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監視する者達

 太陽が真上より傾いて来た頃、俺達はアスクレスの家に到着した。中に入るとアスクレスが台所に向かって行くとお湯を沸かし始める。取引の内容と今後の対応について話し合うのだが、時間が掛かりそうだからと気を回してくれたのだ。


 お湯を沸かしている間にカップを並べるアスクレスの動きは手慣れている。丁寧に紅茶を入れると、カップの1つにミルクと多めの砂糖を投入すると、軽くかき混ぜてイザベラの前に差し出した。他のカップにも紅茶を注ぐと椅子に座っている俺達に配ってからアスクレスも席についた。


 「それでは取引についての話を始めましょうか」


 アスクレスが切り出して、自分達が求める情報を話し始めた。彼らは適切に魔法を運用するための知識を技術を求めている。幅広い情報を得る事で後進の育成と魔法技術の普及に関与したいそうだ。


 対して俺達は正確で信用出来る情報と生活の支援を求めている。この世界の文明レベルや常識的な知識を持たないので、【オーパーツ】の探索どころか日常生活すらままならない。信用出来る情報と活動拠点が手に入れば動きやすくなる。


 「お互いが持つ情報の真偽は、どうやって判断するんだ?」


 嘘の情報を教えるつもりは無いし、それは相手も同じだろう。だが、会って間もない相手の情報を鵜呑みに出来るほどの信用は無い。隠れて監視するならなおのことだ。


 「信用して貰うしかありません」


 アスクレスも俺が不安に思っている事を察したのか表情が芳しく無い。アリエスの方を向くと気まずそうに微笑んだ。ピスケスは変わらず不動を貫いている。


 (念の為、村の調査もしておくか)


 貰う情報とは別に村の調査を行う事を決めて頭の中で算段をつける。


 少し長めの話し合いが終わるとアスクレスが話した内容を纏めたものを読み上げた。細かい調整は都度行うが大まかには”教えた魔法技術に対する報酬として適正と思われる情報を受け取る”という事になった。朝から夕方に掛けて魔法技術を伝えて、夜にアスクレスやアリエスから情報を貰う事になる。


 この時、双方が提供した内容に過不足があれば翌日以降で調整を掛ける。具体的には何も決まってない様なものだが、今は方針が示されただけで十分だろう。


 「そういえばアスクレスに言おうと思ってた事がある」


 取引の話で忘れていたが、尾行について注意しておきたい。追跡技術を教えられるほどで身につけている訳では無いが気づいた以上は話しておいた方が良いだろう。


 「なんでしょう?」


 「移動中に俺達を尾行してた連中だが、もう少し鍛えた方が良い。今のままだと簡単にバレるぞ」


 「そんなものは付けてませんよ?!」


 アスクレスが驚いた表情で声を荒げた。彼らが俺達の監視として用意した尾行とは違うのだろうか。


 「アリエス!!」


 アスクレスが言うなり素早くアリエスが広範囲の探索魔法を起動する。広げた魔力をレーダーの様にして対象を感知するタイプの魔法だが、急いで発動させたので広がる魔力を強く感じられた。これでは相手に逃げてくれと言ってる様なものだ。


 「家の入口に2人、裏に1人の反応があります!!」


 外で待ち伏せしている様だ。もしかしたら聞き耳を立てて話を聞いている可能性もあるが、重要な話はしていないので大丈夫だろう。問題は家の中にある。


 「中は調べたのか?」


 「中……ですか?!」


 「盗聴器やカメラが仕掛けられてる可能性は無いのか?」


 俺がスパイなら不在の間に侵入して盗聴器やカメラを仕掛けて情報を得ようとする。外交を担当するというアスクレスの家なら魔法に関する重要な情報が転がっているかもしれない。


 「ピスケス!! すぐ調べろ!!」


 「了解」


 ピスケスは、ズボンのポケットから手に収まるサイズの端末を取り出した。その端末を持って1階の部屋の中をウロウロしている。アリエスの説明では盗聴や盗撮を妨害したり、そういった類の機器を発見する為の端末で常に持ち歩いているそうだ。


 端末は常に起動させていたが、対策が無いわけでも無い。尾行の話を聞いて不審者が村の中に入り込んでいると判断したのだろう。


 1階の部屋を周り終わったようでピスケスは2階に上がって行った。アスクレスは自分の家を他者が探索しているのに気にした様子は無い。それよりも俺が気付いた尾行の方が重要らしい。


 「いつから気づいていたのですか?」


 「最初に村に来た時から。アリエスに案内されて森を移動している時から付いて来てたぞ」


 「そんな所から?! いや……、俺達が警戒してると思ってたのか」


 状況が混沌として来たな。尾行している連中は、公園で俺達を襲撃して来た連中の仲間と見るべきか否か。彼らが内情を(いつわ)っている可能性も捨てきれない以上、与える情報は絞っておくか。


 「情報の取引はいつから始める?」


 「尾行してる連中は良いのか?」


 「リスクが高いから、人がいる間は室内まで入っては来ないだろう。防音結界を張れば外からは聞こえなくなる」


 「……分かった。ハヅキが良いなら異論は無いよ」

 

 

 ◇



 「魔法で転移した場所は分かったか?」


 「申し訳ありません。未だに調査中です」


 「小さな情報でも構わん。見つけたら真偽を問わず報告しろ」


 「了解」


 モニタールームで部下達とのやり取りを終えると、責任者は椅子に深く座り直した。目の前に設置されたモニター群に映る映像を流し見しながら今後の方針について考える。


 (魔法使いの一派と接触するのは想定内だ。問題は他国のスパイだな。状況を掻き回されると面倒だ)


 東にある独裁国家からのスパイは後を絶たない。摘発すれば「不当だ!」とすぐに国際問題にするから大統領も疲弊している。そのくせ人の国を荒らし回るから始末に負えない。


 (いっそのこと滅びてくれんもんかね)


 不意に浮かんだ邪念を振り払うと意識を切り替えて、手元のモニターで魔法使いの一派に関する情報を洗い直す。



 ◇



 都市部にある居酒屋には仕事を終えて愚痴と不満を肴に酒盛りをする人達で溢れていた。夜が更ければ酒も進むのか、大きなジョッキに並々に注がれた黄金色の飲み物を手に持ち、店内を慌ただしく動き回る店員達が店の盛況ぶりを表していた。


 店の奥にあるテーブルの一角で酒と料理を囲んで談笑する人が4人。その内1人がトイレに立ち、1人がタバコを吸うために喫煙スペースに移動した。タバコに対する風当たりは年々厳しくなり、喫煙スペースを用意している店舗も少なくなって来た。


 ジョッキを片手に顔を赤らめた2人がテーブルに残り、席を立った2人を見送った。2人の姿が見えなくなると、緩んでいた表情を鋭いものに変えて居酒屋の喧騒に紛れるような小さな声で話し始めた。


 「例の異世界人が魔法使いの一派と接触しました。現在は彼らが住む村の一つに滞在しています」


 「本国としては早急に捕らえて技術を独占したい考えだ。魔法技術は大きな技術革新をもたらすのが確定しているからな」


 「では?」


 「充分に注意しろ。準備も怠るなよ」


 「はい」


 会話が終わる頃、1人がトイレから戻って来た。会話をしていた2人は酒によって緩んだ表情に戻っている。少ししてタバコに立った人が戻って来ると追加で酒と料理を注文した。次々とジョッキと皿が空いていき、都市の明かりに照らされた夜が更けていった。


 ◇



 何かが通り過ぎるような小さく鋭い音がした。そして何も無いはずの空間から人影が現れて静かに倒れた。確認すると隠蔽魔法の術式が刻まれたツナギの様な服を身に着けた人だ。その人の頭から血が流れている。詳しくは鼻の先に穴が空いており、3つになった鼻の穴から血が流れ出している。


 空中に黒い液体が舞う。それは微かに鉄の匂いを漂わせて辺りに撒き散らされた。またしても何も無いはずの空間から人の頭と、首から上がない人の胴体が現れる。頭は地面に落ちて転がっていき、胴体は崩れる様に横に倒れた。


 俺とアリエスは地面に倒れる死体を物色して所持品をチェックする。身元や所属が分かる物を持って無いか探したが何も持っていなかった。茂みを踏む音とともに人の気配が近づいてくる。警戒しながら振り返るとアスクレスが立っていた。


