隻眼の俺と追憶の湯煙
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あらすじ
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「そういやアトラは今どこにいるんだ?」
ミセリアの聖剣を取り込んだおかげで、もうエネルギー補給のために環境破壊や生体系に深刻なレベルがでるほど、動力を確保する必要はなくなったはずだ。
『ステルスモードで危険がないよう街の状況を監視しています。なお飛行できるほど万全ではありませんので、今さっき隣のお風呂で体を洗い終わって、湯の中で話し込んでいるシエロとクロエの姿をマスターの網膜に投影させることは不可能です』
「させる気もないし、やらせねえ。そのまま街の警備を頼む」
パワードスーツアトラスの一部が網膜にくっついていて、文字を解読してくれていたが、そんなこともできるのか。風呂に限らず邪念を呼び起こしそうなシステムだな。
『承知しました』
やれやれ、しかし異世界に来てゆっくりするのなんて久しぶりだ。いや、異世界の前から体を休めたのは久しぶりだった。
目を閉じると、ミセリアやマリアベルと出会ったことが思い出され、シエロとの初めての出会いを思い出し、シエロとはずっと一緒にいたような気さえする。
駆け抜けるような異世界生活だった。
現代では時間は進んでいるんだろうか。俺は無断欠勤で会社をクビになっただろうな。でも変わりはいくらでもいるって言ってたし、そんなに問題でもないだろう。
もし現代に戻ったときは職がなくて大変だろうが、今日まで戦い抜いてきたせいか、仕事がないことが昔ほど恐怖に感じなくなっていた。何とかなる気がするのだ。
実家の親父とお袋は連絡取れなくて心配してるだろうなあ。妹は知らん、あいつは心配とかそういう性格じゃない。
俺はこれからどう歩んでいくか、まずはシエロの姉を助ける手伝いをしていくのが良いだろうな。同時に魔術を殲滅していくのが——アトラスだって万全になったし、きっといけるさ。
「——ん」
空想から意識が呼び戻される。
「クロエの肌、凄い綺麗ですべすべなの」
「わたしの時はずっと止まっていたから……これから動き出すとまた変わると思う」
「髪の毛も黒くてすっごく綺麗で羨ましいの、シエロは全部白くなっちゃったから……」
「わたしはシエロの白髪、好き。雪みたいで綺麗」
「ほんと?」
「ほんとう。それに肌も健康的な白、シエロは全部かわいい」
「クロエもかわいいんだよ」
同世代で仲睦まじい話声が聞こえてきた。クロエの精神年齢は百は超えているが、時間は止まっていたし似たようなものだろう。
シエロにも友達が出来て良かった。さてそろそろ風呂を上がるか。
「おや、奇遇ですね、まさかこんなところで相まみえるとは」
落ち着いた青年の声。どこのどいつか忘れていたが、聞いたことがあるのは間違いない。
湯煙から徐々に浮かび上がる身体は、細身の鍛えられた身体。
金髪と青い瞳で絵にかいたような美青年。
「お前は——黄金甲冑」
「奇遇ですね、黒甲冑とお呼びした方が宜しいですか?」
ブックマークや評価によるご声援、本当にありがとうございます。
心にグッときます。感謝してもしきれないほど、毎日喜んでいます。
それではまたお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。




