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藤森イチカの忍術試験!  作者: 桜花 山水
1章 忍びの里の忍ヶ丘
11/83

エンカウント

 東雲(しののめ)保健医いわく、忍術学園の授業日程は、生体周期バイオリズムを意識して構成されている。

 たとえばイチカのクラスの場合、休み明けで身体が(だる)いので、まずは頭を動かす座学から授業が始まり、二限目には、忍具知識や薬品の調合授業を行う。

 月曜日がのう労働ろうどう重視だったため、火曜日には、忍具の設計と使ように重点を置いた工作授業を配置し、二限目の霊場れいじょう訓練などで技を整える。

 ちなみに、1年()(にん)の訓練で利用される地域は主に五つ。

 その内の1つが、忍ヶ丘(しのびがおか)南東に位置する『飛龍製鉄所(ひりゅうせいてつじょ)』である。


「こうして一週間の授業も、ハッキリとした根拠があって組み立てられているの。ペース配分を間違えず、各授業の意味をよく理解して訓練に(のぞ)めば、一ヶ月でも

飛躍的な成長が見込めるわ」


 忍ヶ丘のなにもかもが、自分にとって無意味ではないのだ。

 そうした意味の長い話を聞きながら、イチカは忍者服へと着替え終わる。


「よっ、ほっ……っと! よし、出来ました♪」


「本当? それなら、ちょっと見せてくれるかしら」


 イチカは元気よくカーテンを開けようとするも、奇妙な気配を感じて手が止まった。

 着替えの最中は気にも留めなかったが、片方のベッドは(ふさ)がっていたらしい。

 後方、空きベッドの隣りで、何かが小さく(うごめ)いた気がする。

 ゆっくりと振り向くと、こんもりと山形(やまがた)に盛り上がったシーツの中から、『うっ……』と低い呻き声が漏れた。

 何処(どこ)となくホラー(しゅう)のする展開に、着替え前の重傷話がイチカの脳裡をかすめる。


「ヒッ! だ、誰かいる……」


 イチカがするどい吐息を放つと、カーテンの向こう側に座っている東雲(しののめ)保健医は、先客の存在を思い出す。


「ああ、すっかり忘れてた……。病人の()が居たんでしたっけ」


 イチカは、ゴクリと唾を飲み込む。

 脳内では、内臓が見えたやら(ひたい)が割れただの、凄惨な光景で一杯だ。

 相手が普通の人間なら、身体測定の途中、こちらの物音を聞いて反応を示すはずだ。

 イチカはその不自然さに、嫌な予感を加速させる。

()(じろ)ぎ一つしない病人って、まさか……!!)

 突然、目の前でシーツが『モソッ……』と(めく)れ上がり、イチカへ向けて(えん)()の声をぶつける。


「ちょっと、さっきからブツブツうるさいんだけど……」


 隣りのベッドで寝ていたのは、顔こそ白く生気に乏しいが、(れっき)とした人間であった。

 しかし、不安一杯のイチカの先行認識は、ホラーゲームで()っぱり(だこ)のアイツである。


~た~!! ゾンビ~~~~!』


 (ろく)すっぽ確認もせず、悲鳴と共に、相手の腹部へ『ドスッ!』と重たい拳を打ち込む。


「モふゥ!!」


 不意の一撃をお腹に受けて、ゾンビ呼ばわりされた少女が悶絶する。


「藤森さん。あなた、いったい何を!?」


 転入生のパニックに続いて、臓物を(ひね)り出すかのような呻き声に、東雲(しののめ)保健医があわててカーテンを(めく)った。

 やがて、布一枚ぬのいちまい向こうの世界で恐怖にブルブル震えるイチカと、苦痛からベッドの上でブルブル震える和服の病人を交互に見比べて、イチカが何を仕出(しで)かしたのかを涙ながらに理解する。


「あぁ……。驚いた拍子に、つい、()ってしまったんですね、藤森さん」


「へっ? ()っちゃったって?」


 落ち着いてベッドを観察すると、攻撃対象が、マットレスの上で正座の姿勢に(うずくま)り、『おおおおっ……』と身体を二つ折りにして痙攣している。

 明らかに、モンスターの(たぐい)ではない。

 背は低く、くのいちには不向きの華奢(きゃしゃ)な肉付き。

 普段は後ろへまっすぐ流す黒髪が、今は苦悶の振動で()()()()に乱れて、小刻みに震えている。

 これまでに見た同世代の中で、ダントツに(かざ)()が少ない。

 水色の着物に、枕頭(ちんとう)に添えた二振りの小太刀。

 ピアスやネックレス等の装飾品は一切ナシだ。

 唯一の武器にして魅力は、己を飾らぬ()()しの容姿そのものだろう。

 芯の強さと、清純さを感じさせる切れ長のひとみに薄い唇。

 細くい眉毛。

 それに加えて、(トゲ)のない素朴な風貌は、花に(たと)えて言うならば、朝日に咲き、

夕暮れに身を隠す睡蓮(すいれん)に似ている。

 しかし、今は昼時ひるどき

 花弁の代わりに彼女のひとみは、苦しみにカッと見開かれていた。


 こうして間近で見ると、意識のはしで、なにか引っかかる物を感じる。

 しかし、相手の顔半分かおはんぶんが長い髪に隠れているので、イチカはもどかしい表情のままで固まった。


「あれ? よく憶えてないけど、この格好、どっかで見たような気がする……」


 普通ならば、思い出すより謝罪しゃざいが先だろう。

 東雲(しののめ)保健医も、イチカに悪気がないのを知っているので、被害者の容態が落ち着くまであいだを相手の紹介で繋ぐ。


「彼女はあなたと同じクラスの、(みず)()()(さら)さんよ。気管支が弱くて喘息(ぜんそく)持ちだから、季節の変わり目には、よく保健室へ休みに来るの」


 (てのひら)を上にして紹介するが、当の希更は、復帰途中で二つ折りの体勢である。

 東雲(しののめ)保健医は、遅まきながらも酷く倒錯的(シュール)な光景だと気付いて、途中から笑顔が引きつった。


「水野…………()(さら)?」


 (おう)()返しに呟いて、イチカは裏門での襲撃事件を思い出す。


「あ~っ!! そういえば校内に入ってすぐ、罠に掛かって宙吊ちゅうづりにされた時、確かに一瞬、ほかの人に混じってこんな()が居ました!」


「宙吊りって……。藤森さん、貴方(あなた)いったい、転入早々、どんな目に()ってるんですか!?」


 イチカが裏門での出来事を簡単に話し終えると、今度は被害者に転じた()(さら)が、ダメージから復帰した。

 元からくらめの()()()声を、怨みに一層いっそうトーンを落として反撃する。


「クッ……。もしや、あの時の()(れい)(まい)りだというの。やるわね、45キロ」


 希更の耳にも、記録結果がハッキリと聞こえていたらしい。

 イチカは羞恥心に赤面して、両手をバタバタと暴れさせる。


「や~め~て下さい、私の体重を一般公開するのは! だいいち、他人(ひと)のプロフィールを盗み聞きしてたなんて卑劣です!」


 れつの一言にピクリと反応して、希更がたきりの姿勢で、手空拳しゅくうけんの構えをとる。


「ベッドわきでペラペラ喋ってたのは、あなたの方でしょう! いまの台詞、私への挑戦と受け取りました!」


「ぬぬぬぬぬっ!」 (イチカ)

「むぅぅぅぅっ!」 (希更)


 ガッチリこぶしを構えるイチカと、ひらを横にして迎えうつ希更。

 いがみ合う二人のあいだに東雲(しののめ)保健医が割って入り、手にした雑誌をクルッと丸めて、二人の(ひたい)を『ていっ!』と叩く。


「や~めなさい、病人相手に……。水野さんも、保健室とはいえ、暴れれば布団やカーテンから(ほこり)が舞うんですよ。また()()んでも良いんですか?」


「「ハイ、面目ない(です)……」」


 異口同音に反省の弁を垂れ、そして同時にそれに気付き、野犬のように(うな)り合う二人。

 もはや遊び半分にすら見える意地の張り合いに、東雲(しののめ)保健医はすっかり毒気に当てられる。


「ホラホラ、水野さん……。あなた、今月発売の雑誌(コレ)を楽しみに待ってたんじゃないんですか?」


 東雲(しののめ)保健医は手にした雑誌を、希更の膝上ひざうえにポンと軽く放り投げる。

 その名も、『月刊・雪風(せっぷう)()(でん)』。

 偶然にも、イチカお気に入りの一冊である。

イチカ作品は元々、各巻の展開と主要キャラクターのエピソードがリンクするように作られています。

今回のメインヒロインは、ズバリ、希更!

そして途中から、イチカを主とした物語に、他のキャラクターにもスポットが当てられて行きます。

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