無色の俺と幸運切りの均衡者
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満身創痍の姿でガドウの前に立ちふさがる。
「シエロを返してください」
「断る」
ガドウの一振りが再度、ミセリアへと襲い掛かるが、彼女は剣でその攻撃を薙いだ。だが衝撃は逃がしきれず、ミセリアの皮膚が裂けて血が流れる。
「その子は、私利私欲のために使われるべきではありません」
「ふん」
次の一撃も薙ぐ。衝撃で膝をつきそうになるが、ガドウの前に立つ。
「聖剣とは均衡者、人類の守護者——もし犠牲の上に成り立つのが真実だとしても、頭から犠牲が必要だと行動するのは許しがたい——!」
「若いっ!」
乱暴なまでの左から右への一線、ミセリアの左腕から妙な鈍いとが響く。
「う、がああ」
「全てを助けたいなど戯言に過ぎず。現実には平等という文字も存在しない。貴様も聖剣見習いならば、武をもって俺を止めよ!」
「いえ、私は——」
折れた左腕はだらんと垂れ下がり、右腕だけで剣を構えるが、ミセリアは決して引こうとしない。引いてしまえば、彼女が信じ続けてきた聖剣という存在は消え、力によって正義が決まる存在になってしまうからだ。
「——私はその考えには賛同できない!」
構えた剣からゆらゆらとした蒼の刀気が立ち上る。
「守るための力、聖剣同士で撃ち合うものではない!」
蒼の刀気はミセリアの言葉に呼応するかのように、徐々に色合いを強め、彼女の正面に蒼の透明なガラスを出現させる。
「私は、私が選んだ剣の道で止める!」
「聖剣もどきになったか——」
ガドウが剣を振るうと、ミセリアが生んだガラスはあっけなく砕けガドウへと降り注いだ。しかしガラス片さえも傷の一つになりはしない。
「所詮口だけか、守る意思もこの通りだ。聖剣への道は遠いな」
ガドウが剣をミセリア目がけて振り下ろし、彼女を脇へと吹き飛ばす。俺は滑り込むように彼女のクッションとなり、すぐさまガドウへと向かう。
「遅い、これで積みだ」
斬馬刀を振り上げ今度こそ少女めがけて振り下ろそうとしたとき、《それ》は今まさに出現した。
斬馬刀をクロスした両手で受け止める黒い装甲。全身に走る薄緑のライン。
『準備運動としては物足りない。次はもう少し硬くても良いですね』
「よく言うよ」
あの黒い少女に開けてもらったのに。
「こい、アトラアアアアス!」
俺は猛然と走りだす。宙を飛んで来るこまごまとしたパーツは一つ一つ左足と右足に吸い付くように構成され、下半身上半身と、アトラスが完成していく。
俺が立ち止まらぬままガドウへ右腕を叩きつける。すると右腕にバラバラに分かれているパーツが集まり、アトラスの右腕を構築していく。ボルトが締まり、アーマー部分がゆっくりと閉じて蒸気を吹き出す。
右腕は剣ではじかれるが、左腕でガドウの兜の顎を狙う。狙っている最中でもパーツは次々組みあがって拳を形成する。
「ぬっ」
ガドウは一歩引いたつもりだが、珍しく地面に足を取られ、一瞬よろめく。俺はその隙を逃がさずに、シエロへと手を伸ばした。
「——届いた」
弛緩した腕からシエロを抜き取り、小脇に抱える。
体勢を立て直そうとしたガドウの地面はさらにへこみ、バランスを取るためにガドウは踏ん張るほかなかった。
地面に細工したのは少女だろう。その隙に彼女も俺の足元へとたどり着いた。
「な、何が起きている」
ガドウは心底不思議そうに己を見る。
今まで戦場でこんな初歩的なミスをしたことがないんだろう。
「ガドウ様、すみませんがあなたの幸運は断ち切らせてもらいました」
左腕を抑えながら見ミセリアも俺の隣に立つ。
「行くぜガドウ、紳士的にフィナーレを飾ろうじゃないか」
『無色の俺と幸運切りの均衡者』
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