無色の俺と墓守の少女と無意味な選択
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あらすじ
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「グロウスを背に。聖剣を前に。ふははは、愉快だな小僧。敵対する相手を間違えては紳士とはいえんぞ」
ガドウは俺に向き直り、剣を構えるでもなく悠々と立つ。
「ガドウ、あんたにシエロは関係ないはずだ」
「関係はないが、俺には利用価値がある」
なら、やっぱりやるしかない。聖剣相手にどこまで行けるのか。
「力を貸してくれ、パスカル」
コゥ、と胸の中で鳴き声が聞こえた。
俺は腰を低くして走り出し、シエロ目がけて手を伸ばす。
「実力差も分からぬ歳ではあるまい」
斬馬刀はガドウが持っただけで羽のように軽く動く。
本来ならば俺の体は真っ二つだろう——本来ならば。
「よくやった、パスカル!」
俺の右腕だけだった白い焔は、いつの間にか全身から放たれている。全身にまとった焔を意識すると、自分が獣になったかのような俊敏さをイメージできる。
そのイメージ通りに俺は斬馬刀を避け、更に腰を低くして手を伸ばす。
だがガドウもこの程度のスピードならばすぐに反応できるのか、一歩無駄のない動きで下がるだけで俺の手を払った。
「小僧、何者だ。そんな動きをする人間に出会った試しがない」
「俺も剣から赤い光線を出す剣士なんて出会ったことないがね」
大丈夫だ。俺自身の体は三五歳の中年だが、アトラスの加護による微々たる反射神経アップと、体の動きはパスカルが補正してくれる。
俺は再度ガドウへと肉薄しようとするが、変化は次に起こる。先ほど地面に刺さった槍や、周囲に立っている木々、民家さえも、そのどれもが鋭利な武器となって俺とガドウを狙う。地面からは例のゾンビたちが這い出し、俺とガドウの周囲を囲いだした。
「あの人——総司郎を援護して!」
黒い少女の声に武器たちは一斉にガドウ目がけて弓矢のように一直線に飛び出していく。ゾンビたちの群れに混ざりながら、俺自身もガドウへと肉薄し、獣のような俊敏な動きでシエロへと手を伸ばす。
だが、あと一歩届かない。
さらに二度目、三度目も、グロウスの手を借りながらガドウへと踏み込むが距離が遠い。
「無意味に人は殺したくないもんだ」
ガドウは腰を深く落とし、斬馬刀を構えなおす。
来る。十三聖剣が放つ、人智を離れた一撃が。
「戦で殺す、食べるために殺す、武を極めるために殺す。大いに結構だ。だが、触れる事も出来ぬようなものを殺すのは無意味だ」
血のように赤い気配が剣先に滴り、徐々に鈍赤色の鎧も輝きだす。
咆哮をあげ、斬馬刀を剣高く掲げる、直線に振り下ろす。
併せて赤い光が天で割れ、次々と地面に降り注ぐ。
俺は地面に座り込んでいる少女を抱き上げ、背中から迫りくる光を死の気配のみで感知する。赤い光は簡易追尾するようで、軽く曲がっても俺たちの後を捉える。地面は抉れ武器は次々と破壊され、ゾンビたちは土くれへと還る。
一本の赤い線が俺の左腕をかすめると、ジュッという肉を焼く音が聞こえる。激痛は激痛だが、不思議なことに今は痛みを感じない。
少女が俺に抱きかかえられながらも、手を振るうたびに俺の背中には地面から土が盛り上がって盾を作ってくれるがそれもすぐに破壊される。
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