12.滝つぼの横穴
滝めがけてと飛び込んだ二人は思いのほか深い滝の下の川底まで落ちていた。
クレールは水中ですぐに体制を整えると目を覆っていたタオルを取ると水中の中を見渡した。
すると滝の真下の崖側の水中の下に横穴が続いていて水がそちらにも流れ込んでいるようだった。
クレールはそのままその中に浸水を続け潜って行った。その後をギムリスも泳いでくるのが分かった。
二人がある程度もぐりながら横穴を進むと真っ暗なはずの地底のはずが光が見えてきた。
クレールはその光のある方向に泳ぎ浮上した。
するとそこはまた別の地底の空間だった。
天井には鍾乳洞が垂れ下がっていて、光がないはずなのに薄明るくなっていた。
クレールは岸に泳ぎ着くと、地面にあおむけになって横たえた。
「はあはあ、死ぬかと思ったよ」
「まったくいい加減にしろよ。ここで死んでいたらあの世でもまとわりついてやるところだぞ」
「はあはあ…二度と会いたくないの間違いじゃないのか?」
「違わねえよ、おれはお前が嫌がることをしてやるって言ってんだよ。見ろ、服がずぶ濡れじゃねえか」
ギムリスは着ていた服を脱ぐときつく絞りながら言った。
「だけど一体ここはどこなんだ?」
ギムリスは周りを見渡しながら驚いた顔で言った。するとクレールが意外な言葉を発した。
「たぶんだけど、ここは迷宮の出口だ」
「え?」
ギムリスは驚いて周囲を見渡した。
「確か次の言葉は鍾乳洞のどこかから吐き出されるゲップを止めよ。さすれば何かが起こるだったな」
「すごいじゃないか。じゃあ俺らは一気にトップにおどりでたんじゃないか。よし、急ごう。ゲップってなんの事だろうな」
ギムリスは濡れた服をもう一度着直すと周りを捜し始めた。クレールも上着を脱ぐと服をきつく絞るともう一度着直して歩きだした。
「それにしてもすごいな…かなりの広さみたいだな」
「おいクレールこの先の見当がついているのか?」
慌てて後をついてきたギムリスが聞き返してきた
「全然、だけどなんとなくあっちのような気がするんだよね」
「どうしてだ?」
「だってあっちから変なにおいがしてくるからさ」
「匂い? そんなもんしねえぞ」
ギムリスは鼻をクンクンさせて周りの匂いを嗅いでみたが何も感じなかった。
「お前の鼻はたいしたことないんだな」
「はあ? ああ~狼は鼻がいいっていうもんな、変化できなくても鼻は利くってか」
「うるさい! それ以上いうとほっていくぞ」
「へいへい」
ギムリスはそれからは何も言わずクレールの後を歩いた。
どれだけ歩いただろうか、やがてクレールはピタッと歩くのを止めた。
「匂いの元についたのか?」
ギムリスがクレールの後ろからひょいとのぞき込むと、そこには人の顔の大きさのような丸い穴が開いていた。
そこから何やら音は小さいようだがゲップの音のようなものは聞こえてきた。
ギムリスがのぞき込んだ瞬間かなり大きなゲップのような音が聞こえて生暖かい空気のようなものがその穴から吹きあがってきた。
「うわ! くっせ~なんだよここ!」
思わず鼻をつまんで地面にのけぞった。
「たぶんここでいいと思うよ。これをふさげばいいんだよな」
クレールは側にあった大き目の石を掴むとそこの穴の上に落とした。すると、
〝ゴゴゴゴゴゴー‶
と音が下からしたかと思うと天井にぶら下がっている鍾乳石が急に数個そこにめがけて落下してきた。
「うわ! どっどうして??」
あわてて端によけて鍾乳石が落ちきるのを待った。
ようやく音が収まったと思い上を見上げると、天井部分に丸い穴が開いていて別の場所に繋がっているようだった。
目の前に転がっている大きな鍾乳石を見ながらクレールが言った。
「おいギムリスあれじゃないか?」
ギムリスも上を見上げながら頷いた。
「そのようだな、しかしここら辺は薄明るいが上は真っ暗みたいだな」
「こんな事もあろうかと光石を持ってきてるんだ。昼間たっぷり光を吸収させておいたから少しの間なら光ると思うんだ」
そう言って背中のリュックサックを開けて中から光石を取り出した。
クレールはそれを手に握ると今天井から落ちてきた巨大な鍾乳石を踏み台にして器用に天井の穴にのぼって行った。
ギムリスもその後を追い、上の空間に入ると、急に辺りが青白く光出した。
「なんだここ?」
「ここが最後の部屋だよ。最後の言葉は蒼く光る石の奥から真実の石を探せだからな」
「だけど蒼く光っている石だらけじゃないか、真実の石ってどんな形をしてるんだ?ほかの紙には何か書いてなかったかな…」
ギムリスはルーラジオ教授の研究室に置いてあった紙の内容を真剣な顔で思い出していた。
「ああ~思い出せねえ!」
ギムリスは頭をかきながら叫んだ。
二人がその青く光る石の壁の一つ一つを手でなぞりながら歩いていると、何やら下の方で声が聞こえてきた。
「どうやら先客がいるようだな」
「クレールが声のした下をのぞき込むと、二人組の髭をはやした体格のいい男二人が立っていた。
「おい坊主、どうやって俺達より先にたどりついたのかしれねえが、真実の石は俺達が頂くぜ、痛い目を見たくなかったらそこで大人しく待ってな」
ニヤニヤしていう男にギムリスが言い返した。
「早い者勝ちなんじゃないのか、俺達が先に来たんだ。俺達だって探す権利はあるんだよ」
「なんだこのガキが!」
二人の男はそういうなり地面に転がっている巨大な鍾乳石を伝って器用に上まで登ってきた。
そして、そこにいたクレールとギムリスをいきなり殴り飛ばした。
「なんだ弱ええじゃねえか」
「兄貴そんなガキほっときましょうぜ、とっとと真実の石を持って戻りましょうぜ。賞金は俺達のもんだ」
「ああそうだな、早くゴールについたもんの勝利だからな」
そういうと二人の男たちは壁に埋まっている蒼く光っている石を短剣でくりぬくと腰にぶら下げていた布に手あたり次第放りこみ始めた。
ギムリスはきれた唇から流れ出た血を手で拭いながら怒りで震え出した。
そして二人に殴りかかろうとしているギムリスをクレールが止めた。
「待てよギムリス!」
「止めるなよ、先にここを見つけたのは俺達なんだぜ、こんな奴ら変化したらいちころだ」
「いいから、止めるんだ」
「はあ? だったらどうしろっていうんだよ。みすみす真実の石を持っていかれるのを見てろっていうのかよ!」
「そうだよ」
「はあ? お前さっき頭でもぶつけたんじゃねえのか、真実の石を持って帰らねえと進級できねえのはお前だろ?」
「落ち着けよ。僕は持って帰らないとは言ってないよ」
「はあ?」
「僕なりに推理したことがあるからさ、まっあの人達が満足するまで待とうよ。それからでも遅くないからさ」
そういうなりクレールはその場に座りこんでしまった。
訳が分からないといった様子のギムリスだったがクレールの様子に変化をするのを止め同じくその場に腰をおろしあぐらをかいた。
その様子は外のスクリーンにも映し出されており、大歓声が巻き起こった。
「すげー、やっぱりアバルーシャ兄弟が優勝か! くそー! 二口買っとくんだったな」
口々に叫ぶ観衆の中で老人はまた独り言をつぶやいた。
「ほほ~待つことを知っておるのか、若いのにたいしたもんじゃ。今年は久しぶりに拝めるかもしれんな。真実の石を手にすることができるのは真実の目と心を持つ者のみ、あんなガラクタを持ち帰って優勝したといきがっているようではあ奴らはダメじゃな」
老人は長いひげをさすりながら、ただ地面に座り込んでいるクレール達と必死になって蒼い石をほり続けている男たちを眺めた。