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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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そして彼女は願いを叫ぶ

 ちょうどその時、動く光の正体が、懐中電灯を片手に体育館の扉を思いきり開く。


「ちょ~っと待ったぁ~! 俺にも一言ひとこと喋らせろ!!」


 喜びとあんを全てぶち壊す勢いで、生徒以外の居残り人物、時村(ときむら)教頭が姿を現した。

 すると、物怖じしない性格の華隠が、あからさまに嫌悪の色を顔に示す。


「うげっ! アレに見えるは、忍者嫌いの時村(ときむら)教頭……。しかも、『ちょっと待ったコール』とは(なん)と古い。あちし等が生まれる前のネタだわさ」


「ええい、深夜バラエティの話はどうでも()い! それよりこの様子じゃ、『全員(ぜんいん)合格おめでとう』な空気みたいだな!!」


 嫌味を口にしながら、肩を怒らせてズンズン進み寄る時村ときむら教頭に、教師一同はポカンと呆れて流し、生徒達は(みな)一様に、関わりたくないなぁ……と敬遠の空気で口を閉ざす。

 やがて、時村教頭が二列横隊のすきを裂いて目の前にくると、イチカは律儀に御辞儀(おじぎ)して、拒絶の意思を示した。


「あっ、教頭先生……。その(せつ)は、大変(たいへん)御世話になりました。先生のヒントの御蔭で、わたし、試験を無事に乗り切ることが出来ました。ですから、あの退学って約束はナシの方向でお願いします」


 すると時村教頭は、口角をヒクヒクと痙攣させて、心中(しんちゅう)、煮えくり返った感情を必死に抑える。


「ほほぅ……、ナシの方向だぁ? それじゃあ、俺とのあつあつい友情は放っといて、これからも、『非』生産的な忍びライフを送っていこうってんだな!」


 据わった瞳に、粘着質な語り口。

 遠回しだが、脅迫が目的なのは明らかだ。

 イラッと()たイチカは、教頭きょうとう相手にメンチを切ると、プイッと不機嫌な顔を背けた。


「なんですか、俺との熱い友情って! 私の友情の多くは、希更ちゃんに注がれてるんです。先生に向けた憶えなんてありません!」


 希更もイチカの腕に飛び付き、仲の良さをアピールする。


「藤森さんはわたしと試験に合格したんですから、これからもずっと、みんなと一緒に忍びの訓練を続けるんです!」


「へえぇぇ、これからも……? ハッ、別に()いさ! どうせチャンスは、今回(こんかい)限りじゃないんだ。俺は何度だって、この学園のハイテク化に挑戦してやる!!」


 真正面から卑屈な決意を浴びたイチカは、不快感を一層(いっそう)強める。


「うわっ、大人の(きたな)い欲望を隠そうともしない。これが昨今(さっこん)の公務員の実態ですか……」


「だ~まらっしゃい。世間の心配なんかより、ちったぁ自分の心配をしろ!」


 イチカの進退を(ほの)めかす発言を聞いて、壇上の五部(いつつべ)学長が硬直から解ける。


「おや? 教頭先生には、なにやら藤森さんの処遇に異議があるようですね」


「そりゃあもう、不満がありますとも。(おお)きな(おお)きな不満が、()()()()()()()()ねっ!」


 時村がけっ盛んに言い放つと、正面のイチカも、胸を張って対抗する。


「なんです、その不満っていうのは。言ってみて下さい!」


「おおっ、イチカが教頭きょうとう相手に凄んでる! 行けっ、イチカ。今日こそ、そのボンクラ教師に、引導を渡してやるだわさ!」


「藤森さん、頑張って!」


 (なん)の引導か、そしてどうがんるかは定かでは無いが、華隠と希更の口から声援(エール)が飛んだ。

 時村(ときむら)教頭は孤立無援の状況にも(ひる)まず、雷鳴を背景(バック)に、衝撃の一言をぶちかます!




『お前、校舎の窓ガラス、割っただろう!!!!』




 否定も拒絶きょぜつも不可能な追及を喰らって、イチカはモアイぞうのような造形で固まった。


「へっ…………?」


「しらばっくれても無駄(ムダ)だぞ! あのなぁ、お前知ってんのか? ウチの学校の窓ガラスはなぁ、一般家庭のソレよりも、ずっと高いんだからな。飛散防止とか、振動(しんどう)耐性とか、癒着ゆちゃく業者からのよう水増しとかぁ!!」


「ちょっ、ちょ~っと待って下さい! 最後のはわたしと関係ありませんし、多少の

被害は仕方ないって話じゃなかったんですか? そうですよねぇ、学園長先生?」


 同意を求められた五部(いつつべ)学長だが、首も動かさず、『はて?』と言った感じで当惑する。


高札(たかふだ)には、『減点対象からは外す』と掲載しましたが、無償むしょうと書いた憶えはありませんよ」


「ええぇーっ!! 許してくれるんじゃないんですかぁ!?」


 イチカの懇願を、時村が切実せつじつな理由を挙げて却下する。


()ったり前だろう! 爆発・燃焼が日常にちじょう茶飯事のこの学園はなぁ、保険がまったく効かないんだからな? いったいコレまでの修理に、どんだけくにの補助金が使われたと思ってんだ!」


 (とど)めに時村教頭が、有らん限りの声で実情を叫ぶ。



『だから忍者学校なんか潰して、ハイテク化しようって意見が出てるんじゃねぇか~!!』



 時村が全力ぜんりょくで暴露したのを、嫌悪感から、イチカが全力で吐き捨てる。


「聞きたくなかった……。そんなしょうもない真実!!」


 すると時村は、小悪党みたいな動作(モーション)で腕を振って、乱暴に床を踏み鳴らす。


「うるせぇい。ガラス(だい)弁償しろ、弁償! さもなくば、料金分の後片付けだ!」


「ええぇぇ! この(あと)を全部ですかぁ? だって私、遊具とかを使った()(かげ)で、

試験に合格できたんですよ。それに、壊したりよごしたのって、ほとんどは華隠さんの仕業じゃないですかぁ!」


 すると、傍観者を気取る華隠は、二人と顔を合わせようともせず、腕組みをして、イチカの未来を()()みと想像する。


(ばつ)掃除のうえに、忍びの才能はゼロ……。所詮はイチカの退学も、時間の問題だっただわさか」


他人(ひと)(ごと)みたいに言わないで下さい!」


 すると時村は、意外にも、イチカの抗議に顔を(ゆが)めて同意する。


「もちろん、藤森の言う通りだ。火災は(まぬが)れたものの、燃焼剤の(すす)汚れに、近隣

住民からの相次ぐ苦情。だ~れが対応すると思ってんだ?」


「ぬおっ。あちしに被害が拡大してる!?」


「なにが拡大だ! むしろ正当な要求だっつ~の。罰として、このあと藤森と焰薙(ほむらぎ)『達』のペアは清掃作業だからな」


 個別にペアを指定されて、理乃と希更が不平を唱える。


「ちょっと待ってよ。華隠(カノン)のペアって事は、ボクも? ボク、野球ネットしか傷付けてないよ?」


「という事は、わたしも藤森さんと同罪なの? 私なんて、なにも破壊してないのに!?」


 こちらの二人に関しては同情的なのか、時村は多少、語気を(ゆる)めて指導する。


「気持ちは分かるけど、素直に(あきら)めろ……。技術点をペアで分ける以上、損害分もキッチリ分け合う。二人一組(ツーマンセル)の鉄則だろ?」


 いつの間にか、イチカと時村を中心に、(ひと)(だか)りの()が形成されていた。

 その一方で、あきえと愛里のペアはその集まりには加わらず、舞台のすぐ下で人差し指をこめかみに当てて、ゲンナリとした空気で()()を振り返った。


「あっちゃ~。時村教頭(とっき~)が正論を言ってるよ。アタシ、愛里と一緒でホント良かった……」


 その愛里は、眼鏡のレンズを()(しろ)に曇らせて、教頭の動きを分析する。


(どう)()で結果発表の時になかった訳ね……。きっと、被害状況を確認してたんだわ」


 するとその声に、()の内側に立つ獅堂このえが、アッサリと共感した。


「まぁ、先生のおっしゃる事はもっともです。藤森さんも、それで済めば(やす)いもの……と諦めるべきですわね」


 委員長の愛里に続いて、副委員長のこのえですら、時村ときむらの意見に賛成である。

 だが、決闘けっとう共謀者の時村としては、このえの()ました態度が気に入らない。

 損害報告書をペラリと(めく)って、ふて腐れた視線を間近の列へと向ける。


「それと、この際だから聞くけどな、()(どう)……。せっかく俺が藤森ふじもりとの対決をお膳立てしてやったのに、清々(すがすが)しく負けちまったアレ、いったい(なん)だったんだ?」


 凍て付くこえで理由を聞かれて、このえの背筋がギクリと反り返る。


「えっ、そんな!? わたくしは、絶対に勝つとまでは約束してませんけれど……」


「適当なこと抜かすな! 勝算なしに決闘するヤツが何処(どこ)に居るんだよ……。大体(だいたい)、お前にも苦情が来てるんだからな。あの()(どう)家の御令嬢が、蒼くひかって浮いてるってな。しかも素っ裸(すっぱだか)で!!」



