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幸薄な私達の幸せな在処

作者: こん



夢を見た。


私が死にかけている夢。


夢中の私は、見知らぬイケメンを庇って胸に剣が刺さっていた。そのイケメンは、血が止まらない私を大事そうに抱えて、泣き叫んだ。


周りに黒い霧のような物が見えた。


場面転換


知らない場所に来ていた。お城が見える、ここは王都だろうか。


そこにいたのは、さっきのイケメンだった。だけど、雰囲気が違う。


場面転換


お城の中だろうか、大きい広間の目立つ所には豪華な椅子が置いてある。


その豪華な椅子には、人が座っている。王だろう。


イケメンは何かを必死に訴えていた。とても辛そうな顔で。


場面転換


そこは………血だった。さっきの王様がいた広間が血で染まっている。王様は血塗れで死んだまま椅子に座っていた。


広間の真ん中には、血塗れのイケメン。持っている剣が血塗れなのと、本人が死体の転がる中にいる事からこれは彼がしたのだろう。


狂気的な笑いを浮かべていた。




私はただの町娘。

両親が営む薬屋の手伝いをいつもしている。


今日、変な夢を見た。起きた時はビックリして戸惑ったものの、朝ご飯を食べている頃には夢だと受け入れた。


食卓には、今日の新聞が置いてあった。大々的な見出しで“3年後に魔王復活の予言!?勇者探しを王室が開始”と書かれていた。

魔王と言っても、私にはあまり実感がない。500年くらいに一度、誕生しているらしくその度に勇者探しが行われるそうだ。勇者に選ばれた人間は、魔王討伐後には大抵王様の娘を貰ったり貴族の位を貰ったりしているそうなので報酬はかなりいいと見受けられる。


今日も、両親の手伝いで薬草採取。

幸い、私は生まれながらに魔法を授かっている。平民が魔法を授かるのは滅多にないそうなので、ラッキーだ。


魔法で採取場所に飛ぶ。

指定された薬草を探すが、今日は上手く見つからない。森の中へ入って行くが、私の性格的に見つけるまで辞められなくなってしまった。


「あった……!」


やっと見つけた最後の一つ。やり遂げた達成感に浸ったのも束の間、日がほぼ落ちかけている事に気づく。

急いで帰ろうと魔法を使おうとした時、何かがいきよいよく飛び出してきた。


「……ぁ…」


魔物だった。


怖くて足がすくむ。

恐怖のせいか、魔法が上手く使えなくなった。

さらに焦り始める。


その魔物は、私に向かって大きく腕を振り上げた。終わりだと思って目を瞑る。


しかし、何も起こらなかった。


恐る恐る目を開けると、そこには倒れたさっきの魔物と魔物から剣を引き抜く同年代くらいの男の子がいた。


「君は……」


その男の子は、綺麗な銀髪をしていた。


「私を助けてくれたの?」


私の言葉にうんともすんとも言わず、こちらを振り返る。

瞬間、心臓を鷲掴みにされたような感覚が私の中を駆け巡った。


彼は赤い瞳をしていた。

赤い瞳に銀髪。それは、この国での忌み子の象徴だ。

しかし、そうやって関係無い子供を忌み嫌っているのはのは大人だけ。私は別にそんなのはどうでも良かった。


私は、その瞳に魅せられたのかもしれない。綺麗で、何か凄い物が眠ってそうな瞳。

未だにバクバクする心臓のあたりをギュッと抑える。


「綺麗……」


男の子は、驚いたような顔をして森に消えていった。


私がお礼をするのを忘れた事に気づいたのは、家に帰ってからだった。


次に会ったのは1週間後。その日も薬草採取だった。


木の影からやたらと視線を感じる。

振り返ると、この前の男の子がいた。銀髪と赤い目は今日も綺麗だった。

しかし、私と目が合うと逃げるように森へと消えていった。

私と話す気はさらさらないようだ。


また1週間後、また1週間後…毎回男の子は私を木の影から見ていたが、私が気づくと逃げるように帰る。


そうして半年が経ったある日、痺れを切らした私は声をかける事にした。

薬草採取の日、いつも通り籠を持って森で指定された草を摘む。暫くすると、ふと視線を感じた。


その視線を感じてすぐ、立ち上がって叫ぶ。


「私に何か用ですかー!!」


私の声は、真昼間の森の中をこだましていく。

視界の端に、草がガサっと動いたのが見えた。


「待って下さい!!!」


逃げられてたまるかと必死に叫んだ。


「あの、あの時はありがとうございました!もし、貴方がいなかったら私、死んでました」


あたりはシーンと静まり返っている。やはり、駄目だったか。


「うーん、どうやったら伝わるだろう…」

「ねえ、怖くないの?」

「うおぉ!!」


急に声が聞こえたものだから、反射で叫んでしまった。しかも、女の子らしからぬ野太い声で。

私の叫び声に驚いてしまったのか、男の子も怯えている。


「ご、ごめん。急に声を出してビックリしたよね。えっとー…ほら」


そう言って彼の背中をさする。その体は思ったよりも細い体をしていた。

男の子は私に触れられたのが嫌だったのか、怯えるのもやめてびっくりした顔でこちらを見た。


「僕が…怖くないの?」

「怖い…?」


そういえば、最初に声をかけられた時もそう言っていた。


「うん…だって僕を見ると皆怖がるから」

「怖くない」


つい食い気味に言ってしまう。

白い髪と赤い目のせいだ。

この子は何も悪くない。

ずっとそう思ってきた。

親が色で人を嫌っている様子も訳が分からなかった。


「私は怖くないよ。むしろ…綺麗」




今日も薬草摘み。


「遅くなった」


お礼を言った日から私が薬草採取のたびに彼は来て話してくれるようになった。


「今日は何をするんだ?」


私達は、薬草摘みが終わった後に一緒に遊ぶ。

この前は二人かくれんぼをしたが、この森を熟知している彼には無謀過ぎた。


「…じゃあ、遊びに行かない?」

「遊びに?」

「そう、近くの街へ」


その提案をするのも訳があり、私は丁度この間魔法で髪と目の色を変えれるようになったのだ。


「でも…」

「大丈夫!私が魔法をかけるから!」


そう言って彼の目と髪の色を、私と同じ茶色と緑に変えた。


「ほら、これで大丈夫だよ」


彼は恐る恐る私の差し出した鏡を確認する。

そこに映っていた変わった自分に驚く。


「す…凄い!」

「でしょ?」


彼の手を取る。


「ほら、行こう!」


そう言って、魔法で街へと飛んだ。


今日の街は、いつもと変わらず賑わっていた。飛び交う人の声、活気あふれる空気。


「どう?この街は」


ずっとキョロキョロと見渡しては驚いている彼に話しかける。


「凄い…思っていた10倍凄いよ」

「なら良かった」


まずは手始めに、飴屋のおっちゃんの所に連れて行く。


「おっちゃん!いつもの飴2個ちょーだい!!」

「お!いつもの嬢ちゃんじゃねーか、今日はお友達と一緒か?」


彼の手を引く。この空気にまだ馴染めてないのか、もじもじしている。


