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3.友

ルーラジオ教授から言い渡された落第回避の提案を受けたその日、クレールは初めて授業をサボり図書館の中にいた。


(くそう~! こんなことならもっと真剣に読んでおくんだったな)


クレールは過去のこの学園の卒業生達がこの学園を去って行く時に書く卒業論文が全て保管されているブースの棚からそれとおぼしき年代を図書館の机の一つに積み上げ読みあさっていた。


(どの年の卒業生だったっけなあ…かなり前だったような気がするんだけどな、確かシールージアの蒼の塔からホプネスの真実の石を持ち帰った卒業生がヒントみたいな文章を書き残していたという文章を読んだ気がしたんだけどな)


クレールは夏休暇の時、ほとんどの学生はみんな親元に帰郷する中、親から勘当を言い渡されてこの学園に入ったクレールにとっては帰ったところで、門前払いを食らうのは目に見えているだけに、あの頑固な父親に頭を下げて、夏中を息が詰まる思いで過ごすことなど考えられなかった。そこでクレールは学園長に掛け合い、夏の間、国中のありとあらゆる本が納められているといわれている学園内の巨大図書館の整理のアルバイトをかって出たのだった。本来は図書館の整理は学園内の生徒の間でくじで決まられ、居残り組みとして一週間夏休みが削られることもあってもっとも嫌われている作業だったのだが、クレールはその夏の間中、一人で整理をかってでて、特別に学内に残る許可を得たのだ。クレールにとってさらに好都合だったのは、この図書館の整理には手当てが支給されることだった。五十人がかりで行われる作業を一人で引き受けたのである。食堂の方も学園の管理維持の為に職員の半分は残っているために普通に食事には有りつけたのでまったく困ることはなかった。


学費は特待生のクレールは免除されているため、学内で生活する分にはお金はかからなかったが、親から勘当されているクレールにとっては学園内でできるアルバイトが唯一の資金源だったのだ。夏中の図書館での整理はかなり重労働だったが、クレールは見事やりぬき、五十人分のアルバイト料を手にし、さらに、図書館内のあらゆる本の整理のかたわら読みあさった本のおかげで、かなりの知識が習得できていた。


もともとクレールがこの学園を選んだのも、この学園は授業時間は朝の九時からお昼休憩の二時間を除く夕方5時までの昼間授業と夕刻の6時から深夜の12時までの六時間の夜間授業の二部制になっており、それぞれが選択した授業をその日のどの時間帯の内、自分の好きな時間に受けてもいいことになっていて、一ヶ月単位内で決められた課題を提出すればいいというシステムになっていたからだ。


だから、クレールは人が多く日が差し込む日中は極力避け、夕刻から夜にかけての授業ばかりを選択し、日中の授業のある時間帯は人がほとんどいず、カーテンもされ光がさえぎられている図書館の閲覧室で本を読むか寝ているという生活を送っていた。


夜に授業を受けている生徒のほとんどはクレールに興味をしめす生徒はいず、この一年の間にクレークに近づいて友達になろうとしてくる生徒もほとんどいなかったがそれなりに快適な学園生活を送っていたのだ。そう今日の夕刻までは・・・


クレールはため息をつきながら再びページをめくり始めたが不意に視界が暗くなった。顔を上げると見覚えのある顔が目に入って来た。ここの生活は確かに快適な学園生活だが、その一人の時間をいつも崩そうと近づいて何故かクレールに入学当時からからんでくる奴がいた。


それが目の前の空いている椅子に座ってパラパラ卒業論文が積んである一つをめくりはじめている奴だ。


学園一の人気者で知らない奴はほとんどいない。昼間の授業と夜の授業をまんべんなくとっているせいか、友達は多いようだったが、いつも黒いフード付きのローブを頭からかぶって下を向いて図書室にばかりいる僕に近づいてはいろいろ話しかけてきてくるうっとうしいやつだった。

まあ…嫌いの部類にははいらないと思う。ただ、あいつがどう思っているのかは謎だ。


「おいクレール、ルーラジオ教授に聞いたぞ! お前教授と賭けをしたんだってな、いいのかあんな無謀な賭けをして、お前は知らないかもしれないけど、郷土学が落第点をつけられたからって、何も無茶しなくても半年後には二学年塔にいける裏技があるんだぜ、もう一年一学年塔での留年が決まっても、お前の成績ならスキップ制度を利用して、授業を倍に増やせば半年後のスキップ試験に受かれば、二学年塔に進級できるんだぜ、授業料免除の申請も一年間は我慢してその後成績が元に戻れば復活できるし。一年の我慢じゃないか。別にあんなできもしない賭けをしなくても学費ぐらい親にだしてもらえばいいじゃないか。なあ、今からでも遅くないぜ、ルーラジオ教授に撤回してこいよ!」


クレールはギムルスをギロリと睨みつけた。今コイツの相手をしている時間はない。


「うるさいなあ! スキップ制度のことは僕だって知ってるよ! これ以上授業を増やせられないし、父上に頭をさげるなんて死んでも嫌なんだ。お前には関係ないだろう! 僕は忙しいんだ。話かけんなよギムリス!」


「なんだよそのいいかた。もしお前がどうしてもやりたいっていうなら条件次第で協力してやろうかと思ったんだけどな。ああそうかい、せっかくシールージアの蒼の塔の攻略方法が書いた卒業生の論文の抜粋の写しを見つけてきてやったってのにな」


ギムリスは手に持っていたかばんの中から数枚の紙をクレールの前でヒラヒラさせながら見せた。


「そっそれどうやって手に入れたんだよ。卒業論文の書いた文集なんて膨大な量になるんだぞ!」


クレールは初めてめくっていた資料から目を上げ目の前の背の高い、長い金髪を後ろに束ねてニヤニヤして自分をみているギムリスに視線を向けた。


「俺ってすごいだろ。お前も頭使えよな。あのルーラジオ教授のことだ、お前にあの場所に行くように提案した時点で図書館に置いてある手がかりの書かれている卒業文集をみすみす置いておくはずないだろ。今年の六年生も何人か挑戦するらしいけど、大まかな中の構造と攻略方法は事前に教えられているらしいぜ、だけどお前の場合は追試試験だからな。教えるつもりはなかったんじゃねえのか? これを手に入れるのに苦労したんだぜ。見たくないか? 俺は先に読ませてもらったが、とても興味深いことが書いてあったぞ。他にもいろいろ資料があったみたいで、全ては持ち出せなかったけど、俺様の脳にインプットしてきたから役に立つと思うんだけどな。どうだ、見せてほしいか?」


クレールは立ち上がりその資料を掴もうとした瞬間、さっとギムリスはその資料をクレールの手の届かない位置に持ち上げてしまった。


「なにするんだよ! お前には関係ない資料だろ!」


「クレール、それが人にモノを頼む態度か? 俺だってな、この資料を手に入れるのに苦労したんだぞ! それをただで見せると思うか?」


ギムリスはニヤリと笑みをクレールに見せながら、彼の頭の上で資料をパタパタさせた。

クレールは歯軋りをしながら、にやけているギムリスを睨み付けた。


「で、お前の要求は?」

「なあに簡単なことだよ。実は俺も二年に進級が危ないんだよ」


「うそつけ、ルーラジオ教授の授業の単位を落としたのは僕だけだったぞ」


「俺はお前と違って、課題はちゃんと自分で調べに行って提出したさ。だけど、数学のテストで引っかかってんだよ。再試験に合格できなかったら、授業の他に数式の授業も受け直さなきゃいけないんだぜ、再試験にさえパスしたら、二学年塔の授業は数式はないからな、俺としてはなんとしても再試験に受かりたいわけだ。またあの嫌な数式の授業を受けるのなんか真っ平だからな。そこでだ、数式の天才と学内でも有名なお前に再試験にでそうな問題を予想してほしいんだよ、簡単なことだろ」


「簡単にいうなよ! 僕とお前が受けている数学は違うだろ? お前が受けていたザルーラ教授のだす問題の予想なんて簡単にできるわけないじゃないか?」


「そうか…できないんだったら仕方ないな…一緒に来期苦しもうぜ、じゃあな」


そう言うとギムリスはその資料を持ったまま、クレールの前から立ち去ろうとした。


「まっ待てよ! わかったよ。やればいいんだろ!」


クレールはあわてて立ち去ろうとしたギムリスの腕を掴んで叫んだ。叫んだ瞬間クレールは周りを見渡した。幸い今の時間帯は誰も図書館にはいなかった。それを知ってほっと胸をなでおろしながら、今まで座っていた椅子に座りなおし、ギムリスを見上げながら、睨みつけながら聞き返した。


「で、再試験はいつなんだ?」


クレールの問いかけに、ニヤリとした表情をみせギムリスは平然とした表情で答えた。


「明日の午後十三時からだ」


「明日だと! そんなに急なのか? もう夜なんだぞ一日もないじゃないか、再試験の予想なんて簡単にできるわけないだろう」


「できないんだったら、仕方ないな。これはなかったっていうことになるな。いいか、これが読みたかったら俺も暗記する時間がいるからな、タイムリミットは明日朝の10時までだ。間に合ったら、俺の部屋まで持ってきたくれ」


ギムリスはそれだけ言うと、手に持っていた資料をそのまま持ったまま、笑いながら図書館から出て行ってしまった。


「あいつ! 僕の弱みに付け込みやがって、誰があいつの手助けなんかしてやるもんか!」


クレールはそういいながら、机に積み上げられている資料に視線を向けしばらく考え込んだ。そして、クレールは無言で出していた資料の山を元の場所に片付け、代わりに過去十年間の間にザルーラ教授が作成したと見られる数式のテストの問題集を綴じた資料を探しだし、机の上に積み上げ、パラパラとめくりながら、自分のノートに数式を書き込み始めた。


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