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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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剣の舞

 戦人形いくさにんぎょうの前で抜刀した二人に、仁斎の指導が飛ぶ。


「二人は剣士としての戦い方を真似まねるより、戦闘中ににんや体術を織り交ぜた、

純然としたしのびの戦い方が向いておる。したがって、刀を打ち合わせたあとは距離を保つか、相手の側面や背後に回る攻撃が有効じゃ。相手が剣士なら、距離を詰めて連撃を狙ってくるぞ。藤森ふじもりさんは敵の斬撃を防いだら、忍具を使うことを念頭に大きく退()がるのじゃ!」


 イチカは師匠の指示通り、ひと太刀たち結んで大きく退()がり、再び斬り付けては後退を繰り返す。

 初めはナイフを手にした不良みたいな動きだが、身体が慣れてくるのに連れて、忍具を使った段階だんかいの動作に、連続技としての(なめ)らかさが加わる。

 接近と後退の直線的な歩みも、横軸(よこじく)方向の軌道を加えた、円周上の動きへと昇華した。


 逆手抜刀の攻撃中、反射的に太刀たちがでた。

 攻撃位置は相手の顔面。

 これなら膂力(りょりょく)抜きの『振り逃げ』だけでも、敵に強烈なダメージを与えられる。

 常識的に考えて、相手はこれを防ぐしかない。

 敵が迎撃に動いたすきに、後退しつつ手裏剣を準備。

 こういった時に攻撃系の忍具は、上腕部(じょうわんぶ)のベルトに入れると厄介だ。

 敵への攻撃で、腕は()えず動いている。

 (しま)うのであれば、身体の中心にちかい肋骨まわりが好ましい。

 やおら忍具の位置を入れ替えて、太刀たちの効率を重視するイチカ。

 指南役の仁斎じんさいは、イチカの変化を横目で追いながら、今度はさらに攻撃パターンを指示する。


「水野さんは両手が(ふさ)がっておる(ゆえ)、近距離でのにん切り替えは命取りじゃ。敵に近付いて、側面や背後に回り込んで()(かず)で攻めい。忍具と術は、距離が充分にいてから仕掛ける方が好かろう」


 こちらは訓練の差が如実にょじつにでた。

 あくまで自分中心のイチカと違って、さらは相手の立ち位置を主体に、平面上の戦いを想定する。

 胴薙ぎいち太刀たちで敵の守備を誘い、軸足(じくあし)回転で敵の側面を突き刺し、そこから木人形(もくにんぎょう)の周囲を舞うように、相手のこしからかたへ向けて回転斬りを結んでゆく。

 剣の円舞から、手首を狙った()(ばや)い直線攻撃。

 それが終わると、再び(けん)()の動きから足払いへと変化する。

 相手の姿勢が崩れたのを想定して、首のに小太刀を突き立てた。

 これには仁斎も、満足げに(ほほ)を緩める。


「ウムウム、水野さんの動きは見事じゃ。金剛先生の仕込みが(じつ)(よろ)しい。藤森さんの連続技も、初めてにしては(さま)になっておる。忍びにとって、後退と忍具は二つで一つ。今は、それくらい極端に思っても構わん。木人形は動かんが、接近してくる想定で刀を振るんじゃぞ」


 その後も、仁斎(じんさい)の助言と反復練習が続いた。

 やがて二人につかれが見える頃、小休止と使用忍具の回収を挟んで、別の間合いを想定した稽古が始まる。


「次に来たのは忍者刀にんじゃとうじゃ。絶対に忍具を使ってくるぞ。特に藤森ふじもりさんは同じ武器ゆえ、消耗戦が予想される。大切なのは、得意技で敵を出し抜く事と、けん以外の面で技倆(ぎりょう)を発揮する事じゃ」


「ハイ!」


 イチカがするどく応答すると、仁斎は早速、(クセ)の強い戦法を指南する。


「まずは剣での斬り合いじゃ。武器も体格も同様。(しか)らば押せ押せ! 敵の体勢を崩すのじゃ。順手(じゅんて)で打ち合わせては、押して斬る。逆手の場合、一度()っては、離れて忍具。特に藤森ふじもりさんの忍具は、特殊ゆえに意表を突けよう。剣技によって敵を圧倒するのではなく、剣術、体術、忍具を駆使し、隙を()()けて急所を打つのじゃ!」


 イチカへの指示が終わると、今度はさらの指導に移る。


「水野さんには厄介な相手じゃ。敵は必ず順手(じゅんて)に持ち替え、こちらの守りを破ってくるぞ。打ち合わずに()けよ。(しか)(のち)に、すばやく(ふところ)へ飛び込むのじゃ! 敵が両手持ちなら、忍具の()だしは必ず遅い。縦斬りならば、その場で(さば)いて前へ。剣の浸食領域が広い『胴払い(横斬り)』や『袈裟懸け(斜め斬り)』なら、大きく()退()いて忍具か術じゃ! 敵の剣筋(けんすじ)に合わせて、反撃の手を変えるんじゃぞ」


「承知!」


 希更は最初に、(たて)()り回避からの飛び込み連撃。

 そこへさきの訓練を応用に加え、小手打ち、蹴り崩しから必殺の一撃。

 それが終わると、退()き戦法の忍具を打ちだす。

 その後は、小太刀(こだち)(かく)(とう)()対策の訓練が続き、月曜日の特訓は終了した……。



 翌日(よくじつ)火曜日の特訓は、仁斎との(くみ)()が練習内容に加わって、難易度が一気に増す。

 まず最初に、大太刀・忍者刀・小太刀・格闘、4種の敵を想定した反復訓練を行う。

 やがて一人が、仁斎(じんさい)を相手に実戦訓練を積み、残る一人が小休止を()ねて、木人形を相手にゆっくりと太刀を振って、剣閃(けんせん)()(どう)を身体に学習させる。

 二日目は、ひたすらこの繰り返しである。

 こうしてその日の特訓終わり、三人は剣術修行を終えて、4戦法のまとめに移る。


「良し良し……。剣士と忍者刀(にんじゃとう)相手の対策は、もう好かろう。残るは小太刀と格闘かくとう()相手じゃが、藤森さんは、その対策を憶えておるかな?」


 午前中の必修授業に加えて、昨日(きのう)今日(きょう)の特訓で、嫌というほど頭に叩き込んである。

 イチカは三角座りの姿勢のまま、背筋を伸ばして答える。


「私の場合、小太刀(こだち)相手は金曜授業とまったく同じで、敵の守りを破り、退()かせず()せずの適正距離を保つこと。体術相手の場合、忍具対決は圧倒的に不利で、中距離での(さか)()剣撃と忍具の組み合わせ。それでも勝てなかったら、()(びし)を使って逃げる隠密作戦です」


 後半の格闘忍者かくとうにんじゃ対策は、定石(セオリー)から外れていた。

 本来ならば順手(じゅんて)の小手打ちから一気に仕留めるべきだが、今のイチカでは(しょ)太刀(たち)(かわ)され、致命的な反撃を受ける可能性が高い。

 仁斎はイチカの答えに軽く頷くと、今度はさらの方へと顔の向きを変える。


「とすると、その相手を仕留めるのが水野さんじゃな。近接(ゼロ)(きょ)()の敵に、どう戦う?」


 間を置かず、(かた)(ひざ)立ちの希更が簡潔に答えた。


「剣士が小太刀を相手にするのと同じです。適正距離を保ち、敵の(あん)()に注意すべし」


「うむ。近場ゆえ、敵の忍具も見破りやすかろう。して、同じ小太刀の場合は?」


「主な方針は三つ。一つは、()(とう)を使った消耗戦。もう一つは、片手を忍具の立ち回り……」


 同型(どうけい)同技どうわざの勝負となれば、どうしたって明確な突破口はない。

 だんだんと()(よど)む希更は、その常識を打ち破る唯一ゆいいつの要素を挙げる。


「最後は、特技の霊術(れいじゅつ)です」


 イチカは小さく『霊術れいじゅつ……』と(くち)(ずさ)み、戸惑いに揺れる視線を正面へと向けた。


「師匠、これまで陽忍術のことを何度か耳にはしましたが、霊術とは、具体的にはどのような技なんですか?」


 今度の試験では、陽忍術の使用は()けられない状況である。

 ふむ……、と仁斎(じんさい)は小さく喉を鳴らし、説明の手順をすばやく組み立てる。


「以前にも、水虎すいこ先生の訓練で見た通りじゃが、霊術とは、物体を思い通りに操る念動力(ねんどうりき)のようなものじゃ……。水野さんや、ちと済まんが、ためしに使ってみてはくれんかな?」


承知しょうち!」


 希更は小太刀を抜いて2メートルほど()退(すさ)ると、宙に(いん)を結んで呪文を唱える。


流水(りゅうすい)斂操刃(れんそうじん)!」


 希更の霊術が発動。

 やおら空中に(みず)粒子(りゅうし)が集まり、刀身に流水の()(せん)がまとわりつく。

 敵を斬り裂く破壊の力と、水の軌跡が織り成す()()()()()()

――凄艶(せいえん)

 仁斎は心の内でそう呟くと、興味ぶかい表情で(あご)をさすった。


「ほほう、うまい使い方をするもんじゃ。小太刀にみずを巻き付かせて、間合いを

延長すると同時に、斬撃の威力と守りを高める。今はそのくらいしか制御できんが、いずれは大量の水を操れるやも知れんな……。ああ、もう術を()いてよいぞ。そのままで居ると、ひどく疲れるからの」


 希更が深く(いき)を吐くと、小太刀を巡る水の()(せん)が、音を立てて地面に溶けた。

 術者の性格によって、技の使い方がまるで違う。

 特にさらの場合は、水虎すいこ先生と違って()()狭い範囲の術だが、水の動きがさんげん的でスピードも速く、勢いに負けて流れの外へと(はじ)()された飛沫(しぶき)が、空中で(ゆる)やかな周回軌道を描いて、再び合流地点へと戻っている。

 さながら、空中を(いろど)る繊細な芸術である。

 しばし、ボンヤリとした様子でわざ()えに魅入られていたイチカは、ふと我に返って希更に駆け寄る。


「すごいじゃないですか、希更ちゃん! 今の魔法みたいなのが、霊術なんですね」


 尊敬の眼差しが(ねつ)を帯び、嬉しそうに(ほころ)んだ頬が、ほんのりと桜色に染まっている。

 まるで、おんな同士の告白みたいだ。

 希更は別に、あきえみたいな同性愛の趣味はないのだが、自分の未熟な精神力では、胸の高鳴りをどうしても抑えられず、はにかんだ笑みを(わず)かに(うつむ)かせた。


「ええ、そうよ……。神通力と(つい)をなす技で、物体に干渉する所までは同じだけれど、物理法則をえた動きを自在に生みだせるの」


 希更の煩悶などよしもなく、興奮冷めやらぬ様子のイチカは、二段ジャンプや炎を操る自分を想像して、声を(うわ)()らせる。


いなぁ……。師匠、私もいつか、今みたいな技が使えるようになるんですか?」


「うむ……。忍術伝法の儀を受けて、ぬしも陽忍術の素養に目覚めればの」

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