無色の俺と墓守の少女と無意味な選択
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あらすじ
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「質問の意図が分からないな、何故君は俺の前に現れた」
「シエロが信じてる人だから。私の気まぐれ。無意識に意識を失って取り込まれるより、自分の意志で選んだ方が、まだ人間らしく死ねると思ったから」
「俺は死んでいない、死ぬ気もない」
「いいえ、あなたはもう死んでいるのと同意義。だからせめて死に方を選んで。彼らを説得できる時間は少ない」
「彼らか、アトラ、何か感じるか?」
『なにか、ですか。もしお答えするならば人工衛星では平和的な情景です。証拠としてマスターはシエロと並んで座っておりますが』
そうか、アトラには本当の俺たちが見えていないんだ。
「アトラ、今すぐ来い! 手遅れになる前に!」
『承知しました。……場を明るくするウィットにとんだジョークは必要ですか?』
「目の前で聞きたいから早く来い」
『可能な限り急ぎます』
やばいぞこれは、いつから罠にはまっていた。
多分これは、いやこの村そのものが、グロウスの魔術によって特殊な状態にある。
「君がグロウスなのか——」
「分からない、私自身はもう、名前すらも思い出せない。急いで、もう」
少女が苦しそうに胸を抑える。
俺の肌に感じるピリピリも更に異常を増していく。
「異物を殺しにやってくる」
路地の両脇にある家は大きく歪み、質量を無視して巨大な二本の槍へと変貌する。宙に浮いた槍はまるで電信柱の先っぽがとがったようなものだ。
俺に標準を合わせ、
「——うおおお!」
全速力で前に駆け出す。両足に力を込めるとパスカルの力も合わさって、想像よりも遥かに早いスタートダッシュがきれた。
勢いに任せて少女を抱きかかえ、すぐさまその場を転がる。
なんだ、毎回俺は少女を抱いて転がっているような気がする。どんな定めだこれは。
槍は俺がいた地面へとキレイに刺さっており、少女が経っていた場所には代わりに巨大な甲冑を着た男が斬馬刀を地面に叩きつけていた。
「——小僧、何をしたか分かっているのか」
「分かってるさ」
俺は少女をゆっくりと離して、彼女の前に立つ。
「あなた、何故私を助けたの……?」
「一個目の選択肢は大嫌いだ。俺が生きてきた世界では、大人はみんな意識もなく惰性で生きてるからな。二個目の選択肢はもっと嫌いだ。昔ならいつ死んでも良かったが、今はシエロを守りたい。だから死にたくない」
アトラは到着しない。ここがグロウスの特殊な空間の中だとしたら、簡単に辿り着けないかもしれない。
「答えは三つ目だ。泣きそうな君も助けて、シエロもミセリアも助ける。そして自由に生きてやる、せっかくの異世界なんだからな」
「わ、わたしが……泣きそう?」
「気付いてなかったのか、俺の世界では君みたいな駄々の捏ね方を、『誰か助けて』っていうんだぜ」
右腕に白い焔を宿す。
眼前にいるガドウは頭部に牛のような兜を付け、体には鈍い赤の全身鎧を着用し、ファーが付いた寂れた赤のマントを羽織っている。
そして彼の左手には湯気を放っている斬馬刀、右手には気を失ったシエロの姿がある。
「必ず助ける、シエロ」
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