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【旧】救星の復讐者  作者: 平原誠也
一章 実地任務編
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魔剣

「いいか刀至。お前は魔術の才能はからっきしだったが、剣術の才能は頭ひとつ抜けている。いや天才と言ってもいいな。もし生まれたのが戦国時代だったなら歴史に名を残していた筈だ。そんなやつの武器が平凡な物だったら師匠であるオレの顔が潰れんだよ。だから黙って受け取れ」


 師匠は押し付けるように二振りの刀を手渡した。師匠の言葉にも確かに一理あるとそう思ってしまったため、渋々と受け取った。


「……わかりました。ありがとうございます」


 師匠である士道の顔に泥を塗る事はできない。


「だが、学生相手には使うなよ? 殺しかねないからな」

「わかっています」

「じゃあさっそくだが契約といこうか」

「契約?」

「そういえば説明してなかったな。まぁ見たほうが早いだろ。刀身に一滴だけ血を垂らしてみろ。あとは術式がやってくれる」


 師匠の言う通りに親指の腹を噛み切ると二振りの刀身それぞれに血を垂らした。

 すると血液が触れた場所から魔術式が展開した。

 『白帝』からは銀光が、『虚皇』からは黒光が迸り、その光量を増していく。

 そしてパッと大きく輝いた。

 瞬間、頭の中に刀の扱い方が情報として流れ込んできた。

 

「……いまのは?」


 光が晴れたそこには何もなかった。先程まで持っていた刀が跡形もなく消えている。置いておいた鞘も綺麗さっぱり。

 しかし単に消えたのではない。自分の中に刀の存在をしっかりと感じられる。


「『白帝』、『虚皇』」


 刀の名を呼ぶ。すると銀光と黒光の輝きが手の中に現れた。瞬時に刀の形を取り戻した。


「便利だろ?」

「そうですね。これが魔剣ですか」


 頭に流れ込んできた情報。それが正しいのならばこの二振りの刀は凄まじい武器だ。

 普通の魔術師では扱いきれない程の。だが俺なら扱える。半神である俺なら。

 

「ああ。一級品のな」


 そう言われるとなんだか申し訳ない気持ちが湧いてくるが、グッと堪えてもう一度礼を言った。


「ありがとうございます。少し試してみてもいいですか?」

「ああ」


 少し離れた床の上に『白帝』を置いた。

 

……『戻れ』。


 念じてみると『白帝』が消え、戻ってくる身体の中に感覚がした。

 自分の中に異物が入ってきたような感覚。しかし決して不快ではない。なんとも不思議な感覚だ。

 そしてもう一度名前を呼ぶときちんと手の中に現れる。


「師匠。これってどれだけ遠くても戻ってきますか?」

「ああ。お前とその刀たちは魔術的に繋がってるからな。地球の裏側に置いてきたって戻ってくるぞ。流石に一瞬ってわけにはいかないがな。原理としては一度純粋な魔力に形態変化して、契約術式で登録された魔力を辿って戻るって感じだ。血液を使ったのは魔力が一番濃いからだ」

「なるほど。なら……」


 思いついた事を試すべく襖を開けて外へ出た。師匠も興味深そうに付いてきた。

 暖かくなってきたとはいえ、まだ春の初めだ。夜になれば少し肌寒かった。薄着で少し寒いで済んでいるのは俺が人間をやめているからだ。

 腕を擦りながら、庭の中央まで歩いていく。


「こんなもんでいいか」


 呟くと立ち止まり顕現させたままの『虚皇』を鞘から抜き構えた。普通に構えるのではなく投擲の構えだ。

 大きく息を吸い呼吸を止め、遠くの木に狙いを定める。距離はざっと百メートル。俺ににとっては当たって当然の距離だ。


「――シッ!」


 鋭い呼気と共に『虚皇』を投擲した。飛翔した『虚皇』は寸分違わず、狙った木に吸い込まれて貫通した。そのまま数本の木々を薙ぎ倒すと、一本の木に深々と突き刺さった。


……『戻れ』!


