7.シール―ジアの町①
町のメイン通りには露天商が所狭しと店を出し、あらゆるものが売り買いされにぎわっていた。
クレールはフードを深くかぶりつつも初めて見る品物の多さに興奮していた。
「うわーギムリス、この町には見たことのない果物やものであふれているな。どうしてここにはこんなに物が豊富なんだ? すぐそこは砂漠だってのに」
「おいクレール待てよ、お前人見知りなんじゃねえのか? 太陽の光は体に悪いんだろ?」
「えっ? 何か言ったか?」
「いやなんでもねえよ。たくこの二重人格が…まっこんなに多すぎちゃいちいちコイツのことなんか誰も気にしちゃいねえか。体調も悪くないんだったらいいか」
ギムリスはため息をつきながらクレールの後について歩いていた。
「なあギムリスはここにはきたことがあるのか?」
クレールは珍しい置物の店の品物を眺めながら振り向きざまに聞いた。
「二・三回ぐらいはな、あの砂漠の半分ぐらいは本当は木がたくさん生えている場所だったんだぜ、数年前まではな。偉い変わりようだよな。まあこの先にターラっていう定食屋があるんだけどなそこの親父と知り合いなんだよ」
「じゃあ蒼の塔についても知っていたんじゃないのか?」
「いや、俺そういうの全く興味がないから、この祭の時にきたのは初めてだ」
何だか疑いの目を向けながら睨みつけてくるクレールの態度をさらりとかわしながら露店をのぞいていたギムリスに目の前にいた露天の店主が二人の会話に割りこんできた。
「よおあんちゃん、ターラなら今の時期は店じまいしてるぜ、定食屋ならこの先の角を曲がったところに別の店があるぜ」
「えっ? ターラが店じまい? おいおやじ、バンじいさんに何かあったのか?」
驚いたギムリスが露天の店主に聞き返した。
「いっいや、俺も詳しくは知らねえが、なんでもこの先の砂丘に毎年出現する蒼の塔に挑んだ挑戦者達が戻って来た時に出す飯を作るのにバンのおやじさんがかり出されているってうわさだぜ。あんちゃんらもここらじゃ見ない顔だからどうせそのくちだろ? こんなところでうろついてていいのかい? 確か蒼の塔の挑戦権の締め切り時刻はもうすぐだぜ。あそこにいる奴らはほとんど挑戦者だぜ、早く行かないと締切りに間にあわなくなるぜ」
そう言って露店の店主が指さした先には大きな岩の前の広場の中央にテントが設置されていて、そこに向かって長蛇の列が蛇のように続いていた。
「えっ? 挑戦者って…蒼の塔に入る人間があんなにいるんですか?」
「なんだあんちゃんらそんなことも知らねえできたのかい? 蒼の塔ていったら観光名所だぜ」
「観光名所?」
「ああ、なんでも去年から塔の迷宮に入るのに申し込みがいるようになったらしいぜ、毎年入りたがる奴が多いんだが、最後までたどりつける人間は一人か二人ってうわさだ。ほとんどは蒼の塔が砂に沈んだ後、砂丘のあちこちで入っている間の記憶を失って放心状態で発見されて、数時間ぐらいで正気になるらしいんだが、毎年数人は記憶をなくしたままの奴がでるらしくてな、去年から蒼の塔が現れたら町の役人が入り口で一人一人入る者の名前と連絡先を記入してもらうことになったんだよ。記憶をなくした場合、家族に連絡をするサービスも始めたって聞くぜ。だから参加料の他に登録料もいるけど、まあ入ってみたらまた人生が変わるかもしれねえぜ。まっ入ってすぐ出てくるやからや見物客も多いもんで飯炊き屋はこの時期ほとんどあっちに借り出されるんだよ」
「蒼の塔に入るのに登録料もお金がいるんですか? それは高いんですか?」
クレールが恐る恐る聞いてみると、露天の店主はいきなり笑い出した。
「あはははっ! 心配するこたあねえよ兄ちゃん、1ルール銀貨だぜ。それも、無事ホプネスの真実の石を持ち帰ることができたら、そのお金は戻ってさらに100ルール金貨がもらえるってよ、まっ頑張るこったな。そうだ兄ちゃんらこれ持ってきな、俺も聞いた話なんだが、あの中の迷宮には魔物が住んでてな、反射鏡がねえと魂を抜かれるらしいぜ、そこでだ、この鏡があれば安心だぜ、安くしとくぜ」
露天の店主は目の前に並べていたさまざまなガラクタのようなものの中から小さな鏡を二つとりだして二人の前に見せた。クレールはじっと店主の顔とその鏡を繰り返し覗き込んで急に顔を雲らせ、小さく溜息をつきながら言った。
「ありがとうおじさん、でも鏡ならもってるから、ギムリス行こう」
「おっおい待てよ、俺鏡なんか持ってきてないぜ、おいったら、たく何を考えてんだか、おじさんすまねえな、俺金持ってねえんだ、ダンジョンの情報ありがとう」
「いいってことよ、にいちゃんら昔の攻略者を思い出すぜ。最近は腕自慢だとかで、いかついやろうばかり集まってくるが、ああいうやからにはまず無理だ。あのにいちゃん、俺の心を読めるんだろ」
「いや…どうだろううな」
言葉を濁すギムリスに店主は豪快に笑いながら言った。
「いい事教えてやるよ、真実の石にはぜったい先に直接触れちゃあなんねえぜ。触れると真実がうそになっちまうからな。今年は真実の光を拝めることを祈ってるぜ。せいぜい頑張りな」
ギムリスは露天の店主に一礼すると、先に歩き出したクレールを睨みながらクレールを追いかけてその場を離れた。
「ちっこい狼に、大鷲か、今年はもしかしたら攻略者がでるかもしれねえな、今年は広場で待ってみるのも悪くないかもしれねえな」
露天の店主は二人の後ろ姿を見送りながら独り言をつぶやいた。