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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
3章 忍術伝承
36/83

陽忍術

 ややあって、校舎北部に身を(ひそ)めたイチカは、一階トイレの出入り口から顔を

出して、注意ぶかく左右を(うかが)う。

 異常なし……。

 安心した瞬間、倦怠感がドッと押し寄せてきた。


「も~う。午後一番から、ひどい目に()いました……」


 イチカは大きく溜め息をついてから、特別教室棟の廊下を南へ進み、Yの字型の三叉路を右に引き返して、階段横の臨組(りんぐみ)前へとやってきた。

 扉を開けると、追いかけっこのあいだに入れ違いになったのか、師匠の臥龍仁斎(がりゅうじんさい)が、黒板前で既に待機していた。


「師匠。藤森イチカ、ただいま参りました!」


 威勢よく挨拶すると、仁斎は落ち着いた様子で頷き、弟子の着席を待たずに切りだす。


()ぅ来た、待っとったぞ。……して、藤森さんや。新しい忍者服の()()はどうじゃな」


 東雲しののめ保健医から逃げるのに必死で、ようの確認を済ませていなかった。

 前後左右に身をよじり、着心地を確かめる。

 以前に比べて布地の弛みが少なく、きぬれの音を心配しなくて良さそうだ。

 その反面、忍具を忍ばせる余剰空間が少なく、長期戦には不安が残る。


「そうですねぇ……。以前まえのは全身がダボッとした感じでしたけど、いま着てるのは胸まわりが少しピッチリしてて、それ以外は相変わらずって感じですかね」


 イチカの物足りない感想に、仁斎はアッサリとした様子で返す。


「まっ、初めはそんなモンにしか感じんじゃろ。正しくは、腕の振りを考えて可動部にゆとりを増やし、それ以外の部分では、布の動きに振り回されぬよう、引き締めてあるのじゃ」


「ですが師匠、これでは忍具の乏しさに、攻めの手がワンパターンになりはしませんか?」


「そん時は、使い捨ての忍具ベルトを装着するのが好かろう。忍具は基本、忍者服のポケットや付属品の数だけ持てる。それ以上ともなると、機動力が犠牲となるでの……。なるだけ手持ちの忍具を()()しみして、現地調達を心掛けるべきじゃ」


 (ばん)()につけて教訓を織り交ぜる物言いが、ふと、事務的な響きへと変わる。


「さて、藤森さんは中途編入者ゆえ、まだ陽忍術(ようにんじゅつ)に馴染みが無いやも知れぬ。そこで今うちに、陽忍術に関する五つの力を、改めて()(さら)いしようと思う」



 陽忍術(ようにんじゅつ)

 風水に()ける大地の力。

 すなわち、龍脈(りゅうみゃく)()を根源とする超常の忍術。

 その力は、古代中国より伝わる陰陽五行説(いんようごぎょうせつ)(のっと)り、木火土金水(もっかどごんすい)、五つの技に分けられる。


木属性(もくぞくせい)神通力(じんつうりき)

 風を呼び、雨を降らせ、人を化かす神秘の術。

 その基本概念は、大自然の力を操り、対象にぶつけること。

 それ(ゆえ)に、術者の力を消耗せず負担は少ないが、制御が難しく不発も多い。

 水属性みずぞくせいに『相生(そうじょう)』して勢いを増し、金属性きんぞくせいに『相剋(そうこく)』されて力を失う性質を持つ。

 また、気配を断絶する『隠行術(おんぎょうじゅつ)』にも深く関わる。


水属性(みずぞくせい)霊術(れいじゅつ)

 金属性に相生(そうじょう)し、土属性に相剋(そうこく)される念動力(ねんどうりき)

 その基本概念は、体内の術力を運動エネルギーへと転化し、外界に働きかけるもの。

 流体と非常に相性がよく、周囲から水分を凝集させたり、物体を意のままに操ることが出来る。

 ただし、体内から外界への力の向きは術者を著しく疲労させ、(いん)や呪文の詠唱補助なしには、連続行使はほとんど不可能とされる。


金属性(きんぞくせい)氣術(きじゅつ)

 土属性に相生(そうじょう)し、火属性に相剋(そうこく)される気功術。

 術者の運動力や防御作用を著しく増大させる一方、氣術(きじゅつ)自体、電気とよく似た

性質を持ち、制御をおこたると、氣の力が身体の外へと流出してしまう。


土属性(つちぞくせい)練丹術(れんたんじゅつ)

 火属性に相生(そうじょう)し、木属性に相剋(そうこく)される。

 事前に薬草や鉱物から陽忍術の成分を抽出し、忍具や薬品にその力を付与する

技術。

 肉体の生理作用が高まり、視覚・聴覚などの感覚器が鋭敏になる反面、全身から陽忍術の気配が漏れ出し、敵からの奇襲を容易にするリスクを併せ持つ。

 また、素材の味覚によって抽出可能な属性が異なる。

 酒や(ハッ)()、お茶などの()()爽快感は木属性。辛みは火属性。苦みは土。酸味は金。甘味は、霊術の水属性みずぞくせいに該当する。


()属性(ぞくせい)符術(ふじゅつ)法術(ほうじゅつ)

 木属性に相生(そうじょう)し、水属性に相剋(そうこく)される。

 符術(ふじゅつ)練丹術(れんたんじゅつ)などで事前に制作した呪符から、法術(ほうじゅつ)は、いんや呪文によって体内から純エネルギーを凝集し、一方向へと放出する荒技のこと。

 陽忍術の原動力とも言われ、他の四属性では説明できない現象を可能とする。



 専門用語を一息に説明し終えると、臥龍仁斎は、普段通りの飄々(ひょうひょう)とした空気へと戻った。


「まっ、ちと長くなったが、以上が陽忍術のまとめじゃ。藤森さんが住んでた忍ヶ丘(しのびがおか)の外では、『魔法』と言えばピンと来るかも知れんな……。わしら異能の力を使う忍び、いわゆる『陽忍(ようにん)』は、本来の忍びの技である忍術に異能の力を混ぜて使うため、『陽忍術』と呼んでおる」


 一呼吸おいて、仁斎は鷹揚おうように口を開いた。


「それでは、本題に移るとしようかの……。明日の月曜午後から試験までの一ヶ月間、どのような方針で修業を進めて行くか。この点について、藤森さんから、何か要望はありゃせんかな?」


 教卓前の席に視線を落とすと、イチカが難しい表情で答える。


「それなんですが……。入学初日の着替え中、東雲(しののめ)先生が、私にこんな事を教えてくれたんです」


 話の途中、仁斎の頭部がビクッとするどく揺れ動いた。


「なぬっ! 東雲先生の着替え中……」


(いえ)、気にすべき所はそこじゃなくて、話の内容です。しかも、着替えていたのは先生じゃなくて私の方ですから」


「むぅ、そうか……。して、どのような事を言っておったのじゃ?」


(師匠が一瞬、あおしおを掛けたように沈んだ気がする……。妙に気にされないだけマシですけど、なんだか東雲先生に負けたような気がしてなりません)

 考えても仕方ないことなので、イチカは、先週伝授(でんじゅ)された平日授業の大切さを

復唱する。

 授業の流れ(カリキュラム)の意味を知って訓練すれば、短期間でも充分な成長が見込める。

 東雲(しののめ)保健医の見識深さに、仁斎は小刻みに頷いて渋く唸った。


「ふむ。流石は東雲(しののめ)先生じゃ……。天晴(あっぱ)れ、物の道理をよく心得ておる」


「私も東雲先生の言ってる事がよく分かります。いくら特訓を頑張っても、受け身の姿勢で学んだ所で、『本当にこれで良いのかな……』って、()()()()な迷いが生じて、修業の足を引っぱってしまうと思うんです」


「うむ。迷いは訓練のみならず、あらゆる事を妨げるからの……。それに実は、全教科の先生から、特訓の協力を得ることに成功しての。どうせなら午後の修業時間を半分に分け、前半は授業の復習、後半を基礎修練や弱点補強にあてようと思う」


 大まかな方針が決まると、イチカの胸に重圧(プレッシャー)が込み上げる。


「師匠……。私、これからの修行に耐えられるでしょうか?」


「なぁに、案ずることはない。初めの一週間は、通学路の走り込みと苦手科目の

補強で慣らしていく。移動経路の短縮と慣れは、地形利用の効果を高めて精神的な余裕を保つ。そうして二週間目から、徐々に本格的な修業を始める予定じゃ」


 結局のところ、初日の特訓にイチカがどれだけ耐えられるかで、具体的な修業内容が調整される。

 言ってみれば練習前のこの相談は、本人の覚悟を引き出すための儀式みたいなものだ。


「さて、特訓方針もあらかた決まった事じゃし、今から早速、特訓で使う忍具を受け取りに行くとしよう。木下(きのした)文房具店へと向かうぞぃ」

・呪術師 天空

幕末期の天海衆頭領・空元より、邪教解体を命じられた上忍。

それまでは、野心深き忍びとして重用を避けられていたが、多くの忍びが現役を

退しりぞいていたため、白羽の矢が立つ。


紫水晶の奪取により邪教根絶に成功するも、片目を失う大怪我を負う。

その後、異能力の危険性を説いたことから信用され、忍術皆伝の試練として天海衆に伝わる秘境へと紫水晶の封印に赴いた。

幕府方の烈士・雪風と戦う際、負傷した片目を補うべく紫水晶を埋め込み、雪風が行使する異能力と呪術を拮抗させ、焼け落ちる里から辛くも逃げ延びた。

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