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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
2章 成りたい自分
23/83

零(ゼロ)からのスタート

 転校初日から五日後、金曜日の昼休み。

 イチカは各教科かくきょうか担当のプロフィールをノートにメモ書きすると、両手で顔を(おお)い隠した。

 軽い溜め息のあと、片手を顔から離すと、紙面の上でおどる几帳面きちょうめんな文字が視界に映り込んだ。


・月曜日2限 … カラクリ伝造(でんぞう)

 科目は、忍具知識と設計。肉体の半分はメカ。

 ただしパーツは木製なので、電磁波にやや強く、水に浮く。

 そのカラクリボディに驚いて意識喪失。気絶して保健室(おく)りに。


・火曜日1限 … 瀑男(ばくだん)先生

 『芸術は、爆()だ!!』が口癖な、(ふんどし)一丁の前衛ぜんえい芸術家。

 その格好は、乙女心には結構()る物があるが、一応は人間の範疇(はんちゅう)

 だが、恥ずかしくて顔を合わせづらい。


・水曜日2限 … 水虎(すいこ)先生(河童)

 もはや、人間ですらない!

 忍ヶ丘の人工湖『赤壁(せきへき)』に住む、『霊術(れいじゅつ)』および水練(すいれん)の師範。

 出てきた瞬間、イチカは速攻(ソッコー)、気絶してしまった。


・木曜日1限 … 天狗(てんぐ)どの

 この学園、人外(じんがい)が多すぎる!!

 厳しい修練と食事制限の結果、(つい)に『神通力(じんつうりき)』を会得した修験者。

 その長い鼻は偽物ニセモノか、と触った拍子に、クシャミで吹き飛ばされて気絶させられた。


・金曜日2限 … 石川(いしかわ)残月(ざんげつ)

 背中に長刀(ちょうとう)を差し、いつも焦って『つまらない物』を斬ってしまう困った人。

 下着であるサラシと(ふんどし)の上に、やたらと布地の少ない忍者服を着た剣豪。

 面倒見は良いが、少々、体育会系なのがたま(きず)。幽霊が苦手。

 実質、ルームメイトである土御門ひなたのお目付役。


・土曜日1限 … つち(かど)ひなた

 『符術(ふじゅつ)』と『練丹術(れんたんじゅつ)』の授業を受け持つ、優しい口調の陰陽師(おんみょうじ)

 極度のバクチ好きで、五部(いつつべ)学園長からギャンブル禁止を言い渡されている(ほど)

重傷さ。

 同室の石川残月とは、バクチと幽霊で上手(うま)い具合に相殺した人間関係。



 こんなビックリ先生たちが相手では、たった数日で学園に馴染なじむ事など到底(とうてい)不可能である。

 こうしてイチカの()(こぼ)れっぷりは、早くも職員達の話題となり、入学早々、

一般高校では体育教師に()たる『戦術担当(せんじゅつたんとう)』の金剛(こんごう)先生から、職員室へと呼び出しを喰らったのである。


「藤森、お前は早くも臨組(りんぐみ)の授業で()(こぼ)れ、クラスからも浮いていると聞くぞ」


 (そで)がビリビリに破れた格闘着に、首から太珠(ふとだま)じゅ()を提げた戦術教官、金剛(こんごう)先生にズバリと指摘されて、イチカはシュンと項垂れた。

 試験にわざと落ちて転校する気の彼女だが、同じ場所で五日間も過ごして、流石(さすが)に少しうしろめたくなって来たのである。


「はい、済みません」


 返す言葉もなく()()()()()()と、禿頭(とくとう)極太ごくぶと眉の金剛先生は、あわてて空気を軟化させる。


「ああっ、待て待て……。先生はべつに、おまえを責めてる訳ではない。というのも、従来、運命選定法が行われるのは、他の生徒の入学と同じ、3月から4月の(あいだ)と決まっているのだ。ところが、肝心の選定官(せんていかん)が、ちと事件というか……、トラブルのようなものに巻き込まれてな。当時、忍ヶ丘を留守るすにしていたのだ」