「うん!」

「じゃあ、今日の飴は2個おまけしとくよ」


お礼を言って、私のお気に入りの飴を近くの噴水に縁に座って食べた。

その後、かき氷も食べに行った。

書店に行って、気に入った本をプレゼントした。

古着屋で合いそうな服を選びあった。


私のお小遣い袋はすっかり空になってしまったが、心は満たされていた。

今まで、こんなに一緒にいて楽しい友達がいなかったからだろう。


夕暮れが近づいてきたので、また森に帰る。


「ありがとう、こんな体験初めてだったんだ」


彼は両手いっぱいに今日の戦利品を抱えながら言った。


「楽しかった?」


そう聞くと、おもいっきり首を縦に振る。


「じゃあ、また行こうね!約束」

「うん、約束」


そう言って別れたのが彼との最後だった。



それから2年、彼は現れなくなった。

私も薬草摘みに行く回数を増やすものの、一向に会えなかった。


2年の間に、今会えない事を悩むのも出来なくなってくるぐらい生活が酷くなった。

原因は勇者。


王は、魔王が現れる1年前に勇者の発見に成功した。

魔王は、私の住んでいるこの街の近くにある山を超えた所に現れるそうで、それに伴って勇者もこの街に来た。

最初は住民の誰もが歓迎し、沸いていた。

そんな空気も束の間、街に変な粉が出周り始めた。それは長期の快感の代わりに人を狂わせ、死に至らしめる事の出来るものだった。


一番初めに疑われたのが薬屋の我が家。

直そうにも、そんな薬を作っていないので治し方も分からない。

常連さんにも嫌われて、街総出で虐められた。


そうして両親は死んだ。私を置いて二人だけで心中したそうだ。


残されたのは、ボロボロの店と家。お金もない。

どうしようもない。


「死んだ方がマシなのかなぁ…」


家のドアが開く音がした。

咄嗟に身を隠す。


「ここかぁ、元薬屋の店って」


ガラの悪そうな男の声が聞こえる。


「ここの店主も可哀想だよなぁ、濡れ衣着せられて」


心の中がざわつく。


「なぁ、勇者さんよぉ」


ストンと何かが落ちるような感覚だった。

もう、本当にどうしようも無くなっていなのだ。初めから。そう、勇者が来たあの日から。


「俺には関係無い」

「ふーん、でもよぉ、ここ何も金目の物ねえわ。あ、そういえば薬屋に年頃の一人娘がいたはず」


心臓が跳ねる。


「流石に一家で死んでいるだろう」

「そうだよな、子を置いて死ねねぇか。こんな街なら尚更」


涙が頬を伝う感触がした。心は悲しくない、なのに涙が出る。

これがどうしてか、分かるけれど分かりたく無かった。

どうしようも無いような彼らに理解させられた。その事がどうしようもなくやるせない。



ここにはどのみちいる事は出来ない。

私はここから離れる決心をした。


魔法を使って限界距離まで飛んだ。そこからはひたすら走った。

私が走ると発生する風が涙を乾かしてくれた。

少しだけ冷たく感じる夜の空気が私を包んでくれた。


気づくと、そこは崖だった。いつ来たのか、どうやって来たのか何て分からない。

唯一つ分かる事は、その崖が私に一番の安らぎを提供してくれる事だった。

暗い崖の先は、私を誘っていた。怖く見えるはずの暗闇が温かく見えた。


1歩、また1歩と踏み出し………


「待って!!」


誰かに抱えられた。

最初、私を襲ったのは絶望。

"何故、運命は、私を死なせてくれないのか"という絶望が思考を占領する。


次第に恐怖がやって来る。恐怖は私を元に戻してくれた。


「私は……一体…」


そう呟く私を見て、私を抱えている人は安堵の溜息を吐く。

足が地上についた。


声とがっしりした手から、男だとは分かる。

しかし、私に助けてくれるような友達はいないはずだ。あの男の子以外……


ハッとして顔を上げる。


前と変わらない赤い目と目が合った。あの時と同じ様に、心が鷲掴まれる。


「貴方…は…」


そうだと言う代わりか、その男は少し笑った。

綺麗な銀髪は長くなっており、紐で一つに縛ってあった。


「また、助けられたわね…」


少し、気恥ずかしくなり顔を逸らす。それは、あの頃とは違う事を理解してしまうものだった。

でも、年を重ねても…変わらないがものだってあった。彼はこうしてまた会ってくれた。


「ありがとう」


心からの感謝。それは同時に私を理解させてくれる。

“私にはまだ希望がある”と


「もう…失いたくないから」


彼の口から溢れた言葉は酷く悲痛を帯びていた。まるで、私に向かって言っているようで、言っていないような。


顔を逸らしていたせいで、真相を見る事は出来なかった。

















ここまでお読みいただきありがとうございます!


補足


少年だけ前の人生(夢の出来事)を覚えています。思い出したのは、遊びに行った日です。少女と一緒に居ると、少女が不幸な目に遭うと考えたから離れました。ですが、少女は幸せにならなかった。


彼らの幸せは、結局の所一緒に居る事だったのかもしれません。



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