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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
3章 忍術伝承
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瀑男先生のバクダン授業

 そして一限目の戦術教練。

 試験想定の剣術修業で、金剛先生の叱(しっ)咤(た)が飛ぶ。


「こらっ、藤森。水野の攻撃に押されているぞ。小太刀に翻弄されるようでは、

忍者刀の特性をまったく活(い)かせていないことになる。もっと適切な距離を保て!」


(適切な距離……? そうか。敵の間合いに踏み込みすぎてるんだ!)

 斬撃の力が鮮(あざ)やかに乗るのは、刀身の先端から、およそ三分の一の距離だ。

 イチカは小太刀の剣閃範囲から大きく外れ、斬空刀(ざんくうとう)の間合いを希更の身(・)体(・)にではなく、踏(・)み(・)込(・)み(・)位(・)置(・)へと調節する。

 思った通り、希更は迂(う)闊(かつ)に手出しできなくなって、途端に守勢に回る。

 戦局の明らかな変化を読み取って、金剛先生が満足そうに喉を鳴らした。


「うむ、それで良し。水野はフェイントと受け流しを駆使して、藤森の初(しょ)太(た)刀(ち)を躱(かわ)し、するどい踏み込みで懐(ふところ)へ潜(もぐ)って、相手の守りを斬り破れ!」


 こうしてイチカは、特訓では足りない実戦訓練を授業で補(おぎな)い、二限目の授業へと向かう。



 次なる授業は、忍具作成の実習授業。

 校舎北側3階の忍(にん)具(ぐ)調合室に、褌(フンドシ)一丁の前衛(ぜんえい)芸術家、瀑男(バクダン)先生が入室する。

 一応、ねじりハチマキに丸メガネ、作業用に前掛けを提(さ)げてはいるが、そんな

装飾品ごときでは、筋骨隆々の半裸を隠すには、有って無きが如(ごと)しである。


「芸術は、爆裂(ばくれつ)だ!!」


 まずは御決まりの一言を教卓前で言い放ち、さっそく授業開始の口上を並べる。


「さて野(や)郎(ろう)共(ども)、ついにこの日が来ちまったな。なんと今日から、癇癪玉(かんしゃくだま)の製造に入っちまうぞ」


 女子生徒を野郎呼ばわりのアブナイ教師に負けず劣らず、焰薙(ほむらぎ)華隠は理性の振り切れた声で、待ちに待った授業内容を礼賛する。


「エッヒャッヒャッヒャッ! その言葉、あちしはずっと待ってただわさ! さぁ、褌(フンドシ)先生、このあちしに爆発物の製造奥義、さっさと伝授するだわさ!」


「相変わらず、俺の授業じゃテンション高(たけ)えな、焰薙(ほむらぎ)は……。だが、望む所だバカ野郎! そもそも伝造(でんぞう)先生に火薬の調合を習わせたのは、ぜんぶ俺の差し金だ。

昨日は図(はか)らずしも、教室を爆破しちまったって? 良いぞ良いぞ! 今日は校庭で、好きなだけドッカンドッカンやらせてやるぞ。何故(なぜ)なら俺の口癖は…………」


 溜めに溜めた割には、結局、どうでも好いキメ台詞(ゼリフ)を口走る。


「芸術は、爆裂(ばくれつ)だ! だからなっ!!」



 しかし、その日の午後、歌舞伎(かぶき)役者みたいな口調で、瀑男(バクダン)先生が疑問の声を練り鳴らす。


「なぁ~にぃ~? 俺がこれだけ教えたのに、まったく爆発しねえだとぅ!?」


 荒れ狂う獅子舞のように、首をガクガク揺らす動作は基本仕様(デフォルト)だ。

 それだけ暑苦しければ生徒も尻込みして当然だが、不発の原因は、どうも作り手のイチカではないらしい。

 黄色い砂塵が足下を舞う中、老剣士が、校庭の真ん中で不思議そうに首を捻(ひね)った。


「ふむぅ……。こうして儂(わし)も付きっきりで見ておったのだが、手付きの善(よ)し悪(あ)しはともかく、手順は完璧じゃ。本来なら、これで爆発してもおかしくないと思うんじゃが……」


 仁斎(じんさい)を含む三人の前で、校庭中央に横たわる癇癪玉(かんしゃくだま)は、煙ひとつ吐き出さない。

 考えられる要因としては、自作忍具の非正規(イレギュラー)性(せい)であった。


「やっぱり、昨日(きのう)作った調合薬を、お菓子素(そ)材(ざい)に混ぜたのが悪かったんでしょうか」


 イチカが自信なく言うのを、新忍具には門外漢の瀑男(バクダン)先生が、これまた自信なく返す。


「いや。それでも、火薬は火薬だからよぅ……。ひょっとしたら、着火性が悪いだけかも知れねぇぜ」


 通常忍具の専門家すら戸惑う状況に、ど(・)う(・)せ(・)な(・)ら(・)ば(・)と、仁斎が提案する。


「物は試(ため)しとも言うし、普通の癇癪玉(かんしゃくだま)と一緒に使って、誘爆させてみてはどうかの?」


「おっ、そいつはおもしれぇ。引火専用ってのも、専門的な風情(ふぜい)を感じさせるな……。藤森さんよ、たしか、授業で作ったヤツがあるだろ。いっちょそれに火(ひ)ぃ点(つ)けて、玉の辺りに投げ込んでみてくれや」


「分かりました。やってみます」


 イチカは癇癪玉(かんしゃくだま)付属のマッチで導火線に着火し、腰の捻(ひね)りを加えて利(き)き手(て)を振りかぶる。

 点(てん)火(か)玉(だま)は、イチカの右手を離れて不発弾へと接近し、地面に落下して爆発した。

 すると、癇癪玉(かんしゃくだま)の破裂と同時に、不発弾が周囲の爆風を吸引して、爆心(ばくしん)地(ち)周辺に真空状態を作る。

 それまで棒立ち姿勢だったイチカは、予想外の現象に受(う)け身(み)も取れず、側頭部から地面に滑り込んだ。


「痛(い)ったたたたた……。いったい何が起きたんですかぁ?」


 頬(ほほ)を摩(さす)りながら立ち上がるも、見えるのは、普段のグラウンドの情景のみ。

 強いて変化を挙げるとすれば、校庭の黄色く乾いた砂が、爆心地で小山のように寄り集まっていた。

 瀑男(バクダン)先生も転倒から立ち直り、校庭の様子を見て愕然とする。


「オイオイオイオイ……。こいつは一体(いってえ)どういうこった? 爆発の跡(あと)が何処にも無(ね)ぇぞ!」


 言われてイチカも、校庭内の異常を認識する。


「本当だ……。地面はまったく抉(えぐ)れてないし、煙(けむり)っぽい匂いも全然しない」


 姿勢を整え、杖を突き直した仁斎が、怪訝な眼差しをイチカに向けた。


「もしやと思うが藤森さんや、調合素材のお菓子に、なにを使ったのじゃ?」


「えっと……。確か、夏の蒼(あお)い納涼花火をイメージして、お菓(か)子(し)忍具の火薬の材料に、氷菓子のアイスボッ○スを混ぜてみたんです」


 お菓子といったら煎餅(せんべい)派の瀑男(バクダン)先生が、ヘンテコな表情で聞き返す。


「アイスだったら分かるが……。なんだい、そのアイスボッ○スってのは?」


「昔、外で遊んでも手が汚れないからって、バスケットボールをやってた子供達に流行したお菓子のことです。伝造(でんぞう)先生の教えを参考に、木属性の『爽風薬(そうふうやく)』を繋ぎに使ってみましたけど……。どうやら、炎と氷の反発が強過ぎたみたいですね」


 熱が冷めてゆく弟子とは違い、師匠の仁斎(じんさい)は瞬(まじろ)ぎもせずに思案を巡らす。

 やがて、一つの推測結果を唖然とした空気で告げた。


「否(いや)……。これはこれで、成功やも知れん」


 仁斎(じんさい)の言葉を参考に、瀑男(バクダン)先生が腰に手を当てて頷く。


「なるほど……。臥龍(がりゅう)先生の言う通り、こいつもまた一つの正解だ。なんたって、爆発と同じ規模の熱(ねつ)と爆風を、お嬢ちゃん謹製(きんせい)の特殊爆弾が吸い込んじまったんだからな」


「それじゃあ、さっきまでの不発現象は、周りの爆発を吸い込もうとしてたんですか!?」


「ハッキリとした事までは言えんが、この状況を察するに、そうだとしか考えられん」


 仁斎(じんさい)は片手を横に広げて校庭の様子を示すと、実用手段を仄(ほの)めかす。


「目的からは外れたが、代わりにこれで、癇癪玉(かんしゃくだま)への対応が広がったわい。手裏剣のように弾くことのできん爆発は、その場を離れる『逃げの一手』しかなかったからのぅ」


「爆発は通常忍具任(まか)せで、この真空玉(しんくうだま)は、敵の意表を突くキッカケになりそうですね」


 イチカが弾むような調子で言うと、仁斎(じんさい)は、その結末を満面の笑みで予言する。


「ウム……。もっとも、相手の隙(すき)を突くより先に、敵は儂(わし)等(ら)みたく、地面に引き倒されてしまうがのぅ。カッカッカッ!」

・蕩暈(とううん)氷花(ひょうか)

天海衆の偵察・高速機動部隊を担当し、戦場攪乱を得意とする術士。水属性。

白く艶(つや)やかな肌と、細長い手足が特徴の妖艶な女性。

舶来品や装飾物を好み、情報分析や戦術眼に長ける。

西の霊場・赤壁を目指すも転進。戦力の大部分を天空の護衛へと回して、自身は殿(しんがり)となって神通力の泰(たい)斗(と)・天地霄人(てんちしょうにん)ひきいる陽忍部隊を引き付ける。

陰忍奥義・氷結界によって陽忍たちを凍(こご)えさせるも、中野ひみかと仙石保(たもつ)の合成忍術により、神具を身体に打ち込まれて封印される。

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