無職だった俺とシュレディンガーにさよならを
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あらすじ
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あれから俺は丸二日ほど眠っていたらしい。
ミセリアとシエロが行商人ギルドの馬車を率いて、行商人ギルドへ出向き、代行者として行商人ライセンスを手に入れてくれた。
これで俺も無職から、晴れて行商人というわけだ。
墓守の少女——クロエに関してはガドウが引き取っていったのには驚いた。
ガドウは無事だった剣士達と共に、その場を後にしたらしい。ミセリアは折れたガドウの聖剣を受け取ったらしい。それを打ち直して一本の剣にするそうだ。
ミセリアの聖剣は俺が取り込んでしまったから、これは良い方の話だろう。
クロエはあの場所で何百年もグロウスに守られ、諦めて生きていたそうだ。死んだ父親のレイスは占いを生業としていたらしく、そのせいで飼い猫がグロウス化してしまったらしい。
村は山火事で大昔に滅んでいたそうだが、少女を助けようとした村人の意思が黒猫グロウスに集まり、永久的な村を作り出していたという。
アトラは口をはさむ余裕がなかったが、今回のグロウスは便宜上、《シュレディンガー》と命名された。
「行くのか、ミセリア」
「はい、今回は色々とありがとうございました」
アルデバランの街の城門で、俺とシエロは旅立つミセリアを見送りに来ていた。
「聖剣見習いとして剣が答えてくれたこと、総司郎達のおかげです」
「いや、ミセリア自身の力さ」
特に何をしたわけでもないので、素直に俺はミセリアに返す。
「私は一度、聖剣打ちに顔を出しに行き、これを新たな剣にしていただきます」
ミセリアにの背中には大きな革の袋が背負われている。その中にはガドウの折れた斬馬刀が入っているはずだ。
「そして剣が覚醒したことをカラドボルグに報告し、聖剣試験を正式に受けることになります」
「おう、頑張れよ」
「ええ、十四番目の席は私が、必ず」
にこやかに笑い、そろそろと言って、前髪を整える。
「あ、そうだ。総司郎、少し離れててもらえますか」
「ん?」
俺は自分を指差す。
「です」
「分かった」
僅かばかり、ミセリアから離れると、ミセリアはシエロを手招きした。そして俺に聞こえないようにシエロへと何かを耳打ちする。
シエロも真面目な顔で、ふんふん、とか、なるほどなの、とか、わ、わかったの、とか、がんばるの、拳を強く握って、最後は二人で強く抱擁し合った。
「それじゃ、総司郎ー! またいつか!」
「おう、元気でやれよ!」
「またなの、みせりあー!」
別れは実に手短なもので、終わってみると、もう少し話していても良いかと思える気持ちだ。
街道を歩いていくミセリアを見送って、俺は大きく伸びをした。
「いって」
「だ、だいじょうぶ?」
「ああ、腰がちょっとな。おじさんは腰を痛めやすいのさ」
「加齢は、かわいそうなの」
「どこで覚えたんだよそんな言葉」
全く、まだ三十五だぞ。
——半端だな。シエロから見れば十分におっちゃんか。
「目は大丈夫?」
宿屋への帰り道、シエロは心配そうな目で俺を見る。
「大丈夫だ。元が二つだからこまりゃしない」
シエロが巻いてくれた包帯により、右目はがっちりとガードされているが、ガーゼとかではないので、相当な戦場を潜り抜けてきた兵士みたいな見た目になっている。
どこかでもっと目立たないガーゼとか見つけないとな。
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