「「素っ裸(すっぱだか)で!?」」



 その場の誰もが、恐るべき()(たい)を想像して、イチカを除く臨組(りんぐみ)全員の顔に戦慄が走る。

 すると、周囲の動揺を瞬時しゅんじに感じ取ったこのえは、口元をアワアワと波立たせる。


「り、り、り、輪郭だけです、輪郭(りんかく)! それに、先生(がた)がうまく説明して下さってます!!」


 間髪入れず、時村の怒鳴どなごえが、体育館の空気を叩いた。


「出来るかっ!! お前たちの秘密特訓とやらで、こっちは完全に未知の情報(ノーデータ)だっつーの。()(かげ)でついさっき、学園に()(どう)家からフクロウ便が届いた。むすめに少し用事があるから、しばらく学園に置いておけってな」


「父から……!」


 顔面蒼白で狼狽(うろた)えるこのえ。

 彼女の父、獅堂(ジン)といえば、抜け忍・罪忍(ざいにん)の懲罰部隊を指揮する忍び頭(しのびがしら)である。

 その父が、このに『用事』があると言うのだから、娘の苦労を一言(ねぎら)ってやろうというのではない。

 なにかしらの『仕置しおき』に来るつもりなのだ。

 獅堂このえも、これには観念した…………と見せ掛けて、フッと軽やかに微笑ほほえみ、抜け目なく共犯者を煽動(せんどう)する。


「皆さん、試験はこれにて()(しま)いです。解散ですわ!!」


承知(しょうち)!」 & 「合っ点(がってん)!」 & 「(りょう)!」


「あっ、待て! ()(どう)(みず)()焰薙(ほむらぎ)柳沼(やぎぬま)っ!」


 このえに続き、希更、華隠、理乃のめる()もない脱走に、時村が情けない声を上げる。


五部(いつつべ)学長、なんとかしてくれぇぇ……。後始末をせずにいると、下手(へた)したら街の外から、政治問題だとかテロとかでうるさいんだからさぁ」


 さすがの五部(いつつべ)学長も、()(ろん)相手には勝手が違うのか、決断に時間を(よう)さなかった。


「ふむ、仕方ありませんね……。臥龍(がりゅう)先生、試験終了の号令をお願いします」


 ウム……、と仁斎(じんさい)は楽しげに頷くと、集団戦のさいに見せる、引き締まった空気で合図を飛ばす。


「これにて、一学期・期末試験を終了とする。なお、教師陣はこのまま、校庭へと脱走した生徒4名の追撃にかかる。教師陣、出撃!」


(おう)っ!」 「「「了解(りょうかい)っ!!」」」 「まいる!」 「や~ったるぜぇ~!!」


 生徒たちに負けず劣らず、曲者(くせもの)揃いの掛け声が壇上に重なる。

 呆然とすくむ生徒たちを置き去りにして、綾平(あやひら)担任と東雲しののめ保健医を除く教師全員が、舞台の上から一斉に姿を消した。

 静まり返った講堂内を、時村(ときむら)教頭の不気味な笑みが反響する。


「フッ、フフフフフフフ……。さあ、藤森(ふじもり)。今、どんな状況だか分かるか?」


 両手の指をワキワキと曲げ伸ばして(にじ)()る教頭を相手に、イチカは愛想笑いを浮かべて(なご)ます。


「ええっとぉ……。窓の向こうで、希更ちゃん達が、必死にげてる姿が見えます」


「フフフフフ、そうかそうか……。でもなぁ、今から()(まえ)も、そこに加わるんだよぅ!!」


 時村の襲撃を合図に、イチカと教頭の()()けっこが始まった。

 あきえが、やれやれ……といった心境で(だん)(へり)に腰掛けると、その横で、被害を(まぬが)れた坂本愛里が、何処(どこ)となく残念そうな空気で呟いた。


「なんか、ちょっと楽しそうね……」


「なにくやしがってんのさ。愛里の事だから、みんなの掃除を手伝うんだろう? …………(さび)しいから」


「誰が(さび)しいかぁ!! 私は委員長として、みんなの様子を監督するだけよ!」


 幼馴染みが()()()()()()()あいだも、イチカと時村(ときむら)の競争は終わらない。


わたし、新しい忍具を作るために、お小遣いを(ぜん)()使っちゃったんです~。勘弁して下さ~い、時()先せ~い!」


「だから俺は、時()だって言ってるだろ~があぁぁぁ!!」


 少女たちの笑顔と、愉快な悲鳴が絶えない(まな)()

 忍ヶ丘(しのびがおか)くのいち忍術学園


 思いも寄らぬ運命から、忍びの世界へと(いざな)われた少女・藤森(ふじもり)イチカは、多くの

友人と同じ時を過ごし、苦難を乗り越え、(じゅつ)()ち下忍への昇格の果てに、真実へと辿たどく!



「ふえ~ん……!! やっぱり私、この学校、()~め~ま~す~ぅ!!」



 しょ貫徹かんてつな少女、藤森イチカの受難な日々は、まだまだ続きそうである……。

イチカ作品・第1巻、これにて終了です。

今後は、作品が完成する度に投稿する充電型(充填型?)のスタイルで活動しようと思います。

皆さん、ここまでお付き合い頂いて、誠にありがとうございました。

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