無色の俺と鈍赤甲冑と墓守の少女
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『黒い流星と極彩色の罪人 ー異世界の魔法に対抗するにはパワードスーツしかないー』
あらすじ
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「ガ、ガドウ?」
突如雷鳴がとどろき、ガドウが巨大な斬馬刀を天空に掲げる。斬馬刀は避雷針となりガドウそのものに轟音と光が落下する。
俺は地面に倒れ伏しながらも、何とか顔を起こしてガドウの姿を見た。ガドウは撃たれつつ何事もなかったように剣を一振りし俺を見た。
「大丈夫か小僧」
そこまで離れていないのに大声である。
「あ、ありがとう」
「まだ来るぞ。紳士ならば運に頼らず、己を頼れ」
ガドウは悠々と斬馬刀を持ちながら墓を見やる。墓からはボコボコッと次々と手が生える。それでも先ほどの少女はまだ墓参りを続けている。
「危ないぞ、きみ!」
俺はありったけの大声で叫ぶが、彼女には全く届かない。墓から這い出た三流映画のようなゾンビたちは、予想以上に早い足取りでガドウへと向かう。
「はっはっは! 貴様らがグロウスか? これまで見た中で一番弱そうだ!」
あれほど巨大な斬馬刀を素早く動かし、ほんのひと振りでゾンビたち数十名を粉々に叩き潰す。
「こいつらはグロウスでもなんでもないな。寄生虫に取りつかれて動くゾンビではないか! 片腹痛いわ!」
準備運動にもならないといいながら、ガドウはその場で退屈そうに剣を振る。その風圧が俺の近くにも届くので十分に怖い。
「アトラ、来れるか?」
『マスターのご希望に添えそうにございません。ですがここぞというときならば、一撃だけ——一撃だけならば期待できます』
「分かった、ならもう少しダンジョンで楽しんでてくれ」
『ご不便をおかけします』
「お互い様さ、金も入ったし、上手い動力をたらふく食わせてやるよ」
『期待せずに待っております』
俺は右腕に意識を集中する。あのラプチャーを殴ったときの右腕。あれは俺の中にいるグロウス「インフェルノ」——通称パスカル君の力を集中した白き焔の牙。
焔を右腕に宿し、襲い来るゾンビの顔をぶん殴るとゾンビはその場で真っ白な焔に一瞬で包まれ、塵となって消えた。
こ、これは予想外に効果があるぞ!
「ほう、見たことのない技を使う小僧だ」
ガドウも俺の姿を見て感心しているようだが、俺の内心はグロウスの技だとばれたら殺されるのでは? という恐怖がある。
「小僧、ここで耐えていろ。紳士としてこんな茶番に付き合う気はない」
ガドウは赤焦げた兜の面を上げ、腰に下げた酒瓶を一気に煽った。飲み終わった瓶を地面に投げ捨て、斬馬刀を低く構える。
「うははははは!」
高らかにガドウが笑いだすと、赤焦げた甲冑も同時に鈍い赤を放ちだす。
「この光、黄金甲冑の時と同じか——」
ならばガドウは大技を繰り出すはずだ。
「グロウスはそこの幼子よ。消し炭にしてくれるわ!」
全身の鈍い赤が斬馬刀の刀身へとワインが滴るように集まっていく。徐々に徐々に。滴りはいずれ水となり、水はいずれ大河となる。大河をまとった斬馬刀は横一線に構えられ、
「だりゃああああああ!」
ガドウの気合と共に振りぬかれた。
斬馬刀から放たれた鈍色の一太刀は、次々と細かい線に分裂し、一つ一つが鋭利な糸のようになり、少女めがけて天から降り注ぐ。
一つ一つの鈍色の雨があまりに強すぎるのか、地面をえぐり、少女自身も鈍色の雨に飲まれていく。
三百六十度を包囲する雨に逃げ場はなく、中の様子も窺い知れない。
ガドウは右手を大きく上げ、指揮者のフィニッシュのように強く手を握った。
すると雨はピタッとその場に停止して、空気に溶けるように消えていく。
「——あん? 逃がしただと」
ガドウは眉をひそめ、先ほどまで少女がいた場所を睨んだ。
だがそこに少女の姿はなかった。
「くそ、魔術系のグロウスか、面倒だ」
腰に下げた鞘へ巨大な斬馬刀を装着し、ガドウは俺へと振り向く。
「じゃまだ、小僧」
「わ、わるい」
俺はすぐに脇に避けると、ガドウは目だけで俺を見て、つまらなそうにその場を後にした。
気が付くと雨は晴れており、振り返ると墓地は傷一つなく、再びそこに存在していた。
『無色の俺と鈍赤甲冑と墓守の少女』
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一刀想十郎@小説家になろう
@soujuuro