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海の管理者

 海に潜り続けていると水深1000mほどで海底に辿り着く。海底は砂が堆積しており、少し動いただけで舞い上がった。


 魔法を使って周囲を探索するが特に変わった反応は見られない。


 砂を巻き上げながら進んでいると、さらに深くへと続く崖にたどり着く。どうやらマルヴァスの沖合は海溝になっている様だ。


 崖に沿って進んでいると、突如として威圧感と視線を感じた。視線を感じた方を見るが暗闇しか見えず、魔法にも反応はない。


 警戒していると頭の中に声が響く。ブリュンヒルデとは違う低い声が、ゆっくりと語りかけてくる。


 『お前は何者だ? なぜここにいる?』


 「俺の名前はハヅキだ。巨大な魚の噂を聞いてここまで来た」


 相手の姿が見えないので魔法でこちらの声を伝えられない。水球の中で応えると伝わった様で、さらに声が響いてくる。


 『目的はなんだ?』


 「都市の伝承に残っている"空を割って現れた船"を探している。何か知らないか?」


 『それを知ってどうする?』


 「探してる物があってな。その船に関係してるんだ」


 『……この海は我の管理する所。荒らさないの言うのであれば話を聞こう』


 自称海の管理者から感じる威圧感は和らいだが消えた訳では無い。警戒しているのだろう。


 〈ワウドゥール〉で起こった熊による襲撃事件を話した。


 『なるほど。しかし、それならば問題はない。我が海の管理を始めてから主だった異変は起こってあらぬ』


 〈マルヴァス〉の街並みや人の往来を見る限り、〈ワウドゥール〉の様な大きな異変は起こっていない。海も平和なのであれば【オーパーツ】は存在しないのだろうか?


 だが疑問が残る。頭の中に言葉を伝えてくる自称管理者は何者なのか? 放ってくる威圧感は人とは気配が違う。


 海洋生物が独自に進化した存在という可能性がある。しかし、最も高い可能性として思い当たる事、それは人工生命体だ。


 かつて、この世界に来た人たちが船と【オーパーツ】を海に隠した。そして隠した船と【オーパーツ】を守り、管理するための存在を作ったのだとしたら……。


 「今度はこちらから質問だ。なぜ、お前は海を管理している?」


 『我が他の者たちより知恵があるからだ』


 「何故、姿を見せない?」


 『ここは深海だ。姿が見えないのは暗闇のためで隠しているつまりは無い』


 「なら、明かりを着けても問題ないな?」


 『無論だ』


 了承を得たので魔法で広範囲を照らし出す。光の中に現れたのは、大量のヒゲを生やした鯨の様な生物だった。しかし、身体が大きすぎて半分ほどしか照らし出せていない。


 (ヒゲを生やした鯨? いや、あれはヒゲじゃなく触手か!?)


 『ほう、これほどの魔法を使うとは優秀な魔導師の様だな』


 「魔法を知っているのか?」


 『我も使えなくはないのでな』


 頭に響く声は目の前にいる鯨が、意思を伝えるために使っている意思疎通の魔法なのだろう。


 「なら、こちらの探し物について詳しく話そう」


 自称管理者である鯨に【オーパーツ】を探している事、こちらが把握している【オーパーツ】の種類と内容を伝える。


 『なるほど。話を聞く限り危険な物も多い様だな』


 「適切に管理・運用されているなら良いが、放置されて暴走していたら困るからな」


 『心当たりはある』


 足元の砂が巻き上がり、目の前で手の平サイズの薄い板状になる。砂の板には細かく紋様が入っていた。


 「これは!?」


 『海底に沈んだ船には【促進の紋章】と呼ばれる板が7枚保管されている。この海は紋章から漏れ出る力によって豊かになった』


 「お前が管理してるのか?」


 『そうだ。私はその為に生まれて来たのだから』


 鯨は自身の事、この世界に来た人達の事を話し始めた。


 戦争から逃れてこの世界に辿り着いた人たちは船を海に沈めて隠した。そして陸に上がり【促進の紋章】を使って発展させていった。


 初めは貧しかった漁村も、年を重ねる事に豊かになり大きな都市国家へ発展した。漁村を離れて森に入った人たちもいた様だが行末は知らないとの事だ。


 しかし、発展するにつれて格差が明確になっていく。貧しいままだった人たちは反抗し、暴動を起こした。そして、豊かな生活の源である【促進の紋章】を奪おうとする者も現れた。


