繋がる未来
臨組全員の予期せぬ連携に、教師一同がクスクスと啜り笑いを漏らした。
五部学長も愉快な声色を必死に抑えて、審議の参加者に意見を求める。
「その反応は御尤もです。ではその点について、各先生から選評を頂きましょう。初めは…………、天狗どのになりますか?」
天狗どのは、丁重な仕種でマイクを受け取って、照れ臭そうに口を開く。
「では拙僧から、藤森殿の評価を一つ……。今回、異例尽くしの試験となった所為もあり、判定員の配置が、自然と対戦者の特技を示唆するという指摘を受けた。それで戦局が大きく変わることは無いものの、実際に得をした例もあるようなのだ。従ってこれを見抜き、己の有利を捨てて警告した藤森殿には、わずかながらも技術点を加算させて頂いた。して、次の方は?」
左隣りの水虎先生が、水掻きの生えた手を挙げてマイクを要求する。
「僕の場合は、水野希更さんの方だよ。みんなも知っての通り、一学期では陽忍術が使えない前提だけど、彼女は、相手の投げ技や砲撃を霊術で破ったことで、技術点を加算だよ」
横着にもカラクリ伝造先生が、そのままマイクの横で解説を継ぎ足す。
「で、お次は、あちきと瀑男先生の番でやんすね」
と此処で正式にマイクを受け取り、伝造先生は選評を続ける。
「今回藤森さんが使った、お菓子を素材にした特殊忍具。これが、実にユニークな効果でしてね。場合によっては、新たな忍具として採用が検討されてるから驚きでやんす」
間を置かず、瀑男先生が、特殊忍具に関する追加点を補足する。
「んでもって、その中の一つ、癇癪玉モドキな。あれは、午後の授業で造った物だけに加算点は少ないが、使い方が爽快だった。敵を引き寄せてから、自分も飛ぶ。忍具も使い方次第で、意外な効果を発揮するもんだ。ああいうの、ロマン溢れるねぇ」
瀑男先生から問答無用でマイクを押し付けられて、土御門ひなたが言葉に詰まる。
「ええっと、私からは何も無いんだけど……。強いて言うなら、学校遊具を使った戦闘と、匂いを囮にした爆破罠。……あっ! あと、藤森さんが一時的に氣術を使った事かしら?」
「では、それに就いては私が解説しよう」
公私ともにサポートする事の多い石川残月が、列の反対側からマイクを要求する。
「まず、水虎先生のときと同様、忍具の力を借りたとはいえ、氣術を行使したこと。それと、念動爆散なる現象を作りだし、危険を乗り切った点は面白い。通常よりも、少し得点に色を付けておいた。遊具の件については、雲梯の使い方。あれは、本来の侵入兵器としての使い方に加え、振り回しての武器に転用したことで、技術点が微増した。なお、学校遊具の件も含めて、今からお前たちに、金剛先生からのお叱りがある。金剛先生、どうぞ……」
不吉な予感にザワつき始める会場内を、金剛先生が呆れた口調で宥める。
「あ~、静まれ静まれ……。今、石川先生からも紹介があったように、遊具にも
来歴があり、意味がある。その感覚で我が校の遊具を見ると、どれもこれもが、戦場兵器となる物ばかりだ。投石機に変わる、丸太造りの斜面板。古代中国より伝わる、拠点突入用の雲梯。広域攻撃武器の回旋塔。他にも色々だ……。それをお前たちは、子供の遊具だと見向きもせず、あまつさえ、自分の力を過信して個人特訓に没頭するとは、実に嘆かわしいことだ……。お前たち下忍程度の特訓成果など、たかが知れている。好い加減にしないと、今度からは減点方式を採用するぞ」
イチカと希更を除く28人が、息苦しくざわめく。
忍術学園に落第システムはないが、減点方式が、その第一歩となる事は否定できない。
そうなったが最期、『キッカケの第○期卒業生』の烙印を押され、忍者社会では門前払いを喰らう。
履歴書に、凶悪犯罪の過去を記すようなものだ。
金剛先生の脅しも終わり、学年主任の臥龍仁斎が、最後の選評を加える。
「では、数ある審査のうち、最も高い点数を付けたのが、儂と学園長の判断じゃ。今回、正面切っての戦いでは、平面上の戦ばかりが目立ったが、藤森さんは校庭遊具を利用し、剣士にとっては戦いづらく、忍びにとっては好ましい高低差をみずから生み出した。そして何より、その時に使った武器こそが、一番高い点数を付ける要因となったのじゃ」
再び、館内が困惑にざわめく。
武装一つで技術点が大幅加算された例など、今まで聞いたことがない。
対戦者の華隠は、眉を捻った不思議そうな表情で、戦闘中の記憶を振り返る。
「武器とは言っても、手持ちの忍者刀をロープで繋いだ、鎖鎌の代用品。あんな真似っこ武器の何処に、技術点を大きく加算する理由があるのやら……」
思わず華隠が、壇の下から疑問の声をあげると、仁斎は難儀な表情で、里の秘事を解説する。
「ふむ、それなのじゃが……。図らずも紐状の武器を使い、複数の忍具を繋げたあの形状が、かつてこの地を平穏に導いた初代皆伝者、雪風様の使われた五行連剉・乱蛇帯のレプリカになっておったのじゃ……。ちなみにその乱蛇帯は、禁書庫に
封印された書物にのみ伝わる宝具で、この忍ヶ丘でも、知る者はそう多くない。しかし、試験中にそれを再現されたとあっては、生徒の合否と引き替えにしてまで、隠し通す訳にも行くまいて……」
仁斎は茶目っ気たっぷりの口調で、イチカに片目を瞑ってみせた。
「生徒の合否と引き替えって、まさか……!!」
イチカの頬が、見る間に紅潮する。
壇の右端を見ると、審査に加わった綾平担任が、はにかみ笑顔でピースサインを決めた。
最後の一番おいしい所を、学園長の五部紫彩が、ハッキリとした声で宣言する。
「試験成績・第2位でありながらも、出席点に加え、充分な技術点を取得……。よって、藤森イチカ・水野希更ペアを、一学期、期末試験の合格者とします!」
壇の下から、歓喜の声が一斉に湧き起こった。
悲願の試験合格を果たしたイチカが、希更の肩を抱いて、何度も小さく飛び跳ねる。
「や~ったぁ~!! 希更ちゃん、ついにやりましたよ。これでもうくのいちを……、忍術学園を辞めなくて済むんですよ」
希更はイチカとは反対に、大きすぎる喜びから、硬直した笑みで声を震わせた。
「嘘みたい……。まさか、本当に試験を突破できるなんて……。私、夢でも見てるのかしら」
「そんなぁ~♪ 夢なんかじゃありませんよ。だから私、前にも言ったじゃないですか。希更ちゃんなら、絶対に立派なくのいちに成れるって。やっぱり、こういう運命だったんですよ」
希更は、自分の手を取ってはしゃぐ親友の姿に、両目をうっすらと涙で滲ませる。
やがてイチカの手をそっと引き離し、目元を袖で拭うと、感謝の想いを口にした。
「藤森さん、私、あなたと会えて本当に良かった……。だって、こうして一緒の
時間を過ごせて、喜びを分かち合えたんだもの」
嬉しさと照れくささから、はにかんだ表情となるイチカ。
壇上では、熱血教師の金剛先生が、直立不動でウッカリ貰い泣きに咽び喘いでいた。
――ここは一つ、自分も委員長として讃辞を贈るべきだろう。
「よかっ……」
坂本愛里が一歩前へと踏みだすが、体裁を気にし過ぎたせいで理乃に出遅れた。
優等生に先じて動きだした柳沼理乃が、イチカと希更の背後からピョンと軽快に飛び跳ねて、二人の肩を抱き寄せた。
「ほ~ら。イチカも希更んも、なに湿っぽいこと言ってんのさ。みんな揃って、忍術伝法の儀を受けられるんだよ? やってみたい技とかこれからの野望とか、明るい話をしよ~ってば♪」
自分の言葉を仲間に取られた愛里が、気後れ顔でツッコミ役に回る。
「否……。くのいちが野望を抱くとか、むしろ自粛すべきだから」
坂本愛里、出来るはずなのに出来ない娘。
将来的に寝取られ属性を匂わせる幼馴染みへ、金岡あきえがニヤニヤとコメントを入れる。
「とか何とか言って、愛里、本当は泣いてるんじゃないの? ときどき目が光ってるよ」
「誰が泣くかぁ! これは目が光ってるんじゃなくて、眼鏡の逆光よ。さっきから、なんか外で光がチラ付いてるのよ!」
校内には、誰もいないはずである。
二列横隊の後方右側で、獅堂このえが目を細めた。
「外で光がチラ付いてる? こんな時間に、一体なにかしら……」
2対2の遭遇戦では、技術点は希更頼みで、イチカは陽忍術に目覚めないまま、
常時警戒中の敵と戦うことになります。
組み合わせ次第では、イチカが先に倒されて、残る希更の善戦むなしく、
敗退してしまう可能性が高いでしょう。
このえと時村教頭の画策が無ければ、二人は進級試験に合格できなかった訳です。
時村教頭が忍ヶ丘の住人に嫌われていないのも、結果的に、彼の企みが周囲の利益に繋がるという、成功体験の積み重ねがあったからです。




