隻眼の俺と魔術を狩る者
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あらすじ
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「そう身構えるな、小僧。弱者のようだ」
「何の用だ」
「紳士は立ち話には向かんもんでな」
くいっと顎で方向を示す。
俺はシエロを顔を見合わせて、着いていくことを決意した。
魔術革命中のアルデバランは相変わらず、魔術研究者の往来が多い。どこを見ても学者やローブを着た人物ばかりだ。
町中には怪しげな工房も数多く増えているようで、宝石屋や爬虫類を扱ったそれっぽい店が増えていた。
大通りの中でもガドウの巨大な姿は見失えるわけもなく、ずんずんと先に進んでいく。大通りをそれて幾つかの小道を入り、細い路地のとある民家に到着した。
ガドウは勢いよく扉を開ける。扉の先は地下に通じる長い階段しかなかった。
シエロは俺の袖にギュッと掴まりながら、慎重に階段を下る。
灯るカンテラを頼りに数分歩いたとき、少し開けた場所に鉄の扉があった。
「ガドウだ」
一言告げると扉はゆっくりと左右に開く。
「わああ、なんか暗くてじめじめしてるの!」
「シエロなんで喜んでるんだ」
目をキラキラさせながら、お嬢様の恰好をしたシエロは胸の前で手を握る。
「シエロの館もじめじめしてたから、懐かしいなって!」
「そうか……」
魔女ってやっぱ、じめじめしたところ好きなのかなぁ。
中に入ると室内は基本煉瓦で作られた横長の広い部屋だった。木で作られた家具や机が並び、一見研究施設のようにも見える。
「ガドウ、帰ったのね……」
「おう、クロエ」
ガドウを出迎えてくれたのは、先日までグロウスに飲み込まれていた少女、クロエだった。もともと黒い衣装が好きなのか、今日は黒いワンピースを着ている。
「クロエ!」
シエロも数日ぶりのクロエとの再会を喜び彼女に駆けていった。
「シエロ、とても可愛い。似合ってる」
「ありがとなの!」
二人は楽しそうに笑い合いその場で話し込みそうだったので、俺はガドウと向かい合って椅子に座った。
「ここは?」
「まあそう焦るな。ほら、飲むだろ」
断る隙もなくガドウは俺の前に、蒸留酒を注いだコップを置いた。ガドウも同じように自分で次いで飲んでいるので、俺も酒を口に含む。
営業の接待で嫌というほど飲まされて酒は嫌いだったが、異世界の酒は喉越しも良くすっきりとした味わいだった。
「でだ、まずは——小僧、黒甲冑ではないな?」
空になった自分のグラスに酒を注ぎながらガドウは言う。
「隠す気もない」
周りが勝手に勘違いをしただけだ。
「だろうな」
ガドウは俺の空いたグラスに酒を継ぎ足す。
「黒甲冑を一度見たことあるが、奴の剣捌きは覇気が感じられる鋭さがあった。貴様のように獣じみた動きではない。それに奴は魔術を自由自在に扱う。だが小僧は妙な技は使うが、魔術を行使している素振りはない」
「だな」
「——では小僧、何者だ?」
鬼のように鋭いガドウの瞳がじっと俺を見つめる。黒甲冑でもないお前は何故聖剣と互角に渡り合えるのだと。
「……通りすがりの行商人さ」
「ぬははは、そんな行商人がいてたまるか」
何が面白いのか膝を叩いてガドウは熊のように笑う。
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