハヅキは叱咤すると回復魔法を掛けた。傷が治り体力が回復していく。爆発音はまだ聞こえており戦闘が続いているのが分かる。


 「俺はアリエス達の助けに入る。ハヅキはレオの方を頼む」


 「分かった」


 

 ◇



 「報告します。追加した人員のうち20名が死亡し7名が戦闘不能。残り13名が戦闘中です」


 「死んだ?! 20人がこの短時間にか?!」


 報告を受けた男、今回の強襲作戦の大隊長を任された人物は驚愕の内容に聞き返してしまった。目に映る景色が回るような錯覚に襲われたが、呑気に倒れている訳にもいかないと気を持ち直した。


 魔法使い達の反撃は予想していたが、魔法による防御を壊すナイフと対魔法装備で固めた特殊部隊だ。その戦力を持ってすれば、魔法使い側に死者が出ても自分達に死者が出るとは微塵も思っていなかった。


 「はっ! 装備に付随するモニターから生体反応が確認出来なくなっております」


 日没に合わせて先鋒として2部隊8人を投入してから30分が経過した。たった1人の魔法使いすら捕えられないまま味方の死体だけが増えていく。


 今回の作戦に投入されたのは合計28部隊112人にも及ぶ。その3分の1を失った以上、撤退するのが戦略的には正しい。


 しかし、作戦が失敗した者に居場所も帰る場所も無い。それを分かっているからこそ撤退は選べない。


 「総員突撃せよ! 残る戦力の全てを持って必ず成果を上げるのだ!!」


 大隊長は命令を発する。このまま帰っても処刑されるだけ。ならば道は1つしかない。いくら魔法使いが強くとも圧倒的な数の前には屈するしかない。


 抵抗されている間に他の魔法使いを拐って逃げれば良い。そう考えて武器を手に取ると、集会所を目指して先を走る部下達を追いかけて、大隊長もまた村の中を走り抜けていく。

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