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ショートショート集・2

誇り高き俺の仕事

作者: 青樹空良
掲載日:2024/07/29

 俺には三分以内にやらなければならないことがあった。


『14時57分』


「すまない。もう行かなければ」

「そんなに仕事の方が大事なの!?」

「馬鹿言うな、そんなことあるわけないじゃないか! だが、これは俺にしか出来ないことなんだ!」

「待ってよ!」


 彼女の声を背中に聞きながら俺は急いだ。


「わかってくれ!」


 と、叫びながら。

 俺だって辛いに決まっている。

 本当は彼女とずっと一緒にいたい。今だって時間ギリギリまで一緒にいたくらいだ。

 だが、俺は行かなければならない。

 俺のことを待っている人たちがいる。


『14時58分』


 目指す場所が見えてきた。

 彼女は追ってきてはいない。

 大切な彼女だが仕事場に連れていくわけにはいかない。

 俺は窓からすべり込む。

 大丈夫だ。誰も俺の姿には気付いていない。

 が、俺のことを待っている人たちの姿は見える。

 俺を待っていてくれる人がいる限り、時間に遅れるわけにはいかない。

 時間厳守の仕事なのだ。

 俺の仕事場まであと少し。


『14時59分』


 間に合った。

 俺は誰にも気付かれずに仕事場へと辿り着いた。

 身だしなみを整える。

 人に姿を見せるのが仕事だ。おかしな格好をしていては出て行けない。

 呼吸もしっかりと整える。

 この自慢の喉も大事な仕事道具だ。


『15時00分』


 扉が開く。

 満を持して俺は人々の前に姿を見せる。

 そして、


「ぱっぽー、ぱっぽー、ぱっぽー」


 美しい声で三回鳴いた。

 誇らしげに鳴いた後、俺は閉まる扉とともに15時の役目を終えた。

 俺は安堵のため息を吐く。

 間に合って良かった。


「おかーさーん! ハトさん鳴いたー! おやつー!」


 俺が仕事をしている家の子どもが母親に向かって叫んでいる。

 一時間に一度仕事をしている中で15時は特に大切だ。この家の子どもがおやつの合図として俺を待っている。

 もちろん、どの時間だって大切だ。

 待っている人たちがいる限り、俺は定時に鳴き続ける。

 それが、誇り高き鳩時計の仕事だからだ。

 よし、彼女のところに戻るか!

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