灰色の俺と第三聖剣との終幕
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あらすじ
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「はっ!」
周囲が暗く、周りの音がぼんやりしている。アトラスが砕けた右目部分から状況を把握する。
「どのくらい気を失ってた」
『四二秒です』
辺りを見回すと、墓守の少女はシエロを背中にしながら、命令を送りつつ空中の武器群を操っている。ミセリアも傷だらけになりながら剣を振るっているが、今まさに剣は弾き飛ばされ、俺の目の前に落ちてきた。
「く——無事でしたか、総司郎」
喜んだのも束の間、ガドウはミセリアを片手で持ち上げる。
ガドウの右腕の鎧は全てなくなっており筋骨隆々の腕がむき出しになっていた。
「かかか、効いたぞ黒甲冑。さっきの槍は。だが俺は生きている、魔術なんぞに武は負けやしない」
「一撃を外した、のか——」
左目からのぞくアトラスのディスプレイを凝視する。実弾武装は全て撃ち切っている。
一撃のみだったので、武器をこの手に呼び出すことも不可能。
そして、
『マスター、すみません。これ以上はアトラスは——か、かどう、ゲンカイ——』
アトラの声も途切れ途切れだ。
パスカルを燃やし尽くして動かせばいいのか? だが、こいつもこいつでグロウスの一人。俺が燃やし尽くしてしまうと新たなグロウスとして生まれ変わる。
こいつはいつかシエロに鎮魂してもらう対象だ。
「うごけ、うごけ」
立ち上がる事が精一杯だ。ガドウを睨みつける。
「さあ、目が覚めたのなら続きをしよう。武の頂点を極めようではないか」
斬馬刀は折れたのか、地面へと転がっている。
ガドウはミセリアを地面に投げ捨て、墓守の少女の攻撃は元から敵ではないように、見もせずに左腕だけで叩き落す。今はもうシエロにすら興味はないようだ。
あるのは黒甲冑との武への執着のみ。
「なぜそこまで武にこだわる」
何か手はあるはずだ。動きを失っていくアトラスの中でも俺は思考を止めてはいけない。
「武は俺が生きてきた証、生きた道筋だ。グロウス狩りを生業としている黒甲冑ならば分かるであろう。武を極め他の者の頂点に立つという意味が」
「生憎、俺は武を極めようとはしていないんでね」
そうかとガドウはにやりと笑う。
「確かに貴様は武ではなく魔術を極めようとしている。貴様ほどの武を持つ者すらも魔術へとうつつを抜かしおる。実に不愉快、実につまらん世界な事よ」
武に対してどこまでも実直に人生を積み重ねてきたのだろう。生身である顔や腕からそれはすぐに見て取れた。武を極め聖剣となり、更に危険な作戦の中で己の力を高めていく。
ガドウが見ている世界は常に自身の武になるかどうか。
——そうか、こいつは。
「ガドウ、お前、シエロを使って、魔術をこの世から消そうと」
「ああ、極彩色の白魔女は、他の極彩色の魔女とは違うと聞く。魔術の元となるグロウスを殲滅するならば、俺の考える世界にふさわしい」
「なら、俺たちと目的は同じはずだ」
「否、目的地が同じであろうと道が交わる事はない」
何故なら、とガドウは拳をに強く握る。
「黒甲冑、貴様の武は俺を高めてくれる。故に道が交わる事はない!」
来る。アトラスが剥がれている右目へ向けての渾身のストレート。
目を瞑る。きっと生まれて初めて感じる痛みだから。
——————痛いどころじゃない。骨にヒビが入り目玉が潰れたかもしれない。顔半分が破裂していないのが救いだ。
結構な重量のあるアトラスごと、吹っ飛ばされ仰向けで地面に落下した。
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