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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
6/83

転校生を捕らえろ

 地図によると、家から学園までは、自転車でおよそ5分の近い距離にある。

 荒い砕石(さいせき)の駐車場を抜け、アパートの多い生活道を右折すると、横断歩道の向かいにクリーニング屋と文房具店が見える。

 イチカは両者のあいだをまっすぐ突っ切り、ロープで仕切られた雑木林に沿って直進する。

 やがて、十字路の左前方にみどりのフェンスと体育館が見えた。

 目の前の交差点を左に曲がって、フェンス伝いに道を進むと、目的地の裏門に辿り着く。


「ここが、これから私が通う忍術学園……」


 忍ヶ丘(しのびがおか)くのいち忍術学園。

 密教で用いられる(そう)()()(あやか)り、(りん)(ぴょう)(とう)組を一年生に、(しゃ)(かい)(じん)組を二年生に、(れつ)(ざい)(ぜん)組を三年生とする、総生徒数270名の忍術()南校(なんこう)である。


 校舎は木造もくぞう三階建て。

 上空から見るとYの()型に見える施設は、内部が旧来(きゅうらい)の日本建築を踏襲しており、抜刀や上段(がま)えなどの長物(ながもの)対策として、各階層が低めに造られている。

 校舎の外、敷地北西には、実戦じっせん訓練用の森林地帯と職員寮が建ち、南にはプールと体育館。それに付随して、忍犬(にんけん)忍鳩(にんばと)といった忍動物(しのびどうぶつ)の一時保護や、調教目的の飼育小屋がある。

 これら実用じつよう主義の設備とは対照的に、敷地北東の正門から校庭南端にかけて、ジャングルジム、鉄棒、回旋塔(かいせんとう)といった遊具が並ぶ様子は、いささか子供染みた印象が(いな)めない。

 今時(いまどき)、そんな物で遊ぶ高校生など居ないだろう。

 校内融和を図るオブジェだとすれば、あまりにも斬新な策だ。

 人間心理を穿(うが)ちすぎて、物事がつつけに貫通しそうなくらい奇抜である。

 半瞬の(のち)、イチカはふとわれかえって前へと踏み出す。


「えっと。まずは駐輪場は……っと」


 自転車を駐めようと無警戒に裏門を抜けると、いきなり足首にロープがからまり、『カラン×3!』と、木の板がぶつかり合う音に囲まれる。


「へっ!? なにコレ、なんのおとぉ~!?」


 音の正体は(なる)()

 (かわ)(いた)を縄で(つな)いだ警報装置である。

 忍び()きのイチカだって(なる)()くらいは知っているが、まさかそれが、日常生活と地続きの空間に仕掛けられてるとは思わない。

 (どん)くさい自分と違って、姉なら苦もなく()けられただろう。

 イチカは自転車を横倒しに、ワタワタと()()()を踏んで転倒を免れる。

 すると其処(そこ)へ、イチカの体勢が回復する前に、何者かの(するど)い号令が走った。



「今だ、転校生を()らえろー!!」



 飛び出したのは5つの影。

 右前方、体育館から出て来たのは、身長差の激しい凸凹(デコボコ)コンビ。

 一人は(おお)太刀(だち)を背中に差した、グラマラスな肢体の日焼け少女。

 膝丈にカットされた藤色(ふじいろ)の着物は、金色(こんじき)の刺繍が燃えるように鮮やかで、5人の中で一際(ひときわ)攻撃的な存在感を放っている。


 その隣りに並ぶのは、身長150㎝くらいの小柄な少女。

 ニヒッと悪戯(イタズラ)好きな表情に、大腿(だいたい)()にモモンガみたいな滑空布(かっくうぬの)を格納した、特徴的な忍者服。

 よほど変わった性格なのか、使用武器は鎖鎌(くさりがま)

 最長15メートルは()ろう細いくさりを、腰裏と背中で()っかに束ねている。


 対して、反対側の森林地区からは三人。

 先頭、眼鏡を掛けた(れい)()な顔立ちの少女は、忍びとしては標準的な黒装束(くろしょうぞく)を、

にん携行用の革ベルトと隠れ蓑のマントで装飾している。

 その横に、長身(ちょうしん)スレンダーで健康的な美女が立つ。

 蒼空(そうくう)を想わせる爽快な笑みに、服の下からでも分かる躍動感(やくどうかん)あふれる肢体。

 誰よりも武装が少なく、(げん)(こつ)部分に楕円形の金属 ― 拳骨平金(ナックルリベット)を埋め込んだ革グローブと手甲(てっこう)、そして圧砕脚甲(バスターレガース)と呼ばれる軽合金の(すね)()てのみ。

 直毛(ちょくもう)(つや)やかなセミロングが、身体の動きに合わせて(てん)()(なび)いている。


 最後に二人の後ろ、水色の着物に黒い帯を締めた病弱そうな少女。

 その肌は、白く壊れそうなくらいに色素が薄い。

 長い黒髪と細い眉に、小作りな目鼻立ち。

 そして何より、清潔感と引き替えの(はかな)さが、見る者の不安を()き立てる。


 裏門を通り過ぎた直後、いきなり()()()()5人から襲撃を受けたイチカは、身構えることはおろか心構こころがまえすらロクに出来ず、無抵抗のまま、近くのへと逆さ吊りにされてしまう。


「ちょ~っと~! いきなり(なん)なんですかぁ~。は~な~し~て~!!」


 ジタバタと藻掻(もが)くイチカの頭上、自分を生け捕りにした五人が、銘々(めいめい)、勝手な

批評を加える。

 まず最初に口を開いたのは、野良猫を思わせる『()(にん)』の少女であった。


「あ~あ……。こんな簡単な縄抜けも出来ないなんて、期待外れも(トコ)だよ」


 両手を後頭部に組んで、ひどく失望した声で呟くと、その横から、褐色肌かっしょくはだの戦闘忍者が、変梃(ヘンテコ)な語尾で口を挟んだ。


「それを言うなら、その前に、真っ正直に(なる)()に引っ掛かった所だわさ。中途ちゅうと編入と聞くから、一体どんな猛者(もさ)が来るかと思えば、まさか只の()()()()()()だとは……」


 辛口発言の黄色おうしょくツインテールに続き、長身の軽装(けいそう)忍者が、爽やかに笑い飛ばした。


「アッハハ……! 言うねえ、()()()も。でも、なかなかイイ顔してるじゃないか。どっちかって言うと、アタシ好みに近いかな?」


 すると今度は、五人の中で最も堅物(かたぶつ)そうな眼鏡の忍者が、直前の浮付いた発言を(たしな)める。


「あきえ……。今は、あなたの趣味とは関係ないでしょ。好みから離れなさい」


 最後に、小太刀(こだち)を差した細腕の少女が、イチカの全身を舐めるように観察し、それから、自身のむねに手を当ててボソリと呟いた。


「クッ。負けた……」


 五人は自分勝手に(いっ)()一憂(いちゆう)するだけで、いつまで()っても、助け出そうと動かない。

 イチカの反応が、眉の痙攣から憤怒の形相へと変化する。


「勝ち負けとか期待とか、そんなのどうでも好いですから、今すぐこの縄を(ほど)いて下さい! 私をこんな目に()わせて、いったい何が目的なんですか!」


 身体を左右に揺らして当然の権利を主張すると、リーダー格の眼鏡(メガネ)忍者が、同情もへったくれも無い声で前に出る。


「目的はただ一つ。本日(ほんじつ)付けでウチに転校して来る貴方(あなた)の実力を、この()で見極める事よ」


 逆さ吊りのせいで、視界が今イチ安定しない。

 イチカは振り子運動を極力(おさ)えて、物騒なことを口走る黒服忍者に視線を定める。


「それで、こんな風にみちく人を捕縛するなんて、非常識にも程があります! いったい誰なんですか、貴方(あなた)は!」


 すると少女は、眼鏡の(つる)をクイッと正して自己紹介を始める。


「私? 私は一年臨組(りんぐみ)の委員長、坂本(さかもと)あい()よ。さっきも言った通り、委員長として、転校生の実力を(はか)りに来たのだけれど、なにか問題でもあるのかしら?」


 あります! と一言(ひとこと)文句を入れたかったが、イチカがそうするより早く、あいの横から、長身の格闘(かくとう)忍者が愛想よく話しかけてきた。


「やっ♪ アタシは、此処にいる愛里の幼馴染みで、金岡(かねおか)あきえってんだ。ヨロシクね♪」


 中指と(ひと)()(ゆび)を立てて、カッコよくポーズを決める金岡あきえ。

 彼女の服装を(あらた)めて観察したイチカは、忍ヶ丘(しのびがおか)特有の存在を初めて実感して、さっきまでの怒りを、綺麗サッパリ忘れてしまう。


「あっ、忍者服! ってことは……。忍者って、本当にこの街に居たんだぁ」


 ぼけーっとイチカが感心していると、忍びの割には()()()()目立つ戦闘(せんとう)()の剣豪娘が、頭上の捕縛者を呆れ顔で見上げた。


「なにを()(とぼ)けたこと言ってるだわさ。普通、この街に来て学園に入ろうとするヤツが、それを知らない訳が()いっしょ……」


 ボヤきにつなげて親指で自身を指差し、ムスッと不機嫌そうな口調で名乗る。


「あちしの名前は焰薙(ほむらぎ)()(のん)。弱い奴は御断りの戦闘忍者だわさ。ちなみに今の二人が、練丹術(れんたんじゅつ)の使い手と格闘忍者の氣術(きじゅつ)使いで、こっちが……」


 態度の割には面倒めんどうが良いのか、進んで全員の紹介をしようとするのん

 その言葉を(さえぎ)る形で、鎖鎌の()(にん)少女が、一方的に質問をぶつけた。


「ボクの名前は柳沼(やぎぬま)理乃(りの)だよ。ねえねえ、君ってさ、この街の外から来たんだよね?」

ああっ、違いますよ!

愛里は、ちゃんとしたなんです。

ただちょっと、変な癖とかがあるだけなんです。

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