均衡者見習いと鈍赤甲冑の道化話
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あらすじ
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「私はミセリアと申します。実は——」
これで何人目でしょう。
村人の数はさほど多くないので、聞きまわるのに一時間もかからない。さっき通り雨があったが、雨宿りした時間をプラスしてもほんの数時間であらかたの聞き込みは終えてしまった。
人に話しかけるのは正直なところあまり得意ではない。けれど総司郎とシエロの姿が脳裏をよぎる。
総司郎は普段は眠たそうなはっきりとしない顔だが、聖剣の話をすると諦めたような眼をしている。力ある者を信じていない目。力ある者は弱者を虐げ、絶対に手を貸さないことを知っている目だった。私にはそれが許せなかった。
人々を守るという宿命を背負い、聖剣を扱う者たちは剣を振るっている。私もそうなりたいと常に考え稽古をしてきたつもりだ。
確かにこの世界には聖剣をよく思わない者も数多くいるし、聖剣の中でも力を誇示し、弱者に辛く当たる者もいる。だがそれは極端に少なく、大多数は人々を助け、世界の均衡を守る者たちだ。
確かに総司郎とシエロがグロウスを完全消滅させようとしていることは、魔術革命時代に於いて異端だろう。だが聖剣ならばシエロの話を信じれば死者の遺体と魂を永遠に苦しめるのではなく、シエロたちに手を貸すはずだ。
だからこそ総司郎に私は証明したい。私がグロウス狩りを手伝い、シエロに鎮魂歌を歌ってもらい、聖剣を目指す者も総司郎たちの考えの力になれると。
——けれど、一向に情報が集まらないのは私としても悔しい。
三つ編みに結った黒髪を触りながらこれからの事を考えた。
集合地点である食堂へ向かうには少々早い。けれど聞く相手ももう村にはいないだろう。
「どうしよう……」
前髪を弄りながら私は思案しようとしたが、考えるほどの情報すらない。
不思議なものだ。
一体誰が、グロウスはこの村にいると報告したのかすら不透明なのだから。
出来る事ならシエロや総司郎よりも早くグロウスを見つけ、私一人で対応できるのならば、討伐したい——ところだが、今の私は腰に手軽な木の棒を下げているだけの聖剣見習いだ。
「そもそも私一人で討伐できるものなのだろうか」
グロウスは聖剣一人でやっと討伐できると聞く。仮にも聖剣見習いであるならば、私一人でも良いところまで追いつめる事が出来なければ力量不足となってしまう。
「ふっ——!」
道端で誰もいないことを確認しつつ、腰に下げた木の棒を抜き、舞う木の葉を一撃で静かに両断する。
ここ二日ほど修練をサボってしまったが腕は衰えていない。
「良いところまで追いつめ、シエロにグロウスを鎮めてもらう——それが彼女と総司郎にとって一番の安全で幸せな道——!」
二つ、三つ。
幸運切りのミセリアと学内で噂されているが、不幸が起きるシチュエーションでさえなければこの通り実力だって発揮できる。
「必ず私が聖剣見習いとして人を守る——たった二人を守れずして、何が未来の聖剣か!」
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