ちょっと〝トクベツ〟なんだって
あさ、くるまにのったよ。
〝ママの実家〟に、いくんだって。
「まるちゃんたちが、『おめでとう』してくれるって」
ふーん。
「今日は、ちょっと〝トクベツ〟だからね」
「あ?」
〝トクベツ〟?
☆ ☆ ☆
〝ママの実家〟についたよ。
おうちにはいったら、じぃじとばぁばとまるちゃんが、
「「「お誕生日、おめでとう」」」
って、にこにこしてた。
「いつもより、いっぱいぎゅーしちゃう♡」
「んぅー」
これ、〝トクベツ〟?
「それ、まるちゃんが得してるんじゃないの?」
「シーッ。ぴよこさん、シーッ。余計なこと言わないのっ」
「あははは。ごめんごめん」
「お誕生日に便乗したとか、言わないのっ」
「そこまで具体的に言ってないじゃん」
ママ、あはははって、たのしそう。
「余興はさておき」
「余興だったんだ、今の」
「余興ですー。便乗じゃないですー」
「根に持ってるし」
「持ってないですー」
まるちゃんのおくち、とりさんみたいになってる。
「すねてる?」
「すねてないですー」
「わかった、わかった。『余興はさておき』?」
「あ、そうそう。本題、忘れちゃだめよね。じゃあ、ちみたん。お座布団に着地するよ」
まるちゃんは、ぼくをざぶとんにおろして、〝ソファー〟のうしろから、おっきなふくろをもってきた。
「ちみたん、どうぞ。プレゼント♡」
ぼくのまえにおいたよ。
「ちみたんのよ」
「あ?」
ぼくの?
「そう。ちみたんの」
まるちゃんが、ぼくのよこにすわった。
「指さし確認、大事よね」
ぼくといっしょに、〝ぴっ〟てしてる。
「ちみたんのだから、ぽこぽこしても良いし、けりけりしても良いし、どーんってしても良いよ」
まるちゃんが、にこにこしてる。
ぽこぽこ……
してもいい?
ぼくは、ママをみた。
「良いよ。まるちゃんが、良いって言ったから」
ママが、にっこりした。
ほんと?
いいの?
えっと……
えっと……
どこから、ぽこぽこしようかな……
「ちみたん、おむつけーきの周り、ぐるぐるしてる。どこが良いか、探してるんだね」
まるちゃんが、ふふってわらった。
ぼくが、ハイハイでぽこぽこの〝ベストポジション〟をさがしてるあいだ。
すぐそばで、ママとまるちゃんが、おはなししてた。
「これ、どうしたの? 買った……んじゃないよね。ぬいぐるみとか、入ってないし」
「ちみたん、まだぬいぐるみに興味示さないから、作ってみた」
「えっ、わざわざ?」
「皆やってる程度だから。消耗品だし、いっぱい入ってるほうが良いでしょ?」
「いやもう、本当にありがとう」
「いえいえ、ちみたんのためなら♡ 1歳のお祝いだもんね」
まるちゃんがにこってして、ぼくをみた。
たっちして、ぽこぽこしてるぼくと、めがあったよ。
ママもみてるかなって、ママをみたら──
──スカッ
……あれ?
「──っと……い゛っ」
まるちゃんが、ぼくのしたになった。
ゴンッて、おとがしたね。あたま、かな?
ぼくは、いたいところないけど。
「ありがとう、ナイスキャッチ。……良い音したね。大丈夫?」
「うーん……痛い。でも、間に合って良かった」
「ごめんね」
「いえいえ。大事なちみたん、怪我でもしたら大変だから」
ぼくは、まるちゃんのうえにのったまま、ぎゅーされた。
「んなぁ!」
くるしいよ!
「あら、ごめんね。ちょっと、力入れちゃったかな?」
じたばたしたぼくは、ハイハイのかっこうで、ゆかにおろされた。
「さあ、ちみたん。このまま、ハイハイで突進したまえ」
ハイハイで?
「どーんって、行っちゃえ」
まるちゃんが、にっこりした。
あたまを、さすさすしながら。
いくよ?
ほんとにいくよ?
よーし!
ハイハイハイハイ──
「……ちみたん、ハイハイかなり速くなったね」
「ハイハイじゃなくて、シャカシャカって感じ」
「たしかに。……ねぇ、ぴよこさん」
「なに?」
「ちみたん、無事に1歳になって、良かったね」
「……うん。おかげさまで」
「私たちがしてあげられることって、ちょっとした手助けくらいだけどね」
「そんなことないよ。助かってる」
「そう? なら良かった。月齢のお祝いも大事だったし、成長っぷりを見られて嬉しかったけど。……1歳って、感慨深いっていうか。……なんかこう、わーって、こみ上げてくるものがあるね」
「うん……」
「…………心配なこと、いろいろあったけど。ぴよこさんが、お母さんとして本当によくやってるから。だから今も、ちみたんの元気な姿が見られるんだよ」
「やだもう。泣きそうになるから、やめて」
「お姉ちゃんが、ご褒美にぎゅーしてあげましょう」
「もー……こんな時ばっかり、『お姉ちゃん』とか……」
「ふふっ。たしかに。……よしよし。ぴよこさん、良い子ね」
「……もー…………ありがと……」
──ハイハイハイハイ……どかーん!
ころん。
「ふんすっ」
ハイハイハイハイ……どかーん!
ころん。
「……『そして、勇者ちみたんは、何度転がされても、おむつけーきに勇敢に立ち向かって行くのであった』」
「『おむつけーき』だと、締まらないわー」
「『魔王ぴよこさん』だと、ちみたんに勝ち目ないからねぇ」
「なんで私」
「『魔人まるちゃん』でもいいけど」
「弱そう」
「否定できないのが、悲しい」
まるちゃんが、なきまねしてた。
ぼくは、たたかったよ!
ハイハイハイハイ……どかーん!
ころん。
「うきゃう!」
やったなー!
──ぽこぽこぽこぽこ……!
「『お座りしてぽこぽこ』にクラスチェンジしたんだね。賢いね、ちみたん♡」
「まるちゃんは、なんでも『賢い』って言うんだから……」
ママが、ちょっとあきれてた。
「だって、賢いんだもん。ねぇ、ちみたん」
まるちゃんがはなしかけてきたけど、ぼくは、それどころじゃないよ!
「うきょー!」
えーいっ!
──ぽこぽこぽこぽこ……!
──ぽこぽこぽこぽこ……!
──ぽこぽこぽこぽこ……
……いっぱい、ぽこぽこしたら……つかれた。
「……あぅあー……」
ママに、りょうてをのばしたら、
「疲れちゃったか。そっか」
ってわらって、ぼくをだっこしてくれた。
「ちみ。1歳、おめでと」
「あー」
いっぱい、だっこしてね。
いっぱい、ぎゅーしてね。
ママ、だいすき!