6.シール―ジア到着
ギムリスに運ばれること数時間、既に東の空には太陽が顔を出していた。
「クレールそろそろシール―ジア砂丘の近くだ。あそこ辺りが会場みたいだな」
クレールが下に視線を向けると、広大な砂漠の端の方に多くの屋台と巨大な岩が10個ぐらい無造作に転がってるような場所を取り囲むかのようにテントのような簡易の屋台が所せましと連なっていた。その向こう側にはレンガ造りの街並みが広がっていた。
「けっこう大きな町みたいだな、この規模だったら、宿も多そうだな。さっそくあの砂漠の先に降ろしてくれよ。宿を予約したらすぐにあそこに行ってみよう。もう人がかなり集まっているみたいだからな」
「了解、だがその前にまず腹ごしらえしねえか?」
「えっ、まっ町に行くのか? 宿を予約したらあそこの会場に行って先に登録したほうがいいんじゃないか、いつ始まるかもわからないし」
クレールは焦りながらあわてて答えた。
なるべく人ごみには行きたくない。上から見たところ屋台のある場所には既に多くの人でごった返していたからだ。会場に行くのも気が引けるが手続きをしないわけにはいかない。そんなクレールの言葉に不満顔のギムリスは大岩から少し離れた場所に急下降すると、クレールを地面におろした。ギムリスは地面におりる瞬間スーッと変身しいつもの姿に戻った。そして大きく伸びをしながら首をまわした。
「まあいいけど、俺はお腹がすいてるんだよな。ここまでお前を運ぶのかなり体力を消耗しているしな。ああ~あっ腹減ったな」
ギムリスはお腹をさすりながらクレールをちらりと見た。
「はあ…わかったよ、お前の好きにすればいいだろう。先に申し込みをしてその後で宿を探してから食べに行こう」
「そうこなくっちゃ。だけどなクレール、いい加減に人ごみに慣れる練習をしたほうがいいんじゃないか? お前がどうして変化できないのかはしらないけど、人間であろうとなかろうと、人間と共存してかないといけないんだから、もう少し人間とのかかわりを持つ努力をしたっていいんじゃねえのか? お前あの学園にきてから全く人間の町に出かけてねえだろ」
「わかってるさ、このままじゃ僕は生きられないってね、だけどどうしようもないんだよ。この太陽の光も僕が外に出るのを邪魔するみたいだし、人間の心の声が入ってきて頭が痛くなるんだよ」
「ちょっと待てよ、他人の思考が読めるのかお前?」
「すげえじゃねえか?」
「全部読めるわけじゃないよ、僕の耳に入ってくるのは僕に好機な目を向ける奴らの声だけだよ」
「家にいる時はいつもそうだったんだ。狼一族なのに狼でもない人間みたいだっていつもばかにされて…」
「だけどお前の母親が人間なんだから仕方ないんじゃないのか? お前の責任じゃないだろ?」
「そうだけど、出来損ないのレッテルはそう簡単には消せないさ」
「まっお前はお前のままでいいんじゃないのか? 狼に変化できなくてもお前は頭がいいし、お前にできる特技を身につけて生きていけばいいじゃないか、あの追試、他の奴らにも見せてやったら全員追試免れたって大喜びしてたぜ」
「あっあれを見せたのか? そっそんなことをしてもし間違ってたらどうするつもりだったんだよ」
「いいじゃねえか全問ドンピシャだったんだしよ。それよりお前、俺の心の声も読めるのか?」
「お前のは無理だよ、お前は変なことばかり考えてるみたいだからな、思考がごちゃ混ぜで読むのは無理なんだ」
「なんだと、俺を馬鹿にしてるのかお前?」
「そっそうじゃないさ、僕はただ…そんなお前だから友達になれるかと…」
「なんだって最後が聞こえなかったぜ」
「ああっもう! なんでもないよ、お前は能天気だから読まないっていったんだよ」
「こら! 俺様に喧嘩売ろうなんざあ百年早いんだよ。クレール、忘れないうちにいっとくぜ、俺はお前が獣人としてできそこないだろうがただの人間みたいに弱かろうが親友だと思ってるぜ、学園の奴らもそんなに悪いやつらはそういないぜ、お前から飛び込んでいけばいい奴らだぜ」
「ギムリス」
「さあ~て朝飯にしようぜ、というわけだ」
そう言うなりギムリスは右の手の平を上に向けて広げてクレールの目の前に突き出した。
「なっなんだよその手は?」
「何って決まってるだろう、今回は誰の為の旅なんだったかなあ」
「くそう~、わかったよ僕がお金を出せばいいんだろう。落第が免れても、僕の生活費が貧困しそうだ」
クレールはポケットから巾着袋を取り出すと中から銀貨を一枚取り出すとギムルスに手渡した。
「バイトならこの旅が終ったらいいの紹介してやるよ」
「いいよ、どうせお前のするバイトは派手な接客業だろ、まったく、どうして僕ばかりがこんな目に」
クレールはフードを深く被りながらブツブツいいながらギムリスの前に歩みだし先に通りに向って歩き出した。
「あいつ…どうしてあんなに人と関わりあうことを嫌がるんだ。いったい何を怯えているんだか…」
ギムリスはズンズンと先に歩きだしたクレールを眺めながらつぶやいた。
「早く申し込みしないと参加できなかったらきた意味がないだろ」
「待てよ!」
ギムリスは軽く溜息をついてクレールの後を追いかけた。