「だから私だけ、途中とちゅう編入なんて不利な条件だったんですね」


 事情を簡単に話し終えると、金剛先生が鹿爪(しかつめ)らしく一膝(ひとひざ)乗りだす。


「そういう訳だから、われわれ教師陣にも、考慮すべき点は多々ある。そこでだ、調べてみると、お前の母君(ははぎみ)が入学当時にこなしたという、基礎特訓メニューが見付かったのだ。どうやらまえ母君(ははぎみ)も、運命選定法によって呼び寄せられた(クチ)らしい」


 母が忍者であるとは聞いていたが、自分と同じ立場だったとは初耳である。

 驚きと同時に、イチカの胸にあわい期待が込み上げる。


「それじゃあ、私もそれをこなせば、一人前(いちにんまえ)の忍者になれるんですね!」


(ある)いはな……。二ヶ月(ふたつき)も遅れ、藤森にとっては、(いち)からどころか(ゼロ)からかも知れんが、先生もその特訓に付き合うことを条件に、ここは一つ、思い切ってやってみないか?」


 学園を()めるにしたって、それくらいはして置くべきだろう。

 イチカは、街を案内してくれたさらたちへの義理立てに、二つ返事で承諾する。


「ハイ! このまま授業について行けないのは不本意ですし、私も、母上ははうえの修めた特訓をなんとか突破して、せめて足手まといからは卒業してみせます!」


 イチカのハッキリとした返事を聞いて、金剛先生は肩を揺らして、豪快な笑みを浮かべた。


「ハッハッハッハッ! そうかそうか……。それなら、先生としても好都合だ。いや、(じつ)を言えばこの時期、お前の(ほか)にも心配な生徒が一人ひとり居てな。事情(こと)によると、そのものは進級試験の合格に単位が足りず、『忍術伝法の儀』を受けられぬ危機なのだ」


「へええぇぇ……。私の他にも、()(こぼ)れな人が居るんですねぇ」


「そういう言い方は感心できんな……。それにその(むすめ)は、陽忍術においてぼん

才能に恵まれ、苦手科目も少ない。ただ、少々、身体(からだ)が弱くてな。季節の変わり目に体調を崩すのだ。だから、午後の特訓でたんを補充がてら、体力を付けておこうという考えなのだ」


何事なにごとにも、基礎体力は重要ですからね……。それで、特訓はいつからなんですか?」


 まるで催促(さいそく)するような問いかけに、金剛(こんごう)先生がニヤリと好戦的な笑みとなる。


「無論、今からだ。特訓内容は、走り込みなどの基礎訓練やせん()指導。今回の特訓地は、戦人形(いくさにんぎょう)や訓練設備のある、サバイバル公園・壇ノ浦(だんのうら)だ。もう一人の訓練生は、(すで)にその地に向かっている。我々もすぐに特訓場へと向かうぞ!」


 力闘(りきとう)を感じさせる(するど)い氣を放つと、イチカは『ビシッ!』と()()()()の姿勢をとって気合いを高める。


「ハイ、よろしくお願いします!」


「うむ、()き返事だ。だが、さきに一つ、忠告しておくことがある。入学説明では言い忘れたが、壇ノ浦(だんのうら)はもちろん、()の霊場の奥へは、決して足を踏み入れるな。奈落の落とし穴、偽装された殺人罠、さらには物の怪(もののけ)(たぐい)まで出てくる。今のまえでは、絶対に生還(せいかん)不可能だ。場所によっては、一流の忍びとて、命を落としてしまう」


「ええぇぇぇえ!! 幽霊どころか、死んじゃうのおぉぉぉぉ!?」

各教科の先生たちは、イチカが特訓を開始してからの活躍となります。

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