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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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想定訓練

 デモンストレーションを終えて、仁斎(じんさい)が話の続きに戻った。


「さて、基本装備4つに対する戦法は教えたが、ここで一つ、弱点補強に入ろうと思う」


「弱点補強ですか? なんだか課題が多すぎて、対処し切れないと思うんですが……」


 人差し指を(ほお)に当てた『考えるポーズ』のイチカに、仁斎じんさいは落ち着きを払って

同意する。


「無論、全てという訳には行かんじゃろう。そこで今回は、4つの構えの中から、一番厄介(やっかい)な技を仕掛けられた場合を想定する。例えば水野さんの場合、両手が(ふさ)がった状態で体術を仕掛けられたが最後、片方の小太刀を手放してでも、敵の()(わざ)に対処するしかなくなるのじゃ」


 希更は、仁斎(じんさい)が言い終えるのを待ってから、自信ありげに口を開く。


臥龍(がりゅう)先生の(おっしゃ)る通りですが、それについては一つ、私に対抗策があります」


 内心ないしん、それを待っていた仁斎は、眉を開いて鷹揚(おうよう)に聞き返す。


「ほう、対策とな? ぜひ聞かせてもらいたいのぅ」


「はい。本来であれば、定石通り武具を手放して、忍びの体技で切り抜けます。ですが私には、水と相性の良い霊術れいじゅつがあります」


「フム、陽忍術をもって打ち破るか……。ならばこれより、儂が水野さんに()(づな)()としを仕掛ける。着地前には技を()くゆえ、それまでに打ち破ってみせよ。()()()?」


 相手の引き締まった表情のすぐあと、希更は不意に、ゾクリと肌が(あわ)()った。

 落ち着きのある呼び掛けの中に、(かす)かな闘志が含まれている!!

 希更は突然、(はじ)かれたようにバックステップで距離を取ると、両手の小太刀を

構え直して、臨戦態勢りんせんたいせいを整えた。


「承知! いつでも来て下さい」


 棒立ちのまま、一刀の(もと)に斬り捨てられなかった点は優秀である。

 今度は()えて敵対心を隠そうともせず、右手を模造刀の(つか)へと静かに添えた。


()ぅし……。いざ、参る!」


 言いざま、仁斎が電光でんこうせっの勢いでまえに踏み込んだ!

 すなわち、相手の認識速度を()えた『縮地(しゅくち)()(ほう)』である。

 突進の呼吸を読み切れなかった希更は、敵の攻撃を()けられない。

 初手から定石(セオリー)を崩された彼女は、致命の一撃を防ごうと、逆手の小太刀こだちを前に出す。

 その瞬間、仁斎のが素早く動いた。

 右下から左にかけて、水平に近い角度で、するどい剣閃けんせんが走る。

 たった一合(いちごう)で、左右の小太刀は長刀身(ちょうとうしん)(やいば)に容易く弾かれた。

 剣圧の余波で、希更の上体がまっすぐうえ(ひら)く。

 実戦であれば、どうを切り払われて一瞬で終わりだ。

 これではまったく勝負にならない!


(こうも実力が違うだなんて……!!)


 仁斎は瞬時に納刀(のうとう)を済ませ、希更の胴体を抱えて、空中高くへと飛翔する。

 その高さ、およそ20メートル。

 間違いなく、法術(ほうじゅつ)を爆発的に高めた上昇だ。

 足裏に発生させた衝撃を、霊術によって上昇運動に(てん)()した超人的な跳躍。

 更には強烈な風速に耐える、氣術きじゅつでの姿勢制御。

 一連の動きを(かろ)うじて目で追ったイチカは、天を(あお)いで唖然とする。


「と、飛んだ……。しかも、高い……」


 上空で両者の上昇が止まり、上下(さか)さに向きを変えて、()(づな)()としの体勢が整った。

 静止状態ならば、仁斎の脇腹を小太刀で(えぐ)るが、気流に()まれた状態では、両手を自由に動かせない。

 瞑目(めいもく)する希更は、人体の()が集まる(へそ)の下――丹田(たんでん)で全身の術力を練ると、(まぶた)をカッと開いて、気合いとともに力を解き放つ!


「ハアアァァァッ!!」


 瞬間、希更の体表面に水の奔流(ほんりゅう)が生じた。


「なんと!! 刀身ではなく、自身の身体からだを中心に使いおったか!」


 空中で(ゆる)やかにもんどり打つ仁斎は、神通力の作用でくう抵抗ていこうを増大させ、風に乗ってれいに地面へと降り立つ。

 対する希更は、身にまとう流水を水玉(みずたま)へと作り替えて、強引に着地した。

 霊術による緊急回避は、気力・体力を(いちじる)しく消耗させる。

 イチカは、息の乱れた希更を()けて、全身ズブ()れの師匠に声を掛けた。


「師匠。ひょっとして今の現象も、希更ちゃんの霊術なんですか!?」


 仁斎(じんさい)は、顔面の水を片手で(ぬぐ)い落として、視界を鮮明に保つ。


「うむ。霊術は消耗が激しいため、普通なら(いん)や呪文などの精神統一によって、

負担を軽減する。勿論もちろん、それ()なしでも使うことは出来るんじゃが……」


 (あご)をしゃくって希更を示す動作に、イチカはその反動を理解した。


「希更ちゃんは、補助もなしに術を使ったせいで、極度の疲労に(おちい)ってしまったんですね」


 ()いつくばった状態の希更は、息を乱しつつも答えようとする。

 立ち上がろうとして、酸欠にクラクラと(ひざ)()ちの姿勢に崩れた。


「でも、あんな技を受けたら戦闘不能は(ひっ)()だもの。倒されるくらいなら、この方がマシだわ」


「その通りじゃ。本来ならば、負担の少ない神通力を使うのが好ましいが、使えぬとあらば仕方あるまい。あとは、個人戦での特訓あるのみじゃ。今日はしっかりと休むのじゃぞ」


「はい……」

 と、希更は短く答えると、()(ひざ)姿勢を断念して、ストンと地面に腰を下ろした。

 希更への指導が終わると、仁斎(じんさい)はゆっくりとした動きで、身体の向きをイチカへと変える。


「さて、次は藤森ふじもりさんの番じゃ。藤森さんの場合、陽忍術がまったく使えん。従って、危機に対してはぜんの想定訓練を積み重ね、忍びの体技で切り抜けるしかない」


「ならば師匠、私は、敵のどんなわざに気を付ければ良いのですか?」


「そこはやはり、剣士との斬り合いで生じる『押し崩し』じゃな」


 イチカは実際の動きを想像して、深刻そうに状況を語る。


「戦闘中に転倒させられるのは不測の事態。忍具を使う(ひま)もありませんね」


「ウム……。ここはいっそ、崩されるのを念頭に動くのがよかろう。(さか)()剣撃の

場合、『()なし』という体捌(たいさば)きが有効じゃ。片脚を軸にして()(さば)き、重心移動で敵の勢いを()らぬ(ほう)へと受け流す。隙が見えたら即刻、必殺の一撃じゃ」


「では師匠、順手の時に崩された場合、どうすれば良いんですか?」


 仁斎の表情が、途端に険しさを増す。


「その時が一番いちばん危険じゃ……。この場合、我流(がりゅう)剣士などの実践稼業(じっせんかぎょう)が好む、『(しの)ぎ』で(かわ)すしかあるまい。倒された時に相手の(うで)を蹴り上げるか、とっさに敵のはらを蹴飛ばして、追撃を回避する技じゃ。(さいわ)い、ちょうど儂が、その剣士に当たる。この辺りの修練は、明日(あす)明後日(あさって)の特訓で、敵との距離のきわかたを重点的に鍛えるとしよう」


 仁斎は、少し()()けて息を整えると、月曜と火曜、二日間の総評(そうひょう)を満足げに

語る。


「良し良し。両人(りょうにん)とも、予想以上の上達振りじゃ。これなら予定通り、最終調整を金曜日に迎えられよう。明日(あす)明後日(あさって)は、(わし)藤森ふじもりさん、みずさんの入れ替えによる、一対一いったいいちの模擬戦じゃ。予定では、二人の(くみ)()指導のみじゃったが、小太刀と忍者刀で戦法が固定するのは(この)ましくない。それに、藤森さんの特訓課題である『(しの)ぎ』の件もあるからのぅ」


 希更がようやく呼吸を取り戻して、不安から言葉を(にご)す。


「でも、臥龍(がりゅう)先生が相手となると、私達で何処(どこ)まで戦えるか……」


「なぁに、手加減はするわい。大切なのは訓練相手に勝つことではなく、連続技を如何(いか)に決められるかじゃ。では、本日(ほんじつ)はこれまでとする。帰ってゆっくりと休むのじゃぞ~♪」

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