無色の俺と墓守の少女と無意味な選択
初めての方はこちらから
あらすじ
https://ncode.syosetu.com/n6321fs/
「前に作れるか!」
頷いた感覚と共に、俺の目の前に土壁が生まれ、それを足場に三角飛びの要領でガドウへと向き直る。赤い線は止まる事なく俺に狙いを定めている。
「見えたほうが避けやすい——!」
強がりながらも、無数にある赤いレーザー光線から目をそらさずに、感覚的に左右、更には手前、奥と、本来の俺ならばできないような動きで攻撃を避けていく。
「シエロオオオオ!」
ダンスを踊るように全ての攻撃を避けて、シエロの元へと飛び込むが、
「甘い!」
ガドウの斬馬刀が、追い打ちとばかりに俺の頭へと振り下ろされる。
「くっ、」
流石に避けきれないか——彼女だけでも。
脇に抱えていた少女をぎゅっと抱きしめ身体を丸める。
重々しい金属音が叩きつけられ、俺はすぐに顔を上げた。
「ミセリア!」
俺を背にして斬馬刀を受け流したのは、宿屋に置いたままで布に包まれている剣を構えたミセリアだった。あまりに急いできたのだろう、布は今の一撃でほとんどが吹き飛ばされている。
「約束を私は二つも破ってしまいました」
「剣のことは良い。生きて出られなきゃ意味はない!」
「それでもです」
ミセリアはブレザーを羽織り、聖剣見習いとしてガドウに向き合う。
「ガドウ様、何故シエロを捕まえたのですか。聖剣たるもの、守るべきは人のはず」
「ああ、そうだ。今生きている人間を助けるならば、必要な『素材』だと」
「そ、素材——」
「貴様から聞いて、極彩色の魔女だと分かった。いや、今は極彩色の罪人だったか。この命と身体一つで、世界に魔術様は溢れ、多くの人類が救われる。安い犠牲だ」
「だが、死んだグロウス達は罪の焔に焼かれるのですよ!」
「死人に口なしだ」
背中からは見えないが、ミセリアが悔しそうに剣を強く握ったことを感じ取れた。
「均衡者たる言葉が、それですか——!」
ミセリアは感情のままにガドウへと剣を打ち付ける。何度も何度も。ミセリアの一撃一撃は早すぎて見えないが、ガドウはいとも簡単に剣をはじく。
「総司郎、すみませんでした。私が聖剣を信じるばかりにシエロもあなたも危険に晒してしまった。謝っても謝り切れない——!」
一心不乱に剣をふるうミセリアの姿は酷くもの悲しい。
俺にだって経験はある。
取り返しのつかない失敗で、ずっと会社で文句を言われ続け居場所をなくしたこと。すぐに退職したことで家族にも、友達からも、失敗だと責め続けられたこと。
一度の失敗をずっと責め続けられるのが社会。
そこから俺は転がり落ちるように、ブラック会社を転々として、未来に希望も持てなくなった。大人は誰も信用できないものだと知った。
一度失敗したら誰も手を差し伸べることはない、全て自分の事情だから自己責任だと攻められる。事実自己責任だから俺も俺を責める。
ならば、誰が俺を許す? 俺は誰に許される? 俺は生きている限りもう二度と許されないのか?
必要以上に未来を奪われる感覚を知った。
だから——ミセリアには同じ苦しみを与えたくない。
「ミセリア、失敗したら次の行動で挽回すればいい」
俺が当時、言われたかった台詞。
甘ちゃんだと言われようとも、自己責任だと言われようとも、本当に欲しかったのはほんの少しのきっかけの言葉だけで良かったんだ。
「一度謝ったら、次の手を考える。シエロは必ず助けるから。この程度、何とかして見せる」
「——総司郎」
ガドウの強撃を受けきれず、ミセリアは後ろに大きくのけぞり、俺と並んだ。
「——終わったらちゃんと謝らせてほしいです」
「もちろん。それが終わったらシエロの服を見繕って貰わないといけないからな」
第三聖剣を前に俺とミセリアは笑う。
絶望的な時ほど、笑ってやる。笑ってやるさ。
『無色の俺と墓守の少女と無意味な選択』
いつもブックマークや評価によるご声援、本当にありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。




