極彩色の魔女と漆黒の墓守
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「シエロは……どこの子なの?」
「シエロは——」
どこの子なんだろう。今は住んでいる街も場所もない。
「——馬車で暮らし始めた」
「馬車、ふふ、楽しそう」
「すごく楽しいの! 風は気持ちいし、緑は綺麗だし、夜はそうじろうもいるし、荷物は一杯で寝にくかったけど、悪くないと思う」
「いいな、私も馬車で旅したいな」
「行こうよ、クロエ。そうじろうに話せばきっと連れてってくれるよ!」
「むり……みんな心配性だから」
「みんな?」
「うん、みんな」
みんなって誰だろう。シエロにはそうじろうしか心配してくれる人はいないかも。もしかしたら今は離れているマリアベルやミセリアはちょっと心配してくれるかも?
「わたしはここから出られない、でもそれでいいの。もうあきらめたから」
「あきらめちゃだめだよ、クロエ。シエロも出れないときあったから——シエロが力になりたい」
「ありがとう、シエロ。その気持ちだけでもうれしい」
クロエは期待していないのか、力なく微笑む。
「シエロじゃ頼りにならなくても、そうじろうなら——あ、そうじろうっていのは、シエロの旅の従者で、いっつも口煩いけど助けてくれるの、だからクロエも助けてくれると思う」
「シエロはそうじろうって人が好きなんだね、とっても」
「すき?」
「そう、お父さんやお母さんみたいに」
「お父さんやお母さん——」
会ったことないから分からないけど、好きって何だろう。一緒にいて嬉しいや楽しい事なら好きなのかも。
「シエロ、考えたことなかったけど、そうじろうの事は、すきってことなんだね」
クロエはまたふふと静かに笑った。
「うん、好きな人とずっと一緒にいたいとか、守りたいって気持ちはすごく強い。だから心配性なみんなは——」
そこでクロエは深く溜息をついた。
「ありがとう……シエロ。話せて新鮮だった。久しぶりだったから、新しい会話」
「ううん、こちらこそ。そうだ、クロエ。この辺りでグロウスか魔術をずっと研究している人見たことない? シエロずっと探してるの」
「そうね……知らないかな」
「むむむ、四面楚歌だよ……」
あれ、はっぽうふさがり、だったかな?
「シエロ……ごめん」
「気にしなくていいの、シエロたちのじじょうだから」
「じじょう?」
「うん、シエロはグロウスをみんな安らかなところに送る旅をしてるの」
「安らかなところ?」
「グロウスってずっと苦しいから、シエロならグロウスゆっくり休めさせてあげることができるの」
「それは——本当にいいこと」
「グロウスがいれば、だけど、まだ見つからなくて……それじゃクロエ、また今度なの!」
「ええ、また今度、シエロ」
もう少し他の場所も探してみよう。
再度、後ろを振り向いてクロエに手を振ってから、走り出した。お昼まではもう少し。シエロも役に立つところをそうじろうに見せるんだよ。
シエロが去ったあと、クロエはその場で猫を地面にそっと置いた。
「本当にごめんね、シエロ。ここに踏み込んだらもう二度と」
黒猫はニャーと鳴き、するっとどこかに姿を消した。
終幕 極彩色の魔女と漆黒の墓守
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro