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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
4章 選ばれし者
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不平等院鳳凰堂

 両者の背景で停滞していた時間が、再び動きだす。

 臥龍がりゅう仁斎が、快戦を祝う矍鑠(かくしゃく)とした笑みを鳴らした。


「カッカッカッ! (にわ)か、ライバルが大量たいりょう出現じゃのぅ」


 いっぽう希更は、不安の相貌を思案のポーズで支えて、クラスメイトの動きを

予測する。


「こうなった以上、藤森さんにだけではなく、私の所にまで、邪魔者の手が及ぶと考えるべきね」


 昂揚から一転、二人の声で冷静になったイチカは、後悔から忍者服の(すそ)を握り締める。


「ごめんなさい、希更ちゃん。私が不用意に、師匠のことをバラしたりしたから……」


 すると、希更が慰めの言葉を掛けるより早く、仁斎が腹の底を呑気にぶちまける。


「なぁに、藤森さんが気に病むことはない。元よりこの四週間目は、儂がみっちり、稽古を付けてやる積もりだったんじゃからの」


 仁斎はそのままの調子で、イチカの不安を言い当てる。


「それと言うのも藤森さんや、そろそろ特訓内容に、焦りを感じとりゃせんかな?」


「あっ、はい。さっきも希更ちゃんと、実戦経験の物足りなさを相談してた所なんです」


「ウム。よくぞ其処(そこ)に気が付いた。実戦では敵は()えず動き、攻撃を仕掛けてくる。とっさの対応力を磨くためにも、動きに防御と回避を混ぜた対人戦たいじんせんを積むしかあるまい」


 訓練方針を明確にすると、仁斎はやおら、金剛先生へと向き直る。


(とき)に金剛先生や。水野さんの訓練も、そろそろ大詰めをむかえとりゃせんかな?」


 二人の(あいだ)に、なにか特別な関係でもあるのだろうか。

 金剛先生は姿勢を正すと、謹直過剰(きんちょくかじょう)な言動で答える。


「はい、仁斎(じんさい)様。戦闘訓練に忍具の扱い。それと、霊術制御に加え、急場(しの)ぎではありますが、意識的な陽忍術の隠密抑制おんみつよくせいを少々……。残すは、本格的な対人訓練のみとなっております」


「ほほぅ。そりゃまた、実に都合が(よろ)しいわい……。さすれば藤森さんと同様、そちらの水野さんも、儂の所に預けてはくれんかな?」


 思いがけない提案に、金剛先生の表情がスッキリと晴れ渡る。


「それは願ってもないこと! これで私も心置きなく、他の生徒からの訓練要請に

応えられます」


 澄み切った応答から一転、金剛先生は、片手を口元に当てて不安を訴える。


「……とはいえ、生徒たちが一斉に訓練場に現れるとなると、秘密特訓の効果が薄れますからな。はたして二人は、それで優位に立てるのでありましょうか?」


 すると仁斎は、金剛先生の不安に迷いなく返す。


「なぁに、訓練場所ならいくらでもあるわい。しかも、この学園のすぐ近くでの……」


 金剛先生が、肩を反らして息を飲む。


「まさか……。『()』平等院鳳凰堂を使うお積もりですか!?」


 不平等院鳳凰堂(ふびょうどういんほうおうどう)

 その場所に秘められただい妄想もうそう的な来歴を、希更が声を(ひそ)めて語る。


()平等院鳳凰堂……。人類は(みな)、産まれた時から不平等。その()(ふた)もない真理を象徴に、場内で待ち受ける(いく)()の罠や刺客を退けることで、如何(いか)なる逆境にも打ち勝つ力を得るという、忍ヶ丘(しのびがおか)に存在する霊場の一つ」


 仁斎は、希更の紹介へ(おごそ)かに頷き、その利用条件を付け加える。


「確かに()の地は、中忍ちゅうにん以上だけが立ち入りを許された難所じゃが、引率者がこの(わし)で、生徒も少人数。さらには、午後の特訓授業で庭先(にわさき)だけを修業場とするならば、話は別じゃろう」


 金剛先生は胸の前で腕を組み、眉を寄せて思案する。


「利用者は上級生ばかりで、特訓の邪魔になる事もかい……。分かりました。鳳凰堂(ほうおうどう)の件は、私からも学園長にお願いして置きますので、水野希更のこと、よろしくお願い致します」


 現れた時とは違い、金剛先生は『ピシャ!』とするどい動きで姿を消した。

 試しにイチカは、神経を尖らせて気配を追うが、その痕跡は欠片かけらも読み取れなかった。

 やがてイチカは師匠の方へと注意を戻して、気掛かりな点を尋ねる。


「あの、師匠……。これから私達は、一体どんな修業を受けるんですか?」


「ふむ……。それについては、現地に向かいながら説明するとしよう」


 イチカと希更は、仁斎の(うし)ろに続いて裏門前を左へ曲がり、最初の十字路をまた左に折れて、車一台分の(せま)い路地を直進する。

 密林の脇を通るみちすがら、仁斎の口が休みなく言葉を紡いだ。


「お主たちはすでに、一学期までに履修(りしゅう)すべき内容を一通り学んでおる。しかし、

今回の試験方法を考えると、それら個々の技を磨いただけでは、充分な実力をけたとは言えん」


 なおも、仁斎の(そぞ)(ある)きと講釈は続いた。


「そもそも、今回の試験が対決方式となったのは、今年の一年生が(みな)、異常なまでに単一忍術に(ひい)でたため、複合的な技のあつかかたを審査しなければ、適正な評価ができない点にある」


