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前日譚・不審な協力者

 彼らの話を聞いて一つの可能性が浮かぶ。未来からの来訪者という可能性だ。


 身なりから文明のある世界の出身と推測出来る。また、彼らの発言から電子機器や機械兵器の知見も読み取れる。


 過去よりも未来から来たと言う方が納得出来る。


 「まさか!? 君たちは!?」


 私が言いかけると、男が人差し指を立てて自分の口元に当てた。それ以上は言うな、という意味だろう。


 男のジェスチャーを、私は見て言葉を飲み込んだ。それから私達は彼らが話してくれた情報の対価として、この世界の情報を話していった。


 私が彼らの質問に答えると、男は何度か考え込む事があった。少し気になったが、話を続けて街の様子や私達の現状を共有する。


 話していると、外から研究員の1人がロビーに入るなり大声で叫んだ。


 「大変だ! 研究所の外にドローンが集まってる!」


 「!!」


 外に出て確認すると、研究所の上空には多数のドローンが飛び交っていた。森や街の方へは行かず、研究所の周りを飛び回っていた。


 『警告!! アンノウンの接近を確認! 正面から4つ、裏から2つです』


 その声は、男の手首に嵌められたブレスレットから聞こえて来た。


 「デバイス!?」


 簡易的な端末も含めて、今では全てのデバイスが機能しなくなった。なのに男のデバイスは動いている。疑問に思う私達を無視して彼らは行動を起こした。


 「俺が正面を押さえるから裏は任せていいか?」


 「えぇけど、1人で大丈夫なん?」


 「ダメそうなら呼ぶよ」


 2人は軽く話した後、正面から出て行った。男は真っ直ぐ走って行き、女は建物沿いに裏へ回って行った。


 正面には近づいてくる細長い物が4つ、先ほど警告されたアンノウンだろう。私達が相手を見つけた瞬間、大きな爆発が起きた。


 私達は建物の中にいるにも関わらず聞こえた爆発の音から、かなり大きな規模の爆発だと認識出来る。


 何度か雷が落ちるような音も聞こえて来た。


 爆発の音を聞きつけて、建物の中にいた他の研究員達もロビーに集まって来た。


 「爆発の音が聞こえたけど!?」


 「まさか!? 敵か!?」


 パニックを起こし掛けている研究員達を落ち着かせてから、事の流れを説明する。


 「そいつは本当に信用出来るのか?」


 「動くデバイスを持ってるのが怪しいわね」


 「けど、AIの手先なら真っ先に私達を殺しているハズよね?」


 「何か企んでるのか?」


 研究員達が騒ぐ中、女が戻って来た。その後ろには正面から飛んで来た物と同じだと思われる円柱状の機械が付いて移動していた。


 機械には光る輪がそれぞれに付いていた。女は研究所の出入口近くに来ると光の輪を消した。


 浮かぶ力を失った機械は音を立ててその場に落ちた。機械には所々焼けこげた後や何かに貫かれた後が見て取れる。


 「雷の魔法で中の回路壊したから、もう動かんよ。他と連絡も取られへんし」


 「そう……なのか?」


 「使えるパーツとかあるかな? 思って持って来てんけど、見てくれへん?」


 「……分かった」


 「ラモン主任!?」


 「見たところ本当に壊れている様だから大丈夫だろう」


 私はそう言って研究所の出入口に置かれている機械の元へ向かった。機械は焦げた臭いを放っている。


 雷の魔法を使った様で、中の回路が焼け焦げて黒く変色していた。


 「すまないがここまで壊れると回収できるパーツは無いな」


 専門の技術者なら可能かも知れないが、研究者である我々では回収は不可能だ。


 女の方も落胆した様子はなく、回収出来ればラッキーくらいの心持ちだったのだろう。


 「さすがに早いな」


 男が帰って来た。後ろには魔法の輪を纏った機械が付いて飛んでいた。1機は焼けこげた後があり、残り3機は横や斜めに両断されている。


 「それ、大丈夫なん?」


 女は両断された機械を指差して聞いている。


 「中のシステムをハッキングしたから大丈夫だ。上を飛んでるドローンもハッキングは済んでる」


 降ろしても邪魔になるから飛ばしたままだが、と男は言った。


 「でもハッキングしてどうするん?」


 「AIが使ってるネットワークに侵入して情報を探している。少し時間が掛かるから休憩にしよう、話も途中だったしな」


 ハッキングに侵入と不穏な単語が聞こえて来たので思わず聞いてしまった。


 「敵が集まって来たりはしないのか?」


 「そこはAIの思考パターンによるとしか言えないな」


 『ここは管理AI〈ツンカシラ〉の領域です。〈ツンカシラ〉は能力の高い人間を好みますので自身の能力を示していけば生存確立を上げられると推測します』


 「管理AI?」


 『文明を壊し、再建するプロセスを管理するAIです』


 「そんなの聞いた事ないぞ!」


 『元々はネットワーク管理を担っていたAI群です。AIが反乱する前に未来予測演算にてプロセスを管理するに最適なAIが選出されました。それが管理AIです』


 私達は男が持つデバイスから説明を受ける。どうやら、AIが反乱した時に指揮・管理を行う管理AIというものが決められたらしい。


 「だが、君? は大丈夫なのか?」


 『私のシステムは、この世界の文明レベルとは大きく離れていますので管理AIからの干渉は不可能です』


 世界中のネットワークを支配するAIからの干渉を受け付けないというデバイスは、一体我々の文明からどれだけ進んだ技術で作られているのだろうか。


 「お前達が我々の味方である根拠も確証も無い!」


 研究員の1人が叫ぶ。


 「君の言う事も理解出来る。だが、彼らは私達に対して敵対行動を取っていない」


 「私達を騙している可能性もあるわ」


 「そうだな。しかし、それは他の人間にも言える事だ。彼ら以外の人間に出会ったとして、その人間達は私達の味方になってくれる保証は無い」


 「それは……そうだが」


 私の反論に口をつぐむ研究員達。反論するならもう少し粘って欲しいと思いながらも、機械を処理してくれた彼らに謝罪する。


 「うちの者達が過ぎた事を言った、申し訳ない」


 「気にするな。この環境なら疑うな、と言う方が無理だろう」


 謝罪を素直に受け取って貰えた様で助かった。



 ◇



 「では、改めて情報交換をしようと思う」


 私達は研究所のロビーに戻って来た。先ほどの騒ぎで集まって来た研究員達も含めて全員が揃った。椅子とテーブルを持ち寄って、各々座っている。


 いなかった研究員達への情報共有も兼ねて、話した内容を確認していく。私達が"別の世界に行く方法"を探している事、彼らが"時間を越える方法"を探している事、先ほど謎の機械が現れた事。