 「終わったのか?」


 「ええ、教えて頂いた魔法のお陰です」


 昼間おの話の後、尾行している連中を処理したいとアスクレスからお願いされた。防音結界を張ってから隠密行動に関係する魔法を幾つかピックアップする。それぞれの適正と好みに合う魔法を覚えてもらったのだが、新しく覚えた魔法を難なく使う辺り元の技量は高いのだろう。


 「こいつらはどうするんだ?」


 「魔法で隠して運んだ後に処理します」


 処理したスパイのその後を尋ねると、アスクレスが対応してくれる様だ。殺したので情報を吐く事は無いが、身につけている装備や血液成分からも情報を得られるそうで解剖に回すらしい。アスクレスが魔法を使って死体を浮かせた。


 「足元の血痕は水を流して消しておくか」


 〈洪水(フラッド)〉を魔力を絞って発動させる。足元に水が広がり血痕を洗い流していく。濡れた地面は日が昇れば乾くだろう。


 「そんな事も出来るのか」


 「効率は良くないがな」


 アスクレスは、事後処理をすると言って浮かせた死体とともに山の方へ歩いて行くのを見送った。残った俺達はアスクレスの家に入ると、アリエスが玄関の扉を閉めて鍵を掛ける。


 「鍵は閉めて良かったのか?」


 「アスクレスも持ってるからね。それに防犯は大事だ」


 アスクレスはしばらく帰ってこないから先に休んで良いと言われたので甘える事にした。


 「俺は部屋に戻るから何かあったら呼んでくれ」


 アリエスと別れて用意して貰っている2階の部屋に入る。部屋に設置されたベッドの上ではイザベラが寝息を立てて眠っていた。起こさない様に注意しながら静かに隣のベッドに入って眠りにつく。



 ◇



 翌朝、カーテン越しに入る太陽の光で目が覚める。イザベラも起きたので身だしなみを整えてから一緒に1階へ降りた。1階ではアスクレスが朝食の支度を始めていた。俺達が寝ている間に戻って来た様だ。アリエスはいなくなっていた。


 「準備手伝うよ」


 「ありがとう。もう終わりだから座ってて良いわよ」


 そう言ってアスクレスは食事をテーブルに運んで席についたのでイザベラとともに朝食を頂く。食事が終わったので昨夜の件を尋ねてみる。


 「夜の件は終わったのか?」


 「ええ、手間を掛けさせました」


 「構わんさ」


 「?」


 イザベラは、俺とアスクレスの会話の内容が分からず困っているが頭を撫でて誤魔化した。朝食の後はアリエスが村を案内してくれる事になっている。午後からは昨日の演習場で模擬戦を行う流れだ。


 模擬戦にはアリエスとピスケス以外の魔導師達も参加するとの事で、俺の事を紹介したいと言ってきた。話をしているとチャイムが鳴ったのでアスクレスが玄関に向かった。戻ってきた時にはアリエスも一緒だ。


 「待たせたかな?」


 「大丈夫だ。行ってくるよ、アスクレス」


 「いってらっしゃい」


 外に出ると玄関の横でピスケスが立って待っていた。先頭を歩くアリエスに続いて俺とイザベラが歩く。少し後ろをピスケスが歩いている。


 先を歩くアリエスが説明してくれた。目につく建物は(ほとん)どが民家との事だ。この村に住んでいる住民は全員が魔法使いという訳ではなく魔法を使えない者も多い。そのため農業や林業が生活の基盤になっている。


 村の案内を一通り終えると昼頃になったので1度アスクレスの家に帰った。昼食を取った後に、村の中にある民家の地下室から入るルートで洞窟内にある演習場へ向う。


 到着した演習場には既に3人の魔導師が集まっていた。3人とも腕が良い様で高い魔力を感じさせる。組み合わせは男2人に女1人だ。


 「アリエス、そいつが例の魔法使いか?」


 3人のうちの1人、短い金髪を逆立てた男が口を開いた。杖や武器を持っていないが手甲をしているので格闘術を使うのだろう。口調はややぶっきらぼうという印象だ。


 「あぁ」


 「本当に強いのか? 魔力を全く感じないが」


 「実力は私より上だよ。手も足も出なかったからね」


 初対面の魔導師達は俺の実力に疑問を持っている様だ。魔力を抑えている上に感知されにくい様に隠しているから傍目(はため)には普通の人間に見るだろう。計器等で測る場合も、魔力を放出するか魔法を使わないと測れない場合が多ので気付かれにくい。


 「信じられないな」


 「試してみるか?」


 「強気だな、手加減はしないぜ?」


 少し挑発したみると乗って来たので最初の相手が決まった。こういう場合は叩きのめすのが定石だ。下手に手加減するとプライドを傷つけるし、華を持たせると調子に乗る。実力差を思い知らせてやろう。


 「すまないが相手をしてやってくれ」


 アリエスが申し訳なさそうに謝った。3人の魔導師とは初対面なので力量を知る必要もある。「問題ない」と答えると、助かるといった表情で小さなため息を吐いた。


 演習場の中央にある線で男と向かい合うとアリエスが試合開始の開始を告げる。


 開始と同時に向かってくる男を手元に出現させた杖で迎え撃つ。相手の動きに合わせて振り下ろした杖を(かわ)して(ふところ)に入ろうとする男を起動の速い魔法で牽制する。


 体勢が崩れた隙をついて距離を取るが、男は体勢を戻して再び踏み込んで来た。殴る蹴るといった格闘術で攻め立てる男に対して杖を槍の様に振るって迎え撃つ。同じやり取りを何度か繰り返すが引き離せない。


 どうやら身体強化の魔法と格闘術に重点を置いた近接型の魔導士の様だ。こちらが放った魔法弾を拳で撃ち落としてくる。


 「ハァッ!」


 気合いの入った蹴りを避けると、勢いそのままに独楽(こま)の様に回転して次の蹴りが飛んでくる。踏み込みからの突きと蹴りが流れる様に動く。


 「良く鍛えられている」


 「避けてるばかりじゃ勝てないぜ!?」


 「そうだな、反撃しようか」


 全身に魔力を流して身体強化の魔法を起動させると杖を槍の様に構えた。脚に魔力を集中させて一気に相手の懐へ踏み込む。


 「!」


 驚いて動きが止まった所に、水平に振るった杖が男の脇腹に入った。大きく飛ばされたが、空中で回転して体勢を整えて着地した。本当に良く鍛えている。


 「ぐっ!?」


 攻撃を受ける瞬間、タイミングを合わせて飛んで、衝撃を緩和しようとしたが上手く行かなかった様だ。


 「一瞬で移動しなかったか!?」


 観戦している男が驚いでいる。魔法にも高速移動の術式があるのだが伝わっていないのだろうか。


 「〈宿地(しゅくち)〉という移動術の1つだ。後で教えるよ」


 「よそ見してんじゃねぇ!!」


 吹き飛ばされた男が勢いをつけて飛び込んでくる。繰り出してくる拳を避けると、伸び切った腕を掴み相手の腹に手を当てた。そのまま勢いを利用して腕を下に引き、男の体を回転させて真下に投げた。


 「カハッ!?」


 背中から地面に叩きつけられて肺の空気が一気に漏れる。俺は体を(ひね)ってそのまま壁際まで盛大に投げ飛ばした。


 「そこまで!!」


 男の攻撃の全てが俺に届いていない事を見て、アリエスが模擬戦の終了を宣言する。壁際まで投げ飛ばされた男が服の汚れを払いながら中央の開始位置まで戻って来た。


 「あんた強いな、疑って悪かった」


 「初対面で信じろ、と言う方が無理があるだろ」


 普通は信用しない。自分達にとって都合の良い内容が含まれているなら尚更(なおさら)だ。男が落ち着いたのを見計らってアリエスが紹介を始めた。


 「それじゃ、改めて紹介しよう」


 俺とイザベラの紹介が終わると、次に集まった魔導士達が自己紹介を始めた。最初に自己紹介をしたのは俺と戦った男だ。


 「俺の名前はレオという。最初は勝てると思ったんだが、一方的に返されると少しへこむよ」


 へこむと言いながらも元気そうではある。


 「私はバルゴと言います、よろしくお願いします」


 ショートヘアの女は宝石が付いた長い杖を手に持っており、正統な魔導士といった佇まいだ。


 「バランだ。よろしく頼む」


 バランと名乗った男は腰に剣を刺している。魔導師と聞いていたが実際は魔法剣士といった所だろうか。


 「魔導師は他にもいるし、私とピスケスも時間が合えば参加する予定だ」


 アリエスはそれなりに忙しくタイミングが合った時に参加する方針の様だ。ピスケスはアリエスの護衛なので行動をともにしている。


 「今日の訓練は模擬戦の予定なんだが……」


 今日の予定をアリエスに確認するとレオが割り込んで来た。


 「それより、さっきの技を教えてくれ!!」


 「俺も知りたいな」


 レオとバランが〈宿地〉を教えてくれと言ってきた。前衛を務める2人にとっては魅力のある移動術なのだろう。


 「〈宿地〉でしたっけ? 私でも使えるのですか?」


 バルゴも興味があるようだ。後衛が習得した場合、攻め込んできた前衛から距離を取るのに使えるので便利な面もある。


 「覚えておけば、敵の前衛から距離を取る時に使えるから損はない」


 「でしたら、私もお願いしたいです」


 予定を変えて良いものかとアリエスを見ると頷いた。許可も出たので本来の予定を変更して〈宿地〉の訓練を始める。


 数時間が経って真上にあった太陽が山の影に隠れ始める頃、集まった魔導師の5人とも〈宿地〉が使える様になっていた。バルゴも格闘術の基本は学んでいるそうで、思ったよりも早い習得になった。


 イザベラも練習したが体が出来ていないので習得には至らなかった。


 「これは良いな、奇襲にも使えそうだ」


 レオが〈宿地〉を使って演習場を走り回っている。バランは剣を構えて〈縮地〉を使った後の動きを確認していた。


 「〈宿地〉が使える者同士だと近接での捌き合いになるから格闘術も鍛えておけよ」


 忠告はしたが近接2人の耳に届いているかは怪しい。アリエスとバルゴが「後で注意しておく」と言ってくれたので任せる。


 「この技は他の魔導師にも教えて良いか?」


 「あぁ」


 〈縮地〉を広めて良いかアリエスが確認してきたので了承する。細かい点や名前は違えど、同じ様な移動術は体系・流派問わず存在するから広まっても問題無い。


 「日暮の時間だし、今日はここまでだ」


 「俺はもう少しここにいるぜ」


 「私も残ります」


 「俺も残って訓練する」


 アリエスが終了を伝えるがレオ達は残って〈縮地〉の訓練を続ける様だ。俺とイザベラ、アリエスとピスケスの4人は先に帰る事にした。



 ◇



 「どう思います?」


 演習場に残ったバルゴが〈縮地〉の訓練をしている2人に声を掛ける。


 「ハヅキの事か?」


 「実力者だとは思うが、事前に言われてるほどの危険性は無さそうだ」


 バランは事前に聞いていた情報と異なった印象を持っている様だ。


 「彼の実力もそうですが私達の目的に気づかれる危険性が高い、と言う事です」


 「連れてる子供を人質に取れば良いんじゃね?」


 「素直に言う事を聞いてくれれば良いですが、私達全員を皆殺しにしてでも取り返しに来る可能性があります」


 レオの短絡的な提案に対して最悪の可能性で返すバルゴ。2人のやり取りを聞いてバランは額に手を置いて頭を抱えた。


 「バレた所でハヅキには関係ない話だ。この世界に来れたなら他の世界に行く事も出来るだろう? なら他の世界に追い出せば良い」


 「レオ、もう少し考えてくれ」


 「考えてるよ。けど、俺は考えるの苦手だからな。細かい所は任せるよ」


 「まったく……」


 3人でハヅキの話している所にいつの間にか別の人物が1人現れた。その人物は3人と知り合いの様で警戒せずに受け入れる。


 「ハヅキがアスクレスの家に戻った」


 「そう」


 その人物の報告にバルゴが返事を返す。


 「村に入った侵入者は調べが付いたのか?」


 バランは昨夜、ハヅキ達が処理した侵入者について尋ねた。


 「他の国のスパイの様だが詳細は不明だ。生きていれば情報を吐かせる事も出来ただろうが……」


 「そこは仕方ないだろう。下手に生け捕りにすれば国際問題として取り上げる可能性がある」


 「旅行者が道に迷ったと言えば言い訳は立ちますから……」


 「その辺はアスクレスが上手くやるだろ。ハヅキ達の監視はリコに任せて俺達は準備を進めようぜ」

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