灰色の俺と無色透明な未来地図
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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俺は腕を組んで考える。
どこかの国に従属して魔術発展に力を貸す。悪くなさそうだ。俺にはこのパワードスーツもあるし、グロウスと戦うのは訳ないだろう。黄金甲冑のいでたちを見ると、羽振りもよさそうだし生活に困る事もなさそうだ。まだこの世界のことは知らない、丁度いい、そのまま頂点を目指してみれば俺は現実世界で感じていた『持たざる者』ではなく、異世界の『力を持つ者』になれるかもしれない。
組んでいた腕を解き、黄金甲冑の顔を見る。真面目そうな顔を見つめた後、俺は右手を伸ばして彼の手に触れ——、
ちょっと待て。
それって結局、俺がいた現実世界と変わらなくないか?
毎日グロウスを倒して、魔術の素材を献上して、家に帰って、また素材を集めて———富や名声はあるかもしれないが、俺が求めていたのはそんな「最強の人生」って意味なのか?
その「最強の人生」は、なんていう『なに者』なんだ?
『高熱源反応、マスター、三十秒後に馬車は灰となります』
「なに!?」
突然の大声に黄金甲冑はビクッと体をすくませる。
「いかがしました?」
「話は後だ。今すぐ飛び降りろ!」
俺は強く馬車の扉を蹴破り、開け放たれたドアから外を見る。向かいの馬車には、鉄格子の中に極彩色の魔女の姿が見えた。相変わらず悲しそうに目を伏せている。
よく見ると口が動いているように見えた。
や め て ?
『あと五秒、熱源は頭上です』
斜め上方には真っ青な炎に包まれた三メートルはあるであろう狼が、俺たちが乗っていた馬車に向かって物理法則を無視した高速で落下してくる。
俺は咄嗟に隣の馬車に飛び移り、反射的にコンバットナイフを手に構えた。
『力加減は気を付けてください。向こう数十メートルまで分子切断をおこせます』
「じゃ天井だけにしておくよ!」
力加減を調整しつつ馬車の天井部分を斜めに切り落とし、護衛を務めていた甲冑二人を馬車の外に蹴落とす。着地は自分でしてくれ。
女の子を蹴る事はさすがにできないので、考える間もなく腰を抱いて小脇に抱えて離脱する。
跳躍中に振り替えると、青い炎に包まれたオオカミは、黄金甲冑と早くも対峙していた。狼が大声で吠えると黄金甲冑と狼の周りに青い炎が円のように走り出す。
あの炎では護衛の騎士たちも近寄れないだろう。
俺が行くべきか、さすがに一人であの威圧感を持つオオカミとやり合えるはずがない。よく見れば口からはヨダレの代わりに焔を呼吸するように吐き出し、剝き出しの牙はちょっとした城塞なら一噛みで削り取れそうだ。
「ここにいてくれ、近くは危険だ」
極彩色の魔女を地面において俺は走り出そうとする————が、すぐに腕を掴まれ、つんのめる。
「な、なんだ」
彼女はふるふると首を振る。首を振るたびに真っ白な魔女の帽子がずり落ちそうになってなんか可愛い。
「たすけて」
「分かってる、今すぐ君を助ける。だからここにいてくれ」
再度前を向くが、彼女は腕を離そうとしない。
か細い腕だが、その腕に込められた力はむげに払うことはできないほどだ。
「あのこを」
「あのこ、ああ黄金甲冑の人か、任せろすぐに————」
ふるふると首を振る。
「シエロが言ってるのは違うの。あのこ」
びっと指す方向には、今まさに聖剣によって切りかかられる青い狼の姿があった。
「おねがい、あのこをたすけて、しんじゃう」
パワードスーツ<アトラス>は、どんな攻撃にも耐えうる装甲だ。高度何千メートルから落ちても無傷なんだから。でもこの子の意志のこもった手は、痛い。
まるで胸を鷲掴みされているような意志が込められている。
オオカミを助けることはつまり、黄金甲冑の邪魔をすることになるのだろう。
それはつまり————俺は、誰の『なに者』になる道を選ぶんだ?
終幕 灰色の俺と無色透明な未来地図
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro