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5.出発



深夜二時前、クレールは正門の門の前でリュックを背負ってギムリスの来るのを待っていた。

出発するにあたって夕刻、クレールは翌日の深夜の校内清掃の仕事の休みの申請に行った。幸いなことにすんなり代わりが見つかったらしく許可がおりた。クレールはホッと胸をなでおろした。


そしていつも通りに授業を受け、急いで校内の担当する掃除区域を清掃し終えると、ルーベルク学園の唯一の出入り口である門の前まできていた。この門から一時間に一本の感覚で本島へと渡ることができる定期便の船が早朝6時から深夜二時まで運行されていた。


しかし三時から六時までの間は運航されておらず、それに乗らなければ職員といえども本島へは渡れなかった。深夜12時まで授業が行われているルーベルク学園の教授達は本島から出勤している教授も少なくない為に、夜中の一時二時でもかなりの利用者がいた。


ここルーベルク学園が誇る正門にはガタイのいいこうもり族の門番が昼夜問わず門の前に整然とたたずみ門を守っていた。この門を出入りできるのは例えこの学園の生徒や教授であろうと、学園長が発行する通行証書がないと何人たりとも通過を許されなかった。


もし万が一、外出中に無くそうものなら、気が遠くなる書類にサインし、担任の署名や学園長の署名にサインした書類が必要になる大切なものだった。


クレールはその外出証明書の発行をギムリスに頼んであったため、門の外にでて待つことが出来なかったのだ。既に時間は約束の時間を過ぎていた。クレールはイライラしながら門の真上にぶら下がっている学園の紋章いりの時刻時計に視線を向けながら大きなため息をついていた。


「ギムリスのやつ、本当に約束を守る気があるんだろうな…今日外に出られるタイムリミットは二時だってこと忘れてるんじゃないだろうな。あの船に乗らないと本島に夜明け前に渡れないじゃないか!」


イライラしながら外出から戻ってくる学生達に視線を合わせないようにうつむきながら門端によりギムリスを待っていた。そこに立っていたクレールにやがてまもなく門が閉鎖される合図の鐘が鳴り響いた。ブーズはクレールを気にする様子もなく、大きな鉄格子の門の片側を閉ざし始めた。


「あっ、あのすいません。僕ともう一人、どうしても今日中に外出しなきゃいけないんですけど、出発を少し待ってもらうってできませんか?」


クレールは片目に黒の布製の眼帯をし、クレールの三倍はあるかというような大男のブースに向っておそるおそるたずねた。


「学生に関しては緊急を要することで、学園長の特別許可がない限りこの後の開門は明朝になる。船も同様だ! お前さんももうでる気がないんだったら下がってくれんか」


ブースは思い鉄格子の門を力任せに中央に引き寄せながらクレールに向って冷たい態度で言い放った。クレールはあわてて門から離れると、肩をがっくり落としながら門から離れて寄宿塔に向って引き返すため歩きだした。


「くそう…ギムリスの奴…あんな奴あてにするんじゃなかった。僕一人だったら少なくとも、学園からは出ることが出来ていたかもしれないってのに、今から手続きしたって、早くて明日の昼になっちゃうじゃないか、それじゃあ間に合いっこないんだ。ハア…これで僕の留年が決定かあ…くそっ!…ここを追い出されたら僕はどうすればいいんだ。あんな牢獄みたいな家に戻るぐらいだったらいっそのこと、アムーリ街にいってのたれ死にするかな…なんで僕だけいつもこうなんだ…どうして…せっかく生まれ変わってやりたかった勉強もできているのに、この世界の神様もきっと意地悪なんだ。僕が苦しむのをみて笑ってるんだきっと」


クレールは暗い表情でトボトボと薄暗くなり始めた夕闇の中を歩いていた。その時、クレールの頭上に何かがよぎった気がした。クレールはハッとして上を見上げると、そこには大きな鷲がクレールの上を旋回していた。


クレールは驚いてポカーンとその鷲を見あげていると、その鷲が突然クレールにその鋭い爪を立て襲い掛かっていた。クレールはとっさに頭に手をあてて地面にしゃがみこんだ。


その鷹は急加速してクレールめがけて急降下すると、大きな爪をたててクレールの背中のリュックを鷲づかみにするとそのまま空高く急上昇して行った。クレールは何が起きているのかパニック状態になりながら必死にもがこうと手足をバタつかせながら叫んだ。


「うわあー! なっ何だよばかやろう~! 離せっていってるだろうが! 僕なんか食べたっておいしくないぞ。今すぐおろせ!」


クレールは足をバタつかせながらもがいたが鷲は上昇を続け、学園の遥か頭上まで上がると、今度は急加速してあっという間に学園から離れてしまった。クレールは放心状態になりながら、遥か下の海や遠くに見える港町の景色に目を奪われていた。


クレールはこんな高さから地上を見たことがなかったからだ。クレール自身が地上を行くには船や馬車や徒歩で丸一日はかかるであろう距離をほんの一瞬で通過したのだ。クレールはいつしか叫ぶのを止め、上空から見える景色に見とれていた。その時その鷲から声が聞こえてきた。


「クレールどうだ? 上空からみる町並みは絶景だろう。お前空は初めてだろ?」


クレールはその声を聞いて頭をあげて大鷲に視線を向けた。


「ギムリス! お前ギムリスなのか?」


「当たり前だろ、俺様の真の姿で運んでもらえるなんて光栄に思えよ。特別料金にしてやるよ」


「なんかいったか?」


クレールは聞こえていないかのように今の言葉を聞き返した。


「特別…いやなんでもねえよ。それより、そのシール―ジアの蒼の石ってのを持って帰ったら優勝賞金がもらえるんだろ? もちろん山分けなんだろうな」


「ああ、そのつもりだよ。お前も参加料10ルール銀貨を払ったらな」

「はあ? 命がけのダンジョンで金までとるのかよ?」


「僕も詳しくわからないけど、その参加料の積み立て金とかその日の祭の収益とかで優勝賞金の100ルール金貨が支払われるみたいだよ。ルーラジオ教授からもらった新聞にはそう書いていたよ。まあ毎年優勝者がでるわけじゃないらしいから、今までの積み立てもあるらしいよ」


「なるほど、かなりの挑戦者がいるってことだな」

「たぶんね」

「攻略し甲斐があるってことだな」

「そうだね。今年は僕がもらうけどね」

「まあ、俺様が手伝うんだから優勝はいただきだな」


(そうだ、僕は一人じゃないんだ)

クレールは頭上のギムリスを見上げながら呟いた。


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