隻眼の俺と追憶の湯煙
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あらすじ
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「クロエ、どうしたんだ。荷物なんか持って」
クロエは自分の荷物袋を抱えて、何故か俺たちの部屋にシエロと戻ってきた。
「……わたしも、ここで、ねる」
「——ん?」
「わたしもここでねる」
「クロエの部屋は確かレウィンリィとじゃなかったか?」
「レウィンリィは酒癖が悪い」
クロエにしては珍しく、目を斜めに伏せて悲しそうに語る。レウィンリィに相当ひどい目にあわされた過去でも思い出しているのだろう。
「んー、俺は良いが」
「シエロもクロエもいた方が良いと思うの!」
うんうんとシエロが大きく首を上下に振ったので、この件に関してはもう決定で間違いない。
「じゃメイドさんに寝床を増やしてもらえるか聞いてみるか」
敷布団みたいなもので俺は寝てもいいしな。
ほら、今ちょうどそこを通った。
「おーい、そこのメイドさん、ちょっといいかな」
手を振るとメイドさんの姿がすうっと消えた。
「あれ?」
シエロとクロエが振り返るとそこには誰もいない。
「どうしたのそうじろう?」
「あ、いや、今メイドさんが——ああ、また通った、すいません、他にも布団欲しいんですけど」
手を振ると今度はしっかりとこちらを認識して、メイドさんは対応してくれた。
メイドさんも忙しいんだなあと思いつつ、俺とシエロ、クロエは大浴場へと向かい、入り口で分かれたのだった。
★ ★ ★
街並みはアジア風、室内やパジャマは洋風、では温泉はどうなるんだろうと思ったら、日本風の風呂だった。
基本は竹で壁などが作られており、地面はごつごつとした岩のままであり、温泉は露天風呂である。
この異世界の技術力がどの程度かは分からないが、やけに女風呂が近い気がして落ち着かない。
夕食時のせいか風呂に入っている客はおらず、俺一人だった。日本のマナーとして先に体を洗ってから、とりあえず風呂に浸かる。
眼帯の包帯はまだとっていない。他の客が来た時に俺の顔を見たら明らかにビビるからだ。だって右目が空洞だからな。
「ふう……」
風呂はいつの時代、どの世界でも悪くない。
湯気に包まれつつ見上げる夜空は最高だった。
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