 即座にそう念じた。数瞬の後、『虚皇』が戻ってきた感覚がした。

 百メートルの距離を一秒にも満たない速度で戻ってきたのだ。あまりの速さに驚いた。

 

「『虚皇』!」


 すかさず名を呼ぶと手の中には『虚皇』が収まっていた。試しに刀だけ顕現するように意識したため鞘は顕現していない。


……これは使えるな


 率直にそう思った。

 戦術の候補に投擲が入れやすくなる。普通なら投げたものはそのままだ。しかし意識するだけで戻るならば容易に投擲ができる。

 刀を手放したら不利になる。それは火を見るより明らかだ。

 だが戻るとなれば話が変わる。

 敵も後々不利になる投擲は意識から外れやすい。簡単且つデメリットなく意表を突くことができる。

 これだけで戦いの幅がかなり広がる。


 それに『白帝』と『虚皇』の真価は他にある。

 しかし、情報通りならばソレをするには被害が大きすぎるためここで試すことはやめておいた。


「気に入ったか?」

「はい。とても。ありがとうございます。」

 

 俺は『虚皇』を戻し、もう一度頭を下げた。


「それはそうと師匠。学校ってどこにあるんですか? 噂しか聞いたことがないので正確な位置がわからなくて」

「ああそうだ。忘れるところだった」


 師匠は袖から紙を取り出し、渡してきた。


「詳しい事はこれに書いてある。あと服とか必要なものはあのリュックに入ってる」


 師匠の指さした先にはパンパンに膨らんだリュックがあった。

 手渡された紙切れをチラと見ると地図が書かれていた。表には学園への道のりと思しきもの、裏にはこれから住むことになる家への道のりが。

 どうやらこれから通う弥栄学園は東京の隅にあるらしい。

 しかし重要なのはそこではない。


「詳しい?」


 師匠の言った詳しい説明は地図だけらしい。しかも最低限しか書いていない地図だ。小学生でももっと上手く書くだろう。


「とりあえず裏の場所に行けばいい」

「つまりは丸投げですね」

「そうとも言うな」


 俺は深くため息を付いた。


「それにしても東京ですか。遠いですね。それなら新幹線ですかね? 俺、一円もお金無いんですけど」

「何言ってんだ。お前なら走った方が早いだろ」

「流石にそれはないでしょう?」


 いくら人間を辞めているとはいえ、新幹線より早く走れるとは思っていなかった。

 それにもし走れたとしてもそんな速度で走っているのを見られたら、それこそ恐怖映像やら都市伝説になる気がする。


「まあ頑張れ」

「……正気ですか? …………ちなみに始業式は明日って書いてあるんですが?」

「だから頑張れ」


 半眼で睨んだ。こういう丸投げをする癖は出会った時から変わらない。おかげさまで今では料理が得意になった。というよりならざるを得なかった。

 しかし今に始まった事ではないと、諦めた。軽くため息が出てしまったのは許して欲しい。


「……すぐに発ちます」


 踵を返すと準備をするために自室へと向かった。




 準備と言ってもする事はあまりない。今住んでいるのは富士の樹海にある隠れ家だ。人里からはかなり離れていておよそ文明的な物はない。

 この二年半、ずっとここで暮らしていて外に出た事すらない。故に荷物なんて増えようがない。

 持ち物といえば数着の和装と初めての修行の時に貰った愛刀が二振りだけだ。

 この愛刀は銘など無い。なんの変哲もない日本刀だ。しかし二年半も使っていれば愛着も湧くと言うもの。それに今となってはもう一つの手足といっても過言ではなくなっている。

 だからこの愛刀を置いていくと言う選択肢は初めからない。

 その為、持っていくのは服と二振りの日本刀。服は既にリュックに入っている。

 しかし刀となるとそうもいかない。

 持ち歩いているのが警察にでもばれたら非常に面倒な事になる。


「まあそうなったら逃げればいいか」

 

 そう結論付けて愛刀をいつも通り腰に差した。それだけで準備は完了だ。


「よし!」


 俺は部屋を見回した。

 十畳程の一人部屋。生活感は皆無。持っていくものは他にはなく、がらんとしている。

 それもそのはず。なにせこの部屋ですることと言えば睡眠だけだ。

 起きている時は樹海の中で刀をひたすら振るい続けていたのだから。

 しかしこうしてみると感慨深いものがある。

 あれから二年と少し。この部屋で初めて目覚めてから長いようであっという間だった。

 何度も死にかけたが今となってはいい思い出だ。

 たとえ今はヒューの届かないとしても、学園でも鍛錬は欠かさずに必ずヒューを殺す。

 俺は決意を新たに部屋を後にした。

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― 新着の感想 ―
[良い点] プロローグ読みました。 世界でたった五人の超越者のヒュー。まるで敵わないような圧倒的格の差でも決して諦めない刀至の強い心に、私も心が熱くなります。 魔術や魔物といった設定の出し方も上手くて…
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