灰色の俺と無色透明な未来地図
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「問題があります。一つは呪文が長すぎて実用化には向かない。僕は剣に命を捧げた身、魔術のことはさっぱりですが、小さな火をおこすために使用する命令文は一時間以上と聞きます。だったら火打石を使った方が早い。ですがこれは些末な問題でしょう。魔術は見つかったばかりですから専門家たちがより使いやすく研究するでしょうし、道具に魔術を刻み込むのも可能なようですしね。つまり一つ目の問題というのは、実用化に向けた研究時間が長くかかる」
さらに、と黄金甲冑は車内のカンテラを見つめて続ける。
「研究時間が長くなるということは、魔術に必要な媒体も数多く必要になります。魔術の燃料となり、更に扱いやすくするのが魔術に適した身体で構成されたグロウス達です」
「そうか、第二の問題は素材の確保。確保の為にグロウスと戦い、人命が失われていく現状なんだな」
「仰る通り。人間たちは凶悪な獣を狩る術は身につけていても、今まで放置してきたグロウスを狩る手段など身につけていない。殆どのグロウス自身も人間に手を出すことなく共存してきた。国家間の争い、それに伴う研究、研究に必要な素材集めで落とす命。まあ、ここを悲しんでいるのは僕と一部の者だけかもしれないですがね」
自嘲気味に黄金甲冑は笑う。
その笑い顔は満員電車の窓に映った俺の表情に似ている気がした。生きるために働き、組織の為に命を削る。勢いで仕事を辞めてしまえば、明日からの生活はない。
「……悲しいなら、辞めればいい」
しかしつい本音が出てしまった。俺が俺に言うための言葉なのに。何故、この男に呟いてしまったのか。喋ってから俺は苦虫を噛む。
黄金甲冑は驚くこともなく、軽く前髪を掻き上げた。
「あなたのように出来たらどんなにいいか。これでも私には守らなくてはいけない生活がりますから。それに魔術開発なんて国に貢献する歴史的な仕事だ。自分に言い聞かせる事には慣れていますよ」
「そうか、なんか、すまなかった」
余計な口出しをしてしまったかと反省する。この黄金甲冑はまだ若いが、それでも戦場で隊を率いてきた人間なのだろう。何も考えずに言われるがままに生きてきた俺の言葉が響くはずもない。余計な心配は逆に迷惑だ。
「いえ、それでも、辞めればいいなんて初めていわれましたよ」
爽やかに笑う黄金甲冑の青年の顔は、少し晴れやかに見える。
「さて、そこで極彩色の魔女です。彼女たちは古くから魔術を研究してきた数十名からなる組織といわれています。彼女たちの罪は、彼女たちが保有する魔術に関する知識を全て焼いてしまったことだ。これはこれから発展していく魔術時代において、最大の禁忌として、各国の王は極彩色の魔女達を捕まえようとしている、というわけです」
そんなことで、と思ったがインターネットもスマートフォンもない世界だ。知識の伝達は本が全てだ。人類の文化的な進化を大きく阻害する出来事といえるだろう。
「じゃあ、彼女たちを捕まえて知識を聞き出そうってことなのか?」
「いえ、これについては——黒甲冑様、先に僕の考えを話しておきましょう。これから先の話は、部外者には伝えにくい話です。率直に言えば、我が国に聖剣を扱える十三聖剣は僕しかいない。他国には十二の聖剣使いが数名づついます。どうでしょう、これも何かの縁。僕とグロウス狩りを行う新たなナンバー「十四」の聖剣として、手を貸してはくれないでしょうか」
彼は右手を差し出して、俺の兜を見やる。大きくて青い純粋な瞳だ。ずっと見ていると同性だとしても吸い込まれそうになる。
この話を受ければ極彩色の魔女に関する話が聞けるってことか。いや、仲間にでもならなければ話せないほどの話か。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro