灰色の俺と無色透明な未来地図
初めての方はこちらから
『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
https://ncode.syosetu.com/n6321fs/
人生で生まれて初めて馬車に乗ったがこんなにも揺れる物だとは思わなかった。俺の生まれ故郷は東北の山と川しかないド田舎だが、それでも道路はコンクリートで舗装されている。
この異世界の道は踏み固められただけの道のようで、どうにも上下に揺れるし、時折左右に揺さぶられる。馬車そのものはホロではなく、木材を中心に金細工などで加工が施された貴族でも乗っているような様子だった。
案外、貴族みたいなものなのかもしれないなこいつは。
黄金の甲冑に身を包み、ライオン色のマントを羽織っている美男子、王がどうとか言っていたから、王に仕えている身分なのだろう。
馬車は二つの月明かりに照らされながら、深い森を街道沿いに進んでいく。馬車は幾つかに分かれており、前の方と後ろの方には、戦闘要員の騎士たちが乗っているようだ。隊列の中央には俺たちと、例の罪人という女が乗せられた馬車がある。
全てはアトラの生体感知のおかげで、俺を取り巻いている情報が手に取るように分かる。今もパワードスーツ<アトラス>を通してみる外界は物騒なことこの上ない。
何故周囲の生命体全てに緑色のロックオンマークが反応しているのだ。俺はミサイルでも出せるのか? それともレーザーで周囲を焼き尽くせるのか? あながち冗談じゃなさそうだ。これ以上考えるのはよそう。
今知る事が出来ない話は、考えても仕方ない。これは俺が三五年間生きてきたなかで、社会人人生を生き抜くために学んだ知識の一つだ。今どうしようもない不安や疑念に駆られ、時間や思考を無駄にしてはいけない。せめて今できることを進めるべきだ。
「それで罪人というのは、あの女は何かしたのか?」
とりあえず目の前の疑問から回収しよう。どう行動するかはその後だ。
しかし俺の言葉に黄金甲冑は、珍しく柔和な笑み辞め、僅かばかり目を開いた。
「黒甲冑様は極彩色の魔女を知らないと?」
訝しむような低い声が返ってくる。この声は営業先で何度も聞いた。怪しさや引っ掛かりを感じたときの声音だ。
「知っての通り、俺はグロウス狩り専門でね。細かいことは気にしない」
「なるほど……鬼人のような強さでグロウスを狩りつくしていると聞き及んでいましたが、達人の粋の考え方だ。強さを追い求めている者に余計な思考は不純物となる……勉強させていただきます」
黄金甲冑は顎に手を当てて納得したようだ。
しかしなんで俺は「黒甲冑」なんて奴に間違われているんだ? そんなに似てるのだろうか。
「一般的に公開されていない情報なので、知らないのも無理はないでしょう。あれほど凶悪なグロウスを狩っている黒甲冑様なら極秘レベルの話も、もしや存じているかと思っていましたが……失礼しました」
黄金甲冑は声を少し落として話を続ける。
「一か月前に一人の人物から世界に魔術が知れ渡ったことはご存じですね」
存じてねーよ! 魔術が存在するのかよ! と内心では突っ込んだが、以下にも知っている風に厳かに頷く。この世界は魔法もあるのか、現実世界じゃないことを改めて認識させられる。
「まだ魔術は開発途上の技術ですが、各国は魔術開発争いに躍起です。我が国もその一つだ」
俺たちの世界の宇宙開発みたいなものか。ロシアとアメリカの宇宙開発の戦いみたいなものだろう。
「魔術は確かに便利です。ただ実用化するにはあまりにもリスクが高すぎた」
「リスク? 魔法——いや、魔術っていうのは呪文や道具を使って火が出るとかじゃないのか?」
「ええ、民間に広がっているのはその内容です。また事象も事実です」
ですが、と彼は付け加える。
いつも最後まで読んでいただきありがとうございます。
またお時間がございましたら、次話でもお待ちしております。
一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro