11.第二の扉
「たぶんあそこだぜ、この空間の唯一の建物だからな。おい見てみろよ、ちょうど何人か入っていってるじゃねえか。他の奴らもあそこが怪しいって知ってるんだな」
「そうだね、僕達が過去の成功者から情報を得ているように過去にこのダンジョンからぬけ出せた人達から情報を得ているのかもしれないね。ギムリス、あの建物の横の水辺におりてくれ」
「了解」
ギムリスは滝壺の頂上付近にある小さなレンガ造りの建物がある場所から少し離れた場所の水辺に舞い降りた。
ギムリスから降りたクレールは辺りを見渡した。どうやら近くには誰もいないようだ。
「先に入った数人以外はまだこの場所を発見できていないようだね」
「そうだな、翼でもない限りそう簡単にはこの場所にはたどりつけないと思うぜ、滝をのぼるか、遠回りをして森の山道を来るかしいないと来れないからな」
「でももう入っている連中がいるってことは翼をもつ種族がいるってことなんじゃないか?」
「もしくわ、近道を知ってるかだな」
「近道か…それで、次の言葉はなんて書いてたんだ」
「確か次は心眼を見開いて光が進む道を行けば第二の入り口が近づくだった気がするな。心眼かあ…」
「おいクレールお前できるのか心眼、そんなことしなくても入り口は見えてるんだからあそこから早く入ろうぜ」
先に行きかけるギムリスの袖を掴んでクレールが言った。
「落ち着けよ、あそこから行く奴は心眼が使えない奴らだからだよ、あそこからだと遠回りになるんだよきっと」
「はあ? 他に入り口なんかなかったぜこの空間にあったのは、そのレンガの小さい建物と木とその川と目の前の滝だけだったぜ」
「そうだな第一の入り口は多分あそこだけなんだよ。但し目に見える場所のね。だけど見えない場所には第二の入り口に繋がっている場所があるはずなんだよ」
クレールは背中に背負っているリュックサックからタオルを出すと目をそれで覆った。
「何をするつもりなんだ?」
「まあ見てなよ」
クレールはそういうと地面に座り込むとあぐらをかき、両手を胸の辺りで合わせ瞑想を始めた。
「そんなことをして何になるってんだよ、そんなことをしてると他の奴らに追い抜かれるだろう!」
ギムリスの言葉が全く聞こえていないかのようにクレールは立ち上がろうともせず返答もしなかった。
ギムリスはあきらめて地面に自分も座り込むと、大きなあくびをしてクレールが動き出すのを待つことにした。
その間にも多くの挑戦者がこの場所を見つけて次々と扉の中に入って行っていた。
「おいお前ら何してんだ?」
クレール達に話しかけてきた者もいたが、ギムリスは首を横に振るだけで何も答えなかった。
ギムリスも何をしているのか見当もつかなかったからだ。
「おい、そんな奴らほっておけよ」
他の挑戦者たちがそう言いながら、扉に次々に入っていくのをギムリスはあきらめモードで大きなため息をつき横になりながらクレールが立ち上がるのを待った。
その様子を外の観衆たちが自分たちがかけた冒険者を口々に応援していた。
「さあ! ぞくぞくと挑戦者達が第一関門の巨大迷宮の入り口を見つけ突入して行っております。え~偵察コウモリの報告によりますよ、只今のトップはアバルーシャ兄弟が只今地下迷宮の中盤をものすごい速さで進んでいるもようです」
「おっと! こちら砂漠監視隊の報告によりますと既に多くの失格者が続出しているようです」
中央の広場に映し出されている映像に見入る観衆たちがめいめいにヤジを飛ばしている。
「やっぱり大本命はアバルーシャ兄弟だったか! くそー賭けときゃよかった」
「おい、あれ見ろよ、あれ最後に入っていった若造たちだろ? あんな所で何やってんだ?」
大きなスクリーンに映し出されている画面の一角に、迷宮の入り口も映し出されていた。
「なんだあいつらどうして迷宮に入らないんだ?」
スクリーンには迷宮の入り口がある扉の横で目にタオルをして目隠しをし座り込んでいるクレールとその横であおむきになって寝そべっているギムリスの姿が映し出されていた。
「もうかなりの奴らが迷宮に入ったっていうのにあいつら勝つもりないんじゃねえのか?」
「棄権するつもりなら監視コウモリに棄権を知らせれば終わるだろう?」
「そうだよな」
二人の様子に首を傾げている観衆の中でクレールに賭けた老人がほくそえんだ。
「ほほ~あやつらどうやら本来の行き方をしっとるようじゃな。じゃが本来の行き方は最短で行けるが強じんな精神力と度胸が必要じゃぞ、お前さんらにできるかのう? ふおふおふお久しぶりに楽しめそうじゃな」
老人がそんな呟きをして監視コウモリが映し出す映像を見ている頃、当のクレールは精神統一の真っ最中だった。
「心眼で見るってことは精神集中だよな」
クレールは精神を集中させるべくゆっくり息を吐き出しては吸い込みを続け、耳から聞こえる雑音を遮り集中した。
(僕が進む道はどこだ?)
クレールはゆっくり首を動かし始めた。
すると、目を閉じてタオルで覆っている為目の前の景色など見えるはずもないのにうすぼんやりと景色が見えてきた。
それと同時に迷路へ通じている扉の前の地面から目の前を流れる川の方から黄金色の矢印が見えてきた。
(あれだな)
クレールは立ち上がると、目隠しをしたままその矢印の方まで歩いていくと、その線の上をたどって歩き始めた。
「おいクレール待てよ、どうしたんだよ。そっちは川だぜ、おい! 聞いているのか?」
ギムリスは川に向かって歩いて行こうとしているクレールの腕を掴んだ。しかしクレールはその手を払いのけると言い放った。
「うるさい! 矢印はこの先に見えるんだ」
そういうとクレールは躊躇することなく川につくと、まるで見えているかのように大きな石の上を器用に飛び移り、あっという間に川の中の石の上を歩き、滝の真上まで来た。そしてまるで見えているかのように滝の下をのぞき込んだ。
「矢印はこの真下に続いているみたいだな、川の向こうへは続いていないようだ。ということはこの下に飛び込めってことだよな」
ブツブツ言っているクレールを追ってギムリスも器用に川の中にある大きな岩の上を飛び跳ねながら側まで来ていた。
「ギムリス、行くぞ!」
「行くってどこへだよ」
「この下に決まってるだろ」
そう叫んだかと思うとギムリスの静止も聞かずに、クレールは滝の下めがけて飛び込んだ。
「はあ? 冗談だろ! 馬鹿じゃねえのか畜生! もうどうにでもなれってんだ! 死んだら化けて出てやるからな覚えてろクレール」
ギムリスは思いつく限りの悪態をつきながらもクレールの後を追うように高い滝の下めがけ飛び込んだ。