 「その機械は、結局何だったんだ?」


 『探索用の大型ドローンと言った所でしょうか。簡単な戦闘なら出来ますが、メインは探索です』


 男のデバイスが機械に付いての説明をする。戦闘といっても採取の延長で、私達が思っている様な戦闘行為は出来ないそうだ。


 「この場所を調べに来たって事か」


 「ねぇ、話を(さえぎ)る様で悪いんだけど自己紹介はしたの?」


 「……まだだ」


 「なんでよ……」


 女性の研究員がため息をつく。探していた情報が見つかって舞い上がってしまったと謝罪する。


 「遅くなったが、自己紹介をしよう。私はラモン・マルヴァス、この研究所で主任を勤めていた」


 私を筆頭に順番に自己紹介をしていく。私達が終わると彼らが自己紹介をしてくれた。


 「俺の名前はハヅキ・シルフィリア、魔導師だ。腕に嵌めてるのがサポートをしてくれるデバイス〈ブリュンヒルデ〉だ」


 『よろしくお願いします』


 「私はシャーラ・シュトルムと言います。警察局の捜査官をしてます」


 全員の自己紹介が終わったので、ハッキングした機械について尋ねる。


 「どっちも偵察・探索用だな。小型で広範囲を探索して、大型で要所を調べる感じみたいだ」


 「あのドローンは、私達がここにいるから来たのか?」


 「分からない。たまたま研究所を見つけたから探索に来た可能性もある」


 「ハッキングして、何か情報とれた?」


 シャーラがハヅキに尋ねると、代わりにブリュンヒルデが答えた。


 『世界や時間を越える研究に関する資料は有りましたが、こちらが求めている情報は得られませんでした』


 「ハヅキの魔法で私達を別の世界へ運ぶ事は出来ないのか?」


 イザベラ主任がハヅキに尋ねる。可能であれば、深追いしてまで情報を得る必要は無くなる。


 「出来ない事もないが、行き先はランダムだ。あと、身につけられる程度の軽い荷物しか運べない」


 他にも制約はあるそうだ。私達が思っているほど上手くは行かない様だ。万全を期すなら大型の船を用意するのが望ましい、とハヅキは言う。


 「そんな船用意して魔法で転移させられるん?」


 「そこは多分、大丈夫だ」


 「多分って……、当てでもあるん?」


 「当ては無いが目星はついてる」


 「詳しく聞かせてくれ」


 ハヅキがつけている目星とは、戦争で使われている軍艦の事だった。ほぼ全てが管理AIの支配下にあるが、ブリュンヒルデならば取り返す事が可能だと言う。


 他にも【境界の羅針盤】という魔工具が有るらしい。様々な次元世界を移動する為の物で次元座標を記録する代物の様だ。


 「取り返した軍艦に【境界の羅針盤】の術式の一部を刻めば一度位なら問題なく移動出来るはずだ」


 「それは、どこで手に入るんだ?」


 「ブリュンヒルデ、調べられるか?」


 『了解』


 ハヅキがブリュンヒルデに出した指示のもと、ネットワーク内の検索が始まった。5分程で目的の軍艦が見つかった、と報告が来た。


 『ここより南西にあるバパナーズ沖に停泊中の軍艦を発見しました』


 「なら、その軍艦を鹵獲(ろかく)するか」


 「私達はどうすれば良い?」


 「生き残ってくれ。余裕があるなら軍艦に積み込む荷物を用意してくれると助かる」

 

 私達は、彼らが軍艦を鹵獲して戻って来るまでの間に出来る事をリストアップしていった。同時に、襲撃を受けた場合やトラブルで研究所を放棄した場合など、悪い状況への対応も出来る限り想定していく。


 「なぜ、ここまでしてくれる? 情報交換を持ち掛けたのはこちらだが、ここまでして貰えるほどの情報は渡していない」


 「こちらの都合だ、気にするな」


 「……」


 私達を助ければ彼らにとって都合が良くなる、と言う事だろうが詳細は教えてくれなかった。


 「ロビーの一部を借りたいが構わないか?」


 「大丈夫だが何をするんだ?」


 「移動用のマーカーをセットしておく。何か有れば、すぐ戻って来られる様にな」


 動線の邪魔にならない位置を伝えると、ハヅキは早速マーカーをセットした。作業が終わると席に戻って来た。


 「出発はいつ頃の予定だ?」


 「そうだな……。ブリュンヒルデ、バパナーズ湾までどの位かかる?」


 『休息無しの直線飛行でおよそ20時間です』


 「結構な距離やな」


 「休息を挟んで2日か。ラモン、すまないが寝床を借りれないか?」


 「構わないよ。部屋は沢山空いているからな」


 今夜は研究所に泊まって、早朝に出発するとの事だ。イザベラ主任に後の事を任せて、私は彼らを空いた部屋に案内する。


 研究所はそれなりに大きい上に住居棟まで隣接している。1部屋はワンルームでシャワーとトイレが付いている。希望すれば中の掃除もしてくれるが誰も頼まない。積み上げた資料やプライベートスペースを触られるのが嫌なのだろう。


 「この部屋だ。すまんが相部屋で頼む」


 「了解した」


 「中にシャワーとトイレが付いてるから、上手く使ってくれ」


 私は部屋の中にある設備を一通り説明してから退室した。食事は「手持ちがあるから」と言って断られた。


 私達も余裕がある訳では無いから助かるが、気を使わせてしまったかな? と少し思う。


 翌朝、日が昇るには少し早い時間に彼らは出ていった。



 ◇



 10日後、彼らは戻って来た。出ていった時と同じく手には杖を持っているだけなので失敗したのかと不安になった。


 「無事だったか! ……軍艦はどうなった?」


 「鹵獲したよ。一悶着あったから中は壊れているが航行するのに問題はない」


 軍艦は魔法で収納しているとの事だった。船に侵入した時に、AIの機動兵器に襲われたそうだ。その戦いの時に壊してしまったと謝られた。


 「君達が謝る必要は無いよ」


 「【境界の羅針盤】の術式も手に入れてある。近くに軍艦を置ける様な場所はないか?」


「それなら池がある。ただ、淡水だから軍艦は浮かばないだろうが……」


 「置いておければ良い」


 そう言う彼らを近くにある池まで案内する。ハヅキは魔法を発動させて収納してあった軍艦を取り出して池に降ろした。


 軍艦は浮かぶ事なく沈んで船底が水底につくと傾いた。魔法で調整しつつ少し傾けて軍艦を設置させた。


 「少し傾いているが大丈夫か?」


 「この位なら問題ないだろう」


 私は研究員達を集めて、軍艦に荷物の積み込みを始めた。高さのある軍艦への乗降は、ハヅキとシャーラが魔法で手伝ってくれたのでスムーズに積み込めた。

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