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4.古い誓約書

翌朝、クレールはギムリスの部屋の前にいた。クレールは校内の掃除をいつもの三倍の速さでこなし、約束のものを夜明け前には終わらせていた。


「おいギムリス! いい加減に起きろよ!」


クレールは鍵がかけられている扉のノブをにぎりながらギムリスの部屋の扉をおもいっきりたたきつけた。暫くするとようやく寝癖がついたぼさぼさ頭にパジャマ姿のギムリスが大きなあくびをしながら顔を出した。


「ふぁー眠いなあ…クレールか、なんかようかこんな夜明け前に」


「何かじゃねえーだろうが、こっちは一睡もしていないんだぞ! 追試験前日にのんきに眠るなんていい度胸しているな。人が全部の授業をサボって仕上げてやったっていうのにお前はのんきに熟睡していたのか! いい加減にしろよな。この紙破り捨てるぞ!」


クレールはそう言うなりクレールの目の前で持っていた紙に両手をかけて破くしぐさをして見せた。寝ぼけていたギムリスの眠気が一瞬で覚め、あわててその紙をクレールの手から奪いとった。


「じょっ冗談じゃないかよ、授業サボらせて悪かったな。じゃっ!」


ギムリスはクレールの作成した用紙にざっと目を通すとそのまま扉を閉めようとした。クレールはあわてて扉の隙間に足を挟ませ扉をこじ開け小声でギムルスに怒鳴った。


「ギムリス待てよ! お前が持っている資料を見せてくれる約束だろ!」


扉の隙間から顔を覗き込んで怒った顔で言うクレールにギムリスは平然とした表情で言った。


「ぁあ~あれか…あれは俺が数学の追試験に合格が決まったら教えてやるよ。心配するな、結果はその日の内にわかるから合格していたらお前のところに例の資料持って行ってやるよ」


ギムリスはそう言うと、クレールの差し込まれた足を扉の外に押し出し扉を掴んでいる両手を払いのけ扉を閉めて中から鍵をかけてしまった。


「なんだとおー! 冗談じゃない俺には時間がないんだ! また一日時間が無駄になるじゃないか! 覚えてろよ、お前の情報ががせねただったらお前の今までの悪事を学校中に触れ回ってやるからな!」


クレールはそういい捨てると、ギムリスの部屋の扉を思いっきり蹴飛ばしながらあきらめて自分の部屋に戻って行った。


その後眠ることもせず、クレークは眠い目をこすりながら図書館で借りてきた過去の新聞記事を読み漁っていた。どの記事も、そこへの行き方は書いていたが、塔の中の様子などはまったく書かれていなかった。クレールは机の上に山済みになった本の間でいつの間にか居眠りをしてしまっていた。


(クレール、さあ旅立つのだ、夕日の狭間にある砂漠の真ん中に立て、しからばお前の瞳が鍵となりお前の持つ石が光となり砂漠に奇跡が降り注ぐであろう)


クレールはまばゆい光の先から聞こえる声に向って必死になって叫んでいた。だがクレールの声がかき消され走っても走っても同じ場所をグルグル回ってばかりいた。その時クレークはどこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。その声はさっきの声とは違って聞き覚えのある声だった。クレールはその足を止めその声のする方向に視線を向けた。しかしそこにはまばゆい光が差し込んでいて誰だかわからなかった。その時クレールは意識が戻り自分が居眠りをしていたことに気が付いた。


「今のはなんだったんだ…夕日の狭間にある砂漠だって…」

「なんだクレール、蒼の塔の入り口の場所を知ってんじゃねえか」


クレールは独り言のように今見た夢に出てきた言葉をつぶやいていると、背後から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「ギムリス! どうして僕の部屋の中にいるんだ。それにさっきはよくも僕をだましてくれたな!」


クレールは立ち上がるとギムリスに掴みかかった。そんなクレールにギムリスは笑いながらクレールを見下ろして言った。


「クレール、そう怒るなよ。今何時だと思っているんだ。もう午後の十五時だぞ。お前、朝からずっとそんなところで寝ていたのか?」


クレールはギムリスの言葉で慌てて扉とは反対側の壁にかけてあった時刻計を見た。


「うそだろ! なんでもう十五時なんだよ。僕の貴重な時間が…これもギムリス! お前のせいだからな! お前が俺をだましたりしたから、もう時間がないじゃないか! 明日が本番だっていうのにまだ開催場所にたどり着く方法も見つけてないってのに」


クレールはそう言うとギムリスをキッと睨みつけるとあわてて机に山積みの資料に目を通し始めた。そんなクレールを暫く眺めてからゆっくりクレールに近付くと必死になって新聞に目を通しているクレールの目の前に紙の束を放り投げた。


「なっ!」


クレールはキッとギムリスを睨みつけようとしたがその紙の一番上の文字に視線が釘付けになった。


「碧の塔に関する裏情報…ギムリスこれは!」


「約束しただろう。俺が数学の追試験に合格したら見せてやるって、お前のおかげで満点だ。ザルーラ教授のあの驚いた顔を見せてやりたかったぜ。さすがクレールだな。おかげで俺は無事二学年塔に進級だ」


クレールは目の前に放り投げられた資料を早速手にとって読み始めた。ギムリスの言葉は既に耳に入っていなかった。


「蒼の塔へはファンセンタスの港からでている船に乗り、シール―ジアの砂丘にいかないといけないのか。フォンセンタスの港かあ…あそこまで行くには今からだと到底明日の朝まで間に合わないな…はやくて明日の夕方になってしまうな」


クレールはその資料を眺めながらブツブツ独り言を言った。ギムリスはそんなクレールを見てそっと部屋を出ようとしたその時、ギムリスの目の前をダーツの矢が飛んできた。ギムリスは首を後ろに反らしながらクレールをにらみ付けた。


「危ないだろ!」

「話は済んでないよギムリス!」


ギムリスは両手を挙げてひきつり笑いを浮かべた。


「なっ何かまだようかなあ…そっそうだ! おっ俺これからちょっと急用があったんだよ、急がなきゃ…」


ギムリスは後ずさりしながら部屋をでようと扉のとってに手をかけようとした時、再びダーツの矢がギムリスの手をギリギリかすめ扉に突き刺さった。


「僕は今すぐシールージアの砂丘に行かなきゃ行けないんだ。お前の翼なら今からでれば夜明け前にはつけるだろう。僕を運んでくれよ」


「じょ冗談だろ、フォンセンタスまでどれだけ距離があると思っているんだ…確かに俺の翼なら数時間で行けるけどよ…お前を運んでだろ…俺がそんなリスクをはるメリットがどこにあるっていうんだ。約束どおり蒼の塔に関する資料なら見せてやっただろう…俺も試験の予想は頼んだが、覚えて試験に合格したのは俺の力だ。お前が蒼の塔に行くのはお前自身でやることだろう。俺のすべきことは終わったはずだぞ…」


まだ数本ダーツの矢を握りしめたままギムリスを睨みつけているクレールに向って言った。しかしクレールはギムリスを睨んだまま態度を変えようとしなかった。それどころか、ニヤリとした顔をしたかと思うと、ギムリスから背を向けると引き出しから何かを取り出し、振り向きざまにギムリスに見えるように広げた。


「これがなんだかわかるか…こんなことはしたくなかったんだけど…時間がないんだ」


クレールが取り出したのは一枚の古い誓約書だった。


「ギムリス・ルビングスは命の恩人クレールを一生の親友とし、親友のピンチには必ず手を差し出すことを誓うことをここに誓う」


「そっそんな古い誓約書まだ持っていたのか! ていうかお前俺の事覚えていたのか?」


「ああ覚えていたよ、あれは僕らが五歳の時だったよな。避暑地に来ていた僕の家の別荘の前の海岸で泳げもしないのに海に入って溺れている君を助けてやったんだよな。この学園にきてから僕は一人になりたかったから君の事は初対面のふりをしてやっていただけだよ」


「たいした演技力だな。俺はてっきり忘れているのだとばかり思っていたよ。それに言わせてもらえば、あの時助けてくれたのはお前んとこの使用人だろ?」


「ああそうだよ、助けを求めたのは僕だ。それにこの誓約書を書いて僕に渡したのは君自身だ。驚いたよ。まさかあの時の少年がいるなんてな。今まで知らん顔をしてやっていたんだけどな。命の恩人の僕のピンチを無視するなんて、お前の父上に話したらどんな反応をするかな」


「お前…俺を脅す気か? 俺の親父はそういう事にはうるさいんだよ。それにそんな昔に書いたやつなんてとっくに無効になっているだろうが」


「さてどうかな…試してみてもいいんだよ。なんと思われようとかまわない。僕にとって二学年塔に進めないということは学園にいられないくなるということなんだ。今最大のピンチなんだ。今ここをでるはめになったら僕は夢をかなえられなくなる。なあ…頼むよギムリス…時間がないんだよ」


真剣なまなざしのクレールをじっと見ていたギムリスは大きなため息をついてから言った。


「…わかったよ。お前には今年一年もいろいろ世話になったからな、これからも俺の自由を満喫させるにはお前の頭脳が必要だ…仕方ない協力してやるよ。正し、この借りは高くつくぜ」


「ギムリス、これがうまくいって僕が無事二学年塔に進級することができたら、お前の勉強は一年間は面倒みてやるよ」


「よし! これで契約成立だな。じゃあ俺も準備をしてくるよ。夜中の二時に学園の門に集合だ。その時間帯が一番手薄になるからな。外出許可は俺がついでに出しておいてやるよ。明日は補修組をのぞいて授業は休講だから許可はすんなりでるだろうしな」


ギムリスはそう言うとクルリと向きを変えて部屋をでて行こうとした。そんなギムリスにクレールは小さな声で一言つぶやいた。


「ありがとう…ギムリス」

ギムリスは振り向かず右手だけ上に上げそのまま出て行った。




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