灰色の俺と蒼い闘争
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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あの狼を助けるだって?
体長二メートルの体躯を真っ青な炎に包まれているあの獣を?
どう考えても助ける方は人間じゃないのか?
「なんでオオカミを助けるんだ、人を食い殺そうとしてる」
がちがちと牙を鳴らし、涎の代わり青い焔を口から滴らせている。目は爛々と輝き、今にも黄金甲冑の青年へ噛みつきそうだ。
「俺には分かる。さっきのドラゴンよりも危険だ」
パワードスーツ<アトラス>を通してみるオオカミは、部分的に赤い円マークがマーキングされている。
『アンノウン、便宜上インフェルノと呼称しましょう。インフェルノの武装は四肢にある鋭い爪、体内及び、体外に放出されている焔のように見えるモノ————そちらは熱量は感じられませんが、触れるのは推奨しません。彼らのいう魔術的なエネルギーの集合体で未知数です』
アトラは俺の意志を感じ取ったのか、インフェルノの武装情報を教えてくれた。現実世界に無いものはまだ推測の域を出ないのだろう。
俺は極彩色の罪人と呼ばれた魔女に向き直り、同じ目線に腰をかがめる。彼女の顔は酷く悲しそうだが、ぐっと涙をこらえているのが分かる。
「周りには他の兵士たちも一杯いるんだ。君に何があったのか俺には分からない。でも現実問題オオカミは彼らに危害を加え、更に罪のない彼らを襲おうとしている。見殺しにはできない」
「あの子を、殺すの?」
「……じゃなきゃ誰か死ぬ」
死ぬの言葉にシエロといった少女は、うっと息を詰まらせる。だが小さく何とか声を絞り出す。
「シエロをこのまま連れて行ってもいい。魔術装置にだってなる。だから、だからあの子は静かに眠らせてあげて」
「だが————」
このまま君が連れていかれるのはこの世界の法律<ルール>。法律によって罪人として連れていかれるのだから、俺は何も言えない。かわいそうだが。
俺に他人の異世界のルールを捻じ曲げる権利はない。それよりも人命が大切なはずだ。何処の世界でも、どんな世界でも。
苦悩して気が抜けたとき、極彩色の魔女はするりと俺の脇を抜けて、インフェルノ達を囲む焔へと駆け出す。
「まて!」
だが俺の声は届いているのかいないのか、極彩色の魔女は止まる気配はない。焔のサークルまでそれほど離れていない。サークルの中をじっと見つめると、アトラスの網膜強化制御が働き、意志の通りに視界が拡大する。
俺と魔女がうだうだ話している間に、インフェルノと黄金甲冑は互いに武器をぶつけあっている。大きさの違う黄金甲冑は、重量にも関わらず身軽な動きでインフェルノの爪を避け、吐く息を抜き去った剣でなぎ払う。なぎ払った焔は火の粉となり近くの馬車や、素材として詰めたドラゴンの遺体をことごとく焼いた。
「くそ、前に出たからなんだってんだ!」
身を低くして地面を強く蹴る。陸上選手がアトラスを着用したら、俺なんかよりもよっぽど早く目的地に辿り着けるだろう。
魔女は青い焔の干渉を受けないのか、何事もなく焔の中に姿を消す。だが俺はこのままだと焔に突っ込んでしまう。未知とは怖いものだ。大丈夫だろうと分かっていても不安がよぎる。
「消火器なんて持ってないよな」
『承知しました。消火剤を適所に撃ちます』
俺が指示を出す間もなく、何処からともなく——たぶん背中あたりから——糸を引くような煙を出した弾丸が飛んでいくのが見え、青い焔のところで次々と消火剤を撒く。
『気休めかもしれませんが、どうやら外部に関しては熱を持っていたようですね。青い焔の計測データが一つ手に入りました』
「有能だよ、ほんとに」
女の子を止める事すらできなかった俺に、こんな力を使う価値なんてあるのか?
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro