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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
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繋がる未来

 臨組(りんぐみ)全員の予期せぬ連携に、教師一同がクスクスと啜り笑いを漏らした。

 五部(いつつべ)学長も愉快な声色を必死に抑えて、審議の参加者に意見を求める。


「その反応は御尤(ごもっと)もです。ではその点について、各先生から選評を頂きましょう。初めは…………、天狗(てんぐ)どのになりますか?」


 天狗(てんぐ)どのは、丁重な仕種でマイクを受け取って、照れ臭そうに口を開く。


「では拙僧(せっそう)から、藤森ふじもり殿の評価を一つ……。今回、異例尽くしの試験となった所為(せい)もあり、判定員の配置が、自然と対戦者の特技を示唆するという指摘を受けた。それで戦局が大きく変わることは無いものの、実際に(とく)をした例もあるようなのだ。従ってこれを見抜き、己の有利を捨てて警告した藤森ふじもり殿には、わずかながらも技術点を加算させて頂いた。して、次の方は?」


 左隣りの水虎(すいこ)先生が、水掻きの生えた手を挙げてマイクを要求する。


「僕の場合は、水野希更さんの方だよ。みんなも知っての通り、一学期では陽忍術が使えない前提だけど、彼女は、相手の投げ技や砲撃を霊術で破ったことで、技術点を加算だよ」


 横着にもカラクリ伝造(でんぞう)先生が、そのままマイクの横で解説を継ぎ足す。


「で、お次は、あちきと瀑男(バクダン)先生の番でやんすね」

 と此処(ここ)で正式にマイクを受け取り、伝造先生は選評を続ける。


今回(こんかい)藤森さんが使った、お菓子を素材にした特殊忍具。これが、実にユニークな効果でしてね。場合によっては、新たな忍具として採用が検討されてるから驚きでやんす」


 間を置かず、瀑男(バクダン)先生が、特殊忍具に関する追加点を補足する。


「んでもって、その中の一つ、癇癪玉(かんしゃくだま)モドキな。あれは、午後の授業で造った(モン)だけに加算点は少ないが、使い方が爽快だった。敵を引き寄せてから、自分も飛ぶ。忍具も使い方次第で、意外な効果を発揮するもんだ。ああいうの、ロマン(あふ)れるねぇ」


 瀑男(バクダン)先生から問答無用でマイクを押し付けられて、(つち)()(かど)ひなたが言葉に詰まる。


「ええっと、私からは何も無いんだけど……。()いて言うなら、学校遊具を使った戦闘と、匂いを囮にした爆破罠。……あっ! あと、藤森さんが一時的に氣術を使った事かしら?」


「では、それに()いては私が解説しよう」


 公私ともにサポートする事の多い石川(いしかわ)残月(ざんげつ)が、列の反対側からマイクを要求する。


「まず、水虎先生のときと同様、忍具の力を借りたとはいえ、氣術を行使したこと。それと、念動爆散(ねんどうばくさん)なる現象を作りだし、危険を乗り切った点は面白い。通常よりも、少し得点に色を付けておいた。遊具の件については、雲梯(うんてい)の使い方。あれは、本来の侵入兵器としての使い方に加え、振り回しての武器に転用したことで、技術点が()(ぞう)した。なお、学校遊具の件も含めて、今からお前たちに、金剛(こんごう)先生からのお叱りがある。金剛先生、どうぞ……」


 不吉な予感にザワつき始める会場内を、金剛(こんごう)先生が呆れた口調で(なだ)める。


「あ~、静まれ静まれ……。今、石川(いしかわ)先生からも紹介があったように、遊具にも

来歴があり、意味がある。その感覚でこうの遊具を見ると、どれもこれもが、戦場兵器となる物ばかりだ。投石機に変わる、丸太造りの斜面板(しゃめんばん)。古代中国より伝わる、拠点突入用の雲梯(うんてい)広域攻撃(こういきこうげき)武器の回旋塔。(ほか)にも色々だ……。それをお前たちは、子供の遊具だと見向きもせず、あまつさえ、自分の力を過信して個人特訓に没頭するとは、実に嘆かわしいことだ……。お前たち()(にん)程度の特訓成果など、たかが知れている。好い加減にしないと、今度からは減点方式を採用するぞ」


 イチカと希更を除く28人が、息苦しくざわめく。

 忍術学園に落第システムはないが、減点方式が、その第一歩となる事は否定できない。

 そうなったが(さい)()、『キッカケの第○期卒業生』の烙印を押され、忍者社会では門前払いを喰らう。

 履歴書に、凶悪犯罪の過去を記すようなものだ。


 金剛先生の脅しも終わり、学年主任の臥龍仁斎(がりゅうじんさい)が、最後の選評を加える。


「では、(かず)ある審査のうち、最も高い点数を付けたのが、(わし)と学園長の判断じゃ。今回、正面切っての戦いでは、平面上の(いくさ)ばかりが目立ったが、藤森さんは校庭遊具を利用し、剣士にとっては戦いづらく、忍びにとっては好ましい高低差をみずから生み出した。そして何より、その時に使った武器こそが、一番高い点数を付ける要因となったのじゃ」


 再び、館内が困惑にざわめく。

 武装一つで技術点が大幅加算された例など、今まで聞いたことがない。

 対戦者の華隠は、眉を(ひね)った不思議そうな表情で、戦闘中の記憶を振り返る。


「武器とは言っても、手持ちの忍者刀をロープで繋いだ、鎖鎌(くさりがま)の代用品。あんな真似っこ(マネっこ)武器の何処に、技術点を大きく加算する理由があるのやら……」


 思わず華隠が、壇の下から疑問の声をあげると、仁斎(じんさい)は難儀な表情で、里の秘事を解説する。


「ふむ、それなのじゃが……。図らずも紐状(ひもじょう)の武器を使い、複数の忍具を繋げたあの形状が、かつてこの地を平穏に導いた初代皆伝者、雪風(ゆきかぜ)様の使われた五行ごぎょうれん()乱蛇帯(らんじゃたい)のレプリカになっておったのじゃ……。ちなみにその乱蛇帯は、禁書庫に

封印された書物にのみ伝わる(ほう)()で、この忍ヶ丘(しのびがおか)でも、知る者はそう多くない。しかし、試験中にそれを再現されたとあっては、()()()()()()()()()()にしてまで、隠し通す訳にも()くまいて……」


 仁斎はちゃたっぷりの口調で、イチカに片目を(つぶ)ってみせた。


「生徒の合否と引き替えって、まさか……!!」


 イチカのほほが、見る間に紅潮する。

 壇の右端を見ると、審査に加わった綾平(あやひら)担任が、はにかみ笑顔でピースサインを決めた。

 最後の一番おいしい所を、学園長の五部(いつつべ)()(さい)が、ハッキリとした声で宣言する。


「試験成績・第2位でありながらも、出席点に加え、充分な技術点を取得……。よって、藤森イチカ・水野希更ペアを、一学期、期末試験の合格者とします!」


 壇の下から、歓喜の声が一斉いっせいに湧き起こった。

 悲願の試験合格を果たしたイチカが、希更の肩を抱いて、何度も小さく飛び跳ねる。


「や~ったぁ~!! 希更ちゃん、ついにやりましたよ。これでもう()()()()を……、忍術学園をめなくて済むんですよ」


 希更はイチカとは反対に、大きすぎる喜びから、硬直した笑みで声を震わせた。


うそみたい……。まさか、本当に試験を突破できるなんて……。私、夢でも見てるのかしら」


「そんなぁ~♪ 夢なんかじゃありませんよ。だから私、前にも言ったじゃないですか。希更ちゃんなら、絶対に立派なくのいちに成れるって。やっぱり、こういう運命だったんですよ」


 希更は、自分の手を取って()()()()親友の姿に、両目をうっすらと涙で(にじ)ませる。

 やがてイチカの手をそっと引き離し、目元を(そで)で拭うと、感謝の想いを口にした。


「藤森さん、わたし、あなたと会えて本当に良かった……。だって、こうして一緒の

時間を過ごせて、喜びを分かち合えたんだもの」


 嬉しさと照れくささから、はにかんだ表情となるイチカ。

 壇上では、熱血教師の金剛(こんごう)先生が、直立不動でウッカリ貰い泣きに(むせ)あえいでいた。


――ここは一つ、自分も委員長としてさんを贈るべきだろう。


「よかっ……」


 坂本さかもとあいが一歩前へと踏みだすが、体裁(ていさい)を気にし過ぎたせいで理乃に出遅れた。

 優等生に先じて動きだした柳沼(やぎぬま)理乃(りの)が、イチカと希更の背後からピョンと軽快に飛び跳ねて、二人の肩を抱き寄せた。


「ほ~ら。イチカも希更ん(キサラン)も、なに湿っぽいこと言ってんのさ。みんな揃って、忍術伝法の儀を受けられるんだよ? やってみたい技とかこれからの野望とか、明るい話をしよ~ってば♪」


 自分の言葉を仲間に取られたあいが、気後れ顔でツッコミ役に回る。


(いや)……。くのいちが野望をいだくとか、むしろ自粛すべきだから」


 坂本愛里、出来るはずなのに出来ない()

 将来的に寝取られ(ネトラレ)属性を匂わせる幼馴染みへ、金岡(かねおか)あきえがニヤニヤとコメントを入れる。


「とか(なん)とか言って、愛里、本当は泣いてるんじゃないの? ときどき目が光ってるよ」


「誰が泣くかぁ! これは目が光ってるんじゃなくて、眼鏡(メガネ)の逆光よ。さっきから、なんか外でひかりがチラ付いてるのよ!」


 校内には、誰もいないはずである。

 二列横隊の後方こうほう右側で、(どう)このえが目を細めた。


「外で光がチラ付いてる? こんな時間に、一体(いったい)なにかしら……」

2対2の遭遇戦では、技術点は希更頼みで、イチカは陽忍術に目覚めないまま、

常時警戒中の敵と戦うことになります。


組み合わせ次第では、イチカが先に倒されて、残る希更の善戦むなしく、

敗退してしまう可能性が高いでしょう。

このえと時村教頭の画策が無ければ、二人は進級試験に合格できなかった訳です。


時村教頭が忍ヶ丘の住人に嫌われていないのも、結果的に、彼の企みが周囲の利益に繋がるという、成功体験の積み重ねがあったからです。

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