女子高生にランドセルって、やはり山田さんは変わっている
僕は理系選択の高校二年生。理科の選択は物理と化学である。隣のクラスの山田さんも物理を選択しているので物理の授業の時は一緒になるのだった。
選択授業の席は特に決まっていなく、最初に隣になった事でそれからはいつも隣同士になっていた。
山田さんはどうも同じクラスの連中と然程仲が良くないようで、授業前も授業後も話している所を見掛けたことが無い。
「山田さんて、虐められてたりはしてない?」
ある日、ついに我慢が出来なくなって聞いてしまった。山田さんからは何の反応も無かった。しまった、別に仲が良いという訳でもなく、ただ隣なだけで話もそんなにした事のない人にするにはセンシティブ過ぎる話題だった。
「はっ、有難う。起こしてくれたのね」
山田さんはぴくりと体が動くと、開いていた目を見開いた。どうやら、目を開けたまま寝られる稀有な人のようである。
「えっ、ひょっとして私、また目を開けたまま寝てた?」
僕が驚いて見つめたままだった事で山田さんは察してしまったらしい。またと言っている位なので、普段からちょくちょく目を開けたまま寝ているのだろう。僕が頷くと山田さんは恥ずかしそうに頭を掻いていた。
この時から、僕は山田さんを少し変わった女の子だと思い始めたのだと思う。
ある時山田さんは鞄を持たずにやって来た。手に裸の教科書とノートを持っていると思いきや、それは何かバンドのような物で十字に縛られていたのだった。
「山田さん。それは何」
あれから少しずつ話すようになって、今では大分遠慮なく話せるようになっていた。
「あっ、これ。ブックバンド。お父さんが学生の頃に使っていたんだって。何か良さ気だったから使ってみたの」
確かに、そう言われると年季が入っているように見受けられる。
「それで、どう?」
「思ったよりも、不便で面倒臭かった」
身も蓋もない意見だった。
「鞄に戻せば」
「鞄壊れたから持って来てない。家からは全部の教科書とノートだったから、バンドがギリギリだったのよ」
それは、さぞかし注目を集めていた事だろう。山田さんは周りの目を全く気にしないからきっと気が付いてはいないのだろうけれど。
次の日の物理の授業が始まる前に教室がざわついていた。僕もその違和感に思わず二度見をしてしまった。
「これ? 初等部の時のがあったから」
山田さんは中学までは付属の所に通っていたのだ。黒いランドセルを背負う姿を見て思った。
やはり山田さんは変わっている、と。