 仁斎の説明を手掛かりに、イチカと希更が、通常審査の問題点を挙げる。


「そっか……。みんなが試験で、得意忍術ばかりを()(ろう)すれば、成績評価はグッと上がる」


「それなのに、試験で使わなかった(ほか)の技が、実はまったく修練できてなかったとしたら、実際の能力は、試験で推定されたものよりも、ずっとしたってことになるものね……」


「うむ。対人戦では一つの技のキレよりも、技と技との組み合わせこそが重要なのじゃ。二人一組ならば、さらには味方との連携も審査することができる」


 右手の()(べい)に沿って歩くこと数分、三人は巨大な門の前で立ち止まった。

 一見(いっけん)、時代劇でよく目にする立派な(いえ)()(しき)の門構え。

 その上部に横掛けされた杉板には、『()平等院鳳凰堂』と、堂々たる(すみ)文字(もじ)で書き抜かれていた。

 ()びた乳鋲(ちびょう)で頑丈に繋ぎ止められた門扉。

 その横に立て掛けられた高札(たかふだ)には、中へ入るに当たり、様々な注意事項が綴られている。

 しかもその末尾は、いずれも世の酷薄こくはく無情むじょうさを物語るように、『死して(しかばね)拾う者なし』と冷徹に結ばれていた。

 不吉な文言をつらねる和紙を見て、イチカと希更が『ゴクリ……』と喉を鳴らす。

 先頭の仁斎は、弟子たちが気付けづくのを気に掛けて、普段の飄々(ひょうひょう)とした空気で述べた。


「そう固くなるでない。儂の(あと)について来れば、な~んも危ない事なんぞありゃせんよ」


 古めかしい(きし)(おと)を立てて扉が開かれる。

 門の先に広がっていたのは、見通しの良い和風庭園であった。

 視界の向こうに大きな(かや)()き屋根の日本家屋があり、そこへ向けて、足下に()()びの敷石が地面に埋まり、道行きをふうに案内する。

 広い座敷を(ゆう)するであろう(おも)()から離れて右に、松が数本、玉砂利の()()

幹を伸ばし、その奥にみな()の澄んだ池と小さな滝が見える。


 視線を右前方から左側へ移すと、まるで城壁に囲まれた都市のように、()(べい)

内側が視界の先まで延々(えんえん)と続き、本殿(ほんでん)僧坊(そうぼう)、そのほか国宝遺産に指定されそうな、木造の立派な道場やくらが並んでいた。

 イチカは勿論、名家の令嬢であるさらですら声を失い、仁斎の(うし)ろを大人しく続く。

 先ほど、視界のさきに捉えたいけ(ほとり)にやって来た。

 左側へ離れた位置に、木製(もくせい)藁製(わらせい)戦人形(いくさにんぎょう)や手裏剣の投擲場(とうてきじょう)があり、池から

一定範囲の足下は、訓練用に玉石(たまいし)が疎らに取り除けられていた。

 やがて、池の前で立ち止まった仁斎(じんさい)は、ゆっくりと振り向いて、訓練計画を説明する。


「これから6日間、二人一組で修業を行う。特訓内容は、2日区切(くぎ)りの三段階。

月曜火曜は、戦人形(いくさにんぎょう)を相手に、剣術と忍具を一戦闘中(いちせんとうちゅう)(てき)()入れ替え、やがては一つの連続技へと昇華させる。次の水曜木曜は本番ほんばんを想定し、()(ぬし)ら二人に、一対一の模擬戦をしてもらう」


「ええっ!? 私と希更ちゃんが戦うんですか?」


()(よう)。戦いには複数の技を連携させ、攻めの姿勢に重点を置いた訓練をしてもらう。ちと荒っぽい内容じゃが、それで動く敵を相手とした連続技の実践としよう」


「では臥龍(がりゅう)先生、金曜日と土曜日は、どうなさる御積(おつ)もりですか?」


 二人の実力差を考慮して、仁斎は大まかな予定を組み立てる。


「詳しくは、特訓の成果を見てから決めようと思うが、日曜日を休息とすると、

土曜日には、忍具の点検と軽い自主訓練を行う。消去法で言えば、金曜日が特訓の総仕上げとなろう……。まず本日は、戦人形(いくさにんぎょう)を相手に、連続技の手応えを(つか)むのじゃ。二人とも、準備は良いな?」


「ハイ!」 & 「承知しょうち!」


「ウム、いい返事じゃ。ならば早速、連続技の練習に取り掛かるぞ!」


 こうして本番を想定した、(きび)しい特訓が始まった。

・金剛先生

中東諸国を転戦していた元傭兵。現代戦や外国事情に詳しいことから忍ヶ丘で高い評価を受け、臥龍仁斎の直弟子として鍛えられる。

忍術皆伝の腕前ながらも急拵きゅうごしらえの実情を理解しており、得意技を持たないことから戦術眼を磨く。

集団戦では全体的な思考と用心深さに優れ、補給線と情報連携を常に意識して拠点を守る。自身の戦闘力も手伝ってか、敵の遊撃隊を除いて、陰忍や盗掘者の一団に拠点を抜かれたことがない。

情に厚く、涙もろい性格。

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