 当時の権力者たちは【促進の紋章】を海底の船に戻すと共に、自分たちが死んだ後も船の管理と守護をする者として人工生命体を作った。


 目の前にいる鯨は、その時に作られた人工生命体の子孫だという。


 「船には他に兵器や魔道具は残っていないのか?」


 『我が引き継いだ記憶によれば全て破壊されている。残っているのは7枚の紋章だけだ』


 「わかった。紋章については今後も管理をお願いしたい」


 『回収するのでは無いのか?』


 「適切に管理・運用されているなら現地に任せても良いと言われている」


 『……承知した』


 鯨が管理を承諾したので周囲を照らしていた魔法を解除する。深海は再び暗闇に包まれ、鯨の姿は見えなくなった。


 しかし視線は感じる。威圧感は無くなったが近くにいるのだろう。


 「ブリュンヒルデ、勝手に話を進めてすまない」


 『問題ありません。最終判断と決定権はマスターにあります』


 ブリュンヒルデが問題ないと言うなら大丈夫だろう。その場でオーディンに繋いてもらい報告を済ませる。オーディンも俺が決めた事なら問題はないと言ってくれた。


 念の為、ブリュンヒルデに搭載されている【境界の羅針盤】にこの世界の座標を記録しておく。これで様子を見に来る事が出来るし、トラブルが起こっても対応出来る。


 その場を離れ、海面を目指して浮上を始める。浮上している間にイザベラに旅の目的を話す。


 「俺は【オーパーツ】と呼ばれてる危ない道具を集めている。さっきの鯨の様に話が通じる相手なら良いが、熊の様に暴れ回って人を殺す奴を相手にする事もある」


 イザベラは黙って聞いている。真剣な表情をしていて、俺の話を理解しようといているのだろう。


 「どれだけ危ない奴が出てくるか分からない。守ってあげたいが、どこまで俺の力が通用するかも分からない。だから、今からでも〈ワウドゥール〉に戻って欲しい」


 「……私は家に帰れないの。どこに行けば良いかも分からない」


 そう呟いたイザベラは泣きそうな表情をしていた。


 イザベラは両親に売られているから、帰った所で居場所は無いだろう。買い取った商人と行動していたが、その商人も熊の襲撃で死んだ。命からがら辿り着いた〈ワウドゥール〉で食べ物を盗んで生きてきた。


 熊の襲撃はトラウマになっているだろう。生きる為とはいえ物を盗んだのだから、追われる事もあっただろう。〈ワウドゥール〉に戻っても安心して暮らせる保証はない。


 「お願い……連れていって」


 「本当にいいんだな?」


 「うん」


 改めて危険な旅である事を伝えるがイザベラの決意は硬い様だ。ならば、こちらも覚悟を決めて連れて行くしかない。


 海面から微かに光が差し始めた。


 水の〈下位精霊〉を呼び出して視覚をリンクさせると、精霊を海面から出して周囲を観察させる。


 周りに船や人はおらず、月明かりだけが海を照らしていた。方角を確認して〈マルヴァス〉へ向かう。崖を超えて海岸から続く砂地に入ると南へ向かった。


 海岸に出ると騒ぎになるので離れた場所から上陸する事にした。白波が打ち付ける岩場から上陸すると、魔法を使って濡れた岩場を移動して海岸の端に出る。


 海岸沿いを歩いていると漁師たちが船と陸を移動しながら漁の準備をしていた。邪魔にならない様に迂回して大通りに入って宿に戻った。


 部屋に入るとイザベラをベッドに入れて休ませる。戸締りを確認してから、俺もベッドに入って眠りにつく。



 ◇



 翌朝、目が覚めて身体を起こすと隣でイザベラが寝ていた。記憶を辿るが一緒に寝た覚えはない。身体を揺すって起こすと、寝ぼけた表情のまま身体を起こした。


 「なんで俺のベッドで寝てるんだ?」


 「えっと……寝れなくて……ごめんなさい」


 「……とりあえず支度して宿を出よう」


 荷物を纏めて宿の受付に向かう。部屋の鍵を返して宿を出る。太陽は真上で輝いており、通りには人が溢れていた。


 建物の間を通る脇道に逸れて人混みから離れる。脇道を歩きながら建物の隙間から大通りを観察するが人混みが途切れる事はない。


 「行き止まりか」


 脇道が途切れたので少し戻って大通りに出ると屋台が立ち並ぶ場所だった。人通りは変わらず多いものの隣の屋台で食事は取れそうだ。


 屋台での食事が終わると都市の門を抜けて、マルヴァスに来た時と同じ様に渓谷に続く街道を歩いて行く。


 ある程度進むと街道沿いの木が増えていき森の様相を見せる。森に入って木の影に隠れるとブリュンヒルデに声をかける。


 「ブリュンヒルデ、次の世界へ行こうと思うが指定する世界はあるか?」


 『ありません』


 「なら、どんな世界かは運次第だな。【オーパーツ】のある世界なら助かるが」


 ブリュンヒルデと話しながらイザベラを抱え上げる。杖や装備品は出来るだけブリュンヒルデに預かって貰っている。


 魔法の無い世界だと違和感しか無いから警戒されやすい。トラブルは出来るだけ避けたい。


 「怖いか?」


 「大丈夫」


 イザベラに声を掛けながら抱き上げる。いずれは自衛の手段を覚えさせる必要がある。それが魔法か武術か、あるいは別の何かか。そんな事を考えていると準備が整った様だ。


 足元に魔法陣が薄い光を放って浮かび上がる。


 「ブリュンヒルデ、頼む」


 『了解』


 周囲に他の人がいないか確認すると、ブリュンヒルデが転移の魔法を発動させた。魔法は光で二人を包み込み、別の次元に存在する異世界へ導いて行く。

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