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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
3章 忍術伝承
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爆弾魔

 特訓初日の月曜一限目。

 忍具知識・設計の授業に、担当教師のカラクリ伝造(でんぞう)が工作室へとやってきた。

 黄土色の縮緬(ちりめん)織りを頭に巻き、上体にフィットした肌着の上から、()(うで)(たけ)の短いチョッキ姿。

 さらには、背中に木組みの箱を背負った風貌は、ちょうど箱根界隈を拠点に(いとな)む、昔の薬売りによく似ている。

 しかし、その服の中に収められた身体は、肋骨より下、一部の臓器を除いた全てが、なんと木造パーツのカラクリ仕掛けである。


「あいあい、始まるでやんすよ。週の初めの第一授業、忍具設計に整備や知識。藤森ふじもりさん、今日は()()()の骨組みを見たからって、気絶しないでおくれやんすんね」


 途端に教室内から、クスクスとした忍び笑いが漏れる。

 先週の始業直前、イチカは教卓前へと呼び出されたが、話の途中、至近距離で彼の人造骨格を目撃して卒倒した経緯がある。

 イチカは気恥ずかしさに(ほほ)を染め、律儀に起立して謝罪を述べる。


「あっ、ハイ! この前は、いきなり取り乱して済みませんでした」


 ペコリとお辞儀して着席すると、隣りに座る希更が話しかけてきた。


「ねえ、藤森さん。昨日の朝に言ってた新忍具の件、どうなりましたか?」


 (たの)しみに尋ねる希更へ、イチカは器用にも、小さく弾んだ声で返す。


「ハイ。すっごく面白くて、私向きのが出来ました♪ でも、テストまでは誰にも見せるなと師匠に言われてるから、お昼くらいにコッソリ見せるんで、楽しみに待ってて下さい」


「分かりました。では、また(のち)ほど……」


 二人が内緒話をしている(あいだ)に、伝造(でんぞう)先生は背中の木箱を、自身に近い教卓きょうたく手前の右側に置き、講義の準備を済ませる。


「さて……。今日のお題は、素材の相性と合成実験でやんす。(さき)に言っときやすが、コレ、明日の瀑男(ばくだん)先生の授業と深く関わりがあるんで、キチッと頭に入れて置くように」


 噺家(はなしか)みたいな小気味こきみ良い口調で注意を進め、黒板に木火土金水(もっかどごんすい)の『五行(ごぎょう)』を描き、教卓の木組み箱から、コルク栓のついた小さな(ビン)を五つ取りだす。

 内容物は、若草色(( 青))・赤・黄・白・黒の(いつ)つに色分けされた粉末状の物体。

 木組み箱の少し先、教卓の真ん中に、五つの小瓶を五行に(ちな)んで横一列に並べると、伝造(でんぞう)先生がその正体に触れる。


「それでは分かりやすいように、今日は『やく』を使って授業を進めましょ。相性と言っても、(つな)ぎとなる素材次第で相剋(そうこく)関係を無視できる点が、忍具作りの特徴でやんす」


 意外なことを聞いてまゆを跳ね上げると、さっそく表情を読まれてしまった。


「おっ? なにやら藤森さん、その顔、いきなり疑問が御有(おあ)りのようですな」


 不意の指名で驚くが、カラクリ先生の言う通り、イチカには()に落ちない点があった。

 今度は椅子に腰を落ち着かせたまま、イチカは質問を切りだす。


「あっ、はい! 世間ではよく、火と水はあいれないと言いますし、水を掛ければ、火は消えちゃうじゃないですか。そんな物でも、簡単に組み合わせて良いんですか?」


 初歩的だが、同室の誰もが同じ見解のため、どこからも(すす)(わら)いが聞こえない。

 これに対してカラクリ伝造(でんぞう)は、内心、その質問を待っていた素振(そぶ)りで流暢に例を挙げた。


「まったく其奴(そいつ)御尤(ごもっと)も。しかしあちきに言わせれば、ソレ、大量の水を背反(はいはん)属性の火に直接ぶつけたから消滅しただけで、加減と工夫さえ()らせりゃ、お風呂みたく、ありがたくなる(モン)でさぁ」


 この説明で理解できたのは、練丹術の使い手である坂本愛里だけであった。

 その左後方、幼馴染みの金岡あきえが、伝造(でんぞう)先生の説明に異議を唱える。


「センセ~。お風呂って言っても何処(どこ)も水ばっかりで、火の要素なんてひとつも無いじゃないのさ。アタシには今ひとつ、ピンと来ないけどなぁ……」


 これについても心待ちにしてたのか、伝造(でんぞう)先生は、知的な糸目をイタズラっぽく引き延ばした。


「おやおや、あきえさん。こいつは不思議な事をおっしゃる……。夏場はともかく、ほかの季節でも水風呂じゃ、流石のしのびも風邪を引いちまうでやんしょ? ここは(ひと)つ頭を柔らかくして、お風呂には()()()()と加えた火の要素、つまりはねつがあると考えておくんなさい」


ねつって……。確かにまぁ、と言えば熱だけど……」


 共感できるが強引さも少しは(うかが)えて、どうにも素直に頷けない。

 あきえが戸惑い気味に納得するのを、伝造(でんぞう)先生が一方的に話を進める。


「そうでやしょう、そうでやしょう? (よう)は何事も、要素(エレメント)で考えるとしっくり来るもんでさぁ。この発想に関しては、土曜日授業の練丹術れんたんじゅつと関係がありやす。(ばん)()につけて、量と工夫が重要でやんすよ」


 生徒の疑問を押し切った手前、心苦しさと授業理解への不安が残る。

 伝造(でんぞう)先生はフォローのために、身近な物を例にあげて信憑性を添えた。


「少し複雑なものとなると、火・水・金の要素ででんとなりやすね。二段階に分けて、詳しく説明しましょ……。火の要素は『融解(ゆうかい)』を意味し、水はそのまんま『流体(りゅうたい)』と考えやす。ほんの(わず)かな水に、濃密のうみつな火の要素を加えることで、物を()かす流体、すなわち『(さん)』へと変わる()(めい)(さん)。これに金属を加えれば、あの『ボルタ電池』の大まかな仕組みと合致しやす」


 これには教室内から、「ほ~う……」と小さな斉唱せいしょうが漏れるが、それでも理解できたのは半数と言ったところ。

 クラス筆頭の呼び声が高いのんですら、顔に疑問を浮かべているありさまだ。

 ジッとしている事が嫌いで、頭脳労働が苦手な彼女だが、攻撃系の専門知識となると、一転して造詣ぞうけいが深い。

 その彼女が分かっていないとすると、座学の授業がおくれ気味なのが原因だろう。

 忍者にんじゃ()(しき)専門の生徒とは違い、一般教養にがたいイチカが納得してる点は、大いに(すく)いがある。

 伝造(でんぞう)先生は、安心と困惑を胸の内で()()ぜて、言葉のまつに実験開始の号令を繋げる。


「皆さんも、こうした組み合わせを頭に入れて、今から火薬の調合をお願いしやす」



 それから、一時間半後の二限目・座学。

 担任教師の綾平あやひら(しずく)が、教卓前で元気一杯に生徒へ呼びかける。


「は~い、皆さ~ん。休み明けで(だる)いかも知れませんが、目を覚まして下さいね~。先生の一般知識と座学、始まりますよ~♪」


 気分はまるで、幼稚園の先生である。

 しかし、(みな)、なぜかグッタリと机に張り付いて、誰もその言葉に反応しない。

 学級崩壊の波は、ついに忍ヶ丘の(へき)()にも伝播したのか?

 この許されざる蛮行に、綾平(あやひら)担任は、無限の包容力で立ち向かう。

 まず最初に彼女がとった行動は、生徒のたい()を一部受け容れ、優しく頷くことであった。


「うんうん……。みんな、週の初めなのに疲れてるのね~♪ でも、先生せんせい信じてる……。本当は眠いからとか、そういったイジワルなんかじゃ無いんでしょう?」


 間を置かず、綾平(あやひら)担任の一人語りが核心へと切り込んだ。


「だってみんな、(スス)とか火薬で黒焦げですから♪ 原因と(おぼ)しき藤森さんなんて、すっごくファンキーなアフロヘアーになってるし」


 端的に言うと、綾平(あやひら)担任は、生徒たちの惨状が()()()お気に入りで、少々、かれ気味なのだ。

 その、春の陽溜ひだまりみたいな空気に後押しされて、イチカは罪悪感ゼロの調子で挙手する。


「ハイ! 相性あいしょう良いかな……と思って、かぜの素材を混ぜて点火したら、大爆発でした!」


 本来ならば注意すべき所を、綾平(あやひら)担任は、嫌な『あるある(バナシ)』で盛り上がる。


「うふふ~、そうですねぇ~♪ かぜによっての威力が分散する代わり、範囲は

一気に拡大しちゃうもの。爆心地から順番に、みんなの火薬に引火しちゃったんですね~」


 委員長の坂本愛里は、眼鏡(メガネ)が割れてグロッキーだ。

 クラス中央の席で、(どう)このえが机の上でピクピクと痙攣する。

 毛先のカールした金髪が爆発に黒ずみ、千々(ちぢ)に乱れている。

 世にも奇妙な『(よこ)ロール』となったサイドヘアーが、今、(ちから)なく重力に引かれて『(たて)ロール』に変わった。


「ふ、藤森さん……。事故を装ってクラスメイトを爆殺ばくさつしようとは、恐ろしい敵……。ガクッ!」


 教室内に『まつ完了かんりょう』の、遊び半分な空気が広がるが、完全に誤解である。

 イチカは、胸の前でにぎこぶしを上下に振って必死に訴える。


「ち~が~い~ま~す! 本当に偶々(たまたま)、『これだけなら……』と思って、先生の

指示通りのタイミングで点火したら、線香花火みたいにじゃなくて、一気に爆発しちゃったんです!」


 自分は適切てきせつな手順で実験した、とアピールした積もりだが、こまやかな配慮が欠けていた。

 不穏な沈黙の中、教室中央、左から三番目の席で、柳沼(やぎぬま)理乃が涙ながらに罪を

悔いる。


「このうえ、伝造(でんぞう)先生に責任転嫁しようだなんて……。復讐だ……。これは事故の名を(かた)った、裏門襲撃の復讐だよ」


 爆発など日常茶飯事にちじょうさはんじでは困るのだが、綾平(あやひら)担任が、理乃の発言に平然と同意する。


「うふふ……。()()()()♪ あっ、そうだ。今日はそれなら、歴史の授業でもありますし、古今有名な爆殺(ばくさつ)事件でも紹介して、暗殺技術の参考にしましょう♪」


「お願いですから、先生も爆発ばくはつから離れて下さい!」

篠崎洞仙しのさきどうせん

天海衆の元・参謀。

幕府の統治に絶望し、天海衆に身を寄せて、組織の運営を一手に引き受けた。

陽忍たちと敵対する惹鬼じゃっきの技を研究し、陰忍が更なる力を得るのに賛成するも、その副作用として、他者への憎悪と猜疑心を増大させると知り、事態の収拾に動く。

時すでに遅く、天海衆には陰忍鬼道術が蔓延し、その治療法を模索するため、陽忍集団・五部に投降する。

結局、天海衆へと残した協力者と連携して、陰忍たちの治療を果たす目算は狂い、蕃丞ばんじょう支手してを封印する際、協力者の名前を告げられなかったことで、およそ150年ののちも陰陽・両忍者が争う状況が続く。

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