隻眼の俺と辿るべき道を持つ人工知能
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あらすじ
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「ちょっと出てくる」
時刻は夜二〇時過ぎくらい。シエロとクロエとご飯を食べてすぐだった。
「どこ行くの? そうじろう」
少し心配そうな顔でシエロは俺を見た。
「夜の散歩さ」
本当のことを言うと危険に巻き込まれる可能性もあるので、それっぽいことを言ったがどうやら逆効果だった。
「シエロも行く!」
「その辺を少し見てくるだけさ、クロエやレウィンリィとのんびりしててくれ」
「ええー、シエロも一緒に——」
むむ、今日はなかなかしぶといな。
俺はクロエに目をバチバチと瞬きし、アイコンタクトを送る。『SU・KO・SI・TA・NO・MU』ぞっと。
するとクロエは両腕を上げて、『MA・KA・SE・TE・O・MI・YA・GE・YO・RO』と動きでくねくね表現する。凄い器用だなクロエ。
「シエロもそうじろうと散歩したいー!」
「待ってシエロ」
旅行で珍しく子供っぽいことを言うシエロへ、クロエは静かな声で呼び止める。
「旅行中の大人の男には、一人で散歩に行かないといけない決まりがあるの」
「え、そうなの?」
「ええ、そうなの。そんなときはどんな人間も男を呼び止めてはダメ。深く聞かずに目を見て頷くだけでいいの、それが大人の関係」
「大人の——関係——」
シエロの頬が赤く染まり、両手で頬を抑える。そして何を理解したのか、俺をじっと見つめ、
「がんばって、くるんだよ、そうじろう」
上京時の別れ際の母親みたいなテンションで見送ってくれた。
クロエが誤解を与えそうな言い方で俺を逃してくれたおかげで、早速、謎の生命体アンノウン探しに出れる。
宿を出て二つの月夜の下に出る。月明りが街を照らすが、流石温泉街、夜でも町中にカンテラがぶら下がっていて歩きやすい。
「黄金甲冑アウルムには悪いが、この勝負は俺が有利だがな」
坂道の多い街を歩きながら、俺は耳元に手を添える。
「アトラ、状況はどうだ」
『人工衛星から町中を確認していますが、怪しい動きは特にありません。夜ということと、異世界の残り物で作ったため、地上を認識する精度も低いですが』
「そうか、なら合流しよう」
『承知しました、マスター』
数分後に俺は土産屋の間にある路地に身を滑り込ませると、屋根から俺の目の前に落下してきた黒い物体がいた。そいつは地面に膝を付いたポーズで俺に頭を下げている。
「全身をちゃんと見たの初めてかもな」
アトラスは立ち上がり、頭部分は上に開き、胸部から足に掛けては左右に綺麗に開いた。
俺は背中を向けてアトラスに触れると、自動でアトラスは俺を覆う。
視界は真っ暗だが、ウィーンという小さな起動音が広がり、眼前が明るくなる。
『暗視起動中』
「モニター類は全てオフ。情報多すぎるのも困る。あ、この世ならざる者の気配を感じたら、それをロックできるか?」
膝に力を込めてジャンプすると、重力が全身にかかり、街を見渡せるほどの高度まで一気にジャンプする。
『可能です。ですがかなりの数がおりますが——』
「お化けセンサーはオフだ」
そんなにいるとか聞きたくない事実だった。
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