表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
5章 藤森イチカの進級試験
67/83

蒼炎と踊れ

 このえはごえと同時に後方へ跳び、緑地帯の南、見通しの森へと再び姿を消した。

 気付けば、天狗どのの姿も辺りにない。

 どこか邪魔にならない所で観戦してるのだろう。


『ウフフフフフフ……』


 このえの微笑が、闇の静寂(しじま)に木霊する。

 イチカの後方、段々畑から見通しの森にかけて、(いき)の長い風が通り抜けた。

 涼しく、(ハッ)()(そう)に似た爽快感が、イチカの身体を吹き抜けて行く。


HAAAA(ハアア)……、AAAAh(アアア)……』


 イチカの正面で炎熱体えんねつたいが天を仰ぎ、一斉に奇声を発した。


(まずは、獅堂さんの()(うち)を探らないと……)


 イチカは姿勢を低く気流を裂いて、右手の段々畑に身を隠す。

 炎熱体とこのえの挟撃(きょうげき)に備えると、宙に浮く炎熱体が、(ごう)と高く燃え上がり、

イチカを追尾し始めた。

 動きは遅いし、逃げ切るだけの距離もある。

 だが、三対一では囲まれる危険性があった。


()けられてる? もしかして、私の気配を読んでるとか……)


 段々畑は川の字に主道が走り、茶畑(ちゃばたけ)一列ごとに、小さな横道が(もう)けられている。

 イチカは茶畑の三段目まで駆け上がると、息を(ひそ)め、段のあいだを走る側道を()(ふく)前進で進む。

 彼女の気配は徐々(じょじょ)に宙に溶け、やがて緑地帯から完全に消失した。

 すると、炎熱体はユラリと揺らめいて空中で停止し、段々畑のまえで横一列に

散開する。


(よかった……。完全にこちらを見失ったみたい)


 イチカは、カマボコ型に剪定(せんてい)された枝葉の上へと、顔をコッソリと(のぞ)かせる。

 炎熱体の姿形(すがたかたち)は、術者本人とほぼ同型。

 つまりこれは、分身ぶんしんじゅつの変異形である。


「なるほど……。うまい事を考えたなぁ、獅堂さん」


 陽忍術の分身は、質量のない、影のみを映し出すのが基本だ。

 当然、武器を持てなければ忍具だって使えない。

 だが、分身(ぶんしん)自体が炎の性質を宿していれば、触れるだけでダメージを与えられる。

――そのとき、緑地帯に吹き込むやわらかい風が、(こずえ)みどりをサラサラと揺らす。

 少し間を置いて、炎熱体がキーンと高鳴りして前進を始めた。

 三体の炎熱体は、主道の東西(とうざい)二つを封鎖し、中央の一体が左右を巡回している。

 炎熱体のもう一つの利点は、存在そのものが灯火(ともしび)であること。

 このままでは、見付かるのは時間の問題だ!


 イチカは左手を体側(たいそく)に伸ばして、出入り口にちかい左前方の炎熱体へと、手裏剣を(とう)じる。

 特訓の成果は如実(にょじつ)にでた。

 狙い通り、炎熱体の横顔を、イチカ特製とくせいの手裏剣が貫通する。

 しかしその攻撃は、頭部の輪郭をはげしく揺らめかせただけで、炎熱体は何事(なにごと)もなかったように幻体を維持している。


(しまった、ぜんぜん効いてない!)


 炎熱体を倒すには、呪符を正確に狙い撃つか、陽忍術で幻体げんたいそのものを完全に消し去る必要がある。

 頭部を再生させた東側ひがしがわの炎熱体が、異常を感じてまえの主道を登る。

 手裏剣投擲(とうてき)は敵一体の注意を()いたが、収穫はあった。

 炎熱体のりつ行動こうどうは目視の探索のみで、聴覚と気配は、おそらく術者じゅつしゃ頼みである。

――このままだと、左右両面から挟み撃ちにう。

 イチカは畑の東端とうたんへと移動し、接近中の炎熱体へと(にじ)り寄る。

 前へ進むほどに視界は蒼々(あおあお)と明瞭に輝き、蒼炎のねつが肌を刺す。

 炎熱体はすぐ近くだ。

 イチカは茶畑のかどから飛びだし、縦一たていち文字もじに斬空刀を振り上げる。


「フッ!」


 声を出さずに呼気だけを(するど)く放ち、炎熱体を両断する。

 すると、人形の中央に呪符が現れ、()(ぷた)つに裂けて燃え尽きた。

 隠密状態のイチカから奇襲を受けて、見通しの森から、このえの驚愕が走る。


『まさかっ!』


 味方の撃破を感知して、炎熱体がふたたび大きく燃えあがった。

 どうやらあれは、敵発見の合図のようである。


(今しかないっ!)


 イチカは思い切ってその場を飛びだし、気配のする方向へとしっする。

 罠など関係ない。

 慎重に進んでも、相手に形成けいせいを立て直す時間を与えるだけだ。

 後方からせまり来る炎熱体が、視界の闇を(あお)く照らす。

 女帝の()()(けん)()(よく)(あだ)となった。

 紅色クリムゾンスカーフの鮮明色(ヴィヴィッドカラー)が、暗闇に()()()()と浮かび上がる。


「覚悟ぉ!」


「させませんわ!」


 斬空刀を振りかぶり、体重を乗せて飛び込むイチカ。

 このえが両手(りょうて)小太刀の抜刀を済ませ、両脚をんばって迎え撃つ。

 イチカの斬空刀が、二振りの短い刀身と噛み合う。

 重斬撃では体重が物をいう。

 47キロに増進した健全ボディが、軽量華奢(きゃしゃ)な女帝の体躯を獰猛どうもう()しのいた。

 このえは氣術を使えない。

 (にぶ)い剣戟のあと、()け反る身体に逆らわず伸身(しんしん)

 左足で相手の胴体を蹴飛ばして、イチカの追撃を逃れる。

 ウッ……! とつぶれた悲鳴を漏らしたイチカが、後転からばやく復帰した。


(しの)(わざ)! 獅堂さんも使えたなんて……)


 このえの姿はすでに近くには無く、正面にあらたな炎熱体が1つ生じ、後方からも

2体